第60話 これは治療行為
ライバルと思っていた相手に、大きく溝を開けられてしまった。
それほど悔しいことはない。
このままあの女の後塵を拝し続けるなんて、絶対に許せない。
アマゾネスであるあたしは、極度の負けず嫌いなのよ。
だからあたしは、恥を忍んであの謎の赤子にお願いすることにした。
というのも、あの女が急に強くなった秘密は、あの赤子にあるらしいのだ。
「それが何で裸にさせられてんのよおおおおおおおおおおっ!?」
生まれたままの姿になったあたしは、大事なところだけはどうにか手で隠しつつ、思わず大声で叫び散らしていた。
「心配ない。これは治療行為」
「そうそう、治療行為だから何の問題もないよ」
そ、そういうものなの!?
「それにレウスは男の子だけどまだほんの赤子。恥ずかしがることはない」
「うんうん、何にも恥ずかしがらなくて大丈夫だよ、お姉ちゃん」
確かに赤子や同性の前だし、裸を見られても……い、いいのかしら?
なぜか腑に落ちないというか、騙されているというか。
だけど躊躇うあたしを余所に、ファナが「治療行為。問題ない」の一点張りで、ぐいぐいベッドの方へと押しやってくる。
結局あたしはそのままベッドに寝転がることとなった。
「すげぇ良い身体……じゅるり……じゃなかった。……今から治療を始めるね、お姉ちゃん」
「今なんか背筋がゾクってしたんだけど!?」
そんなあたしの主張も虚しく、治療とやらが始まってしまう。
すると、
「えっ……あっ……んっ……」
な、なにこれ……っ!?
身体が熱くなって……なんだか……き、き、気持ちいい……っ!?
「んああああああああっ!」
◇ ◇ ◇
「ふぅ……」
治療が無事に終わって、俺は手で額の汗を拭った。
さすがはアマゾネス。
肉付きの良い素晴らしい身体で、たっぷり堪能させていただきました。
「ハァハァハァ……こ、こんなことで、ほんとに強くなれたの……?」
息を荒くしてアンジェが聞いてくるが、その口調は弱々しい。
「うん、間違いないよ。一応、経過観察として、また診せてもらう必要があるけどね」
「っ……こんなことを、また……?」
「大丈夫。問題なければ今後は短い時間で終わるから。それよりどう? 身体が少し軽い感じするでしょ?」
「言われてみれば……」
「外で実際に確かめてみよっか。ついでに身体強化魔法も教えてあげるから」
そんなわけで、俺たちは街の外へ。
「それで、どうやったら身体強化魔法を使えるようになるのよ?」
「属性別に加工する必要がないから、身体強化魔法はとても簡単だよ。基本は体内の魔力循環を感じ取ることなんだけど、魔力回路を整えたことで、より捉えやすくなってるはず」
「魔力の循環……」
「特にアンジェお姉ちゃんは武闘家だから、普段から似たようなことをしてるでしょ? ほら、〝気〟を練ったりとかさ」
武闘家たちが扱う〝気〟。
それは体内を流れるエネルギーという点では魔力とよく似ているので、〝気〟の使い方を身に着けているアンジェであれば、自分の魔力循環を認識するなど造作でもないはずだった。
「なるほど、気ね……それなら……。……っ! もしかしてこれが魔力の流れ……?」
どうやら一瞬でその感覚を掴めたらしい。
「そうそう。それができれば、後は楽勝だね。気を集めることでその部分を強化したりすると思うんだけど、それと同じようなイメージで魔力によって肉体を強化するだけ」
「うーん、こんな感じかしら?」
「そうそう。そんな感じそんな感じ」
アンジェは地面を蹴った。
「っ!? す、凄い! 身体が軽いわ! こんなに速く走れるようになってる!?」
周辺をぐるぐる走りながら、強化された身体能力に驚くアンジェ。
さらに近くにあった大岩へ、拳を叩きつけた。
ドオオオオオンッ!
「攻撃力も上がってるわ! 半信半疑だったけど、まさかこんなに簡単に強くなれるなんて……っ!」
「ん。師匠のお陰。師匠は天才」
喜ぶアンジェを見ながら、ファナが満足そうにうんうんと頷いていた。
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