第28話 そのつもりならそうしていいぞ

「んーと、進路上に大きなオークの群れはいないみたいだから、今のうちに森を出た方がいいと思うよ」

「そ、そんなことが分かるのか!?」

「うん。索敵魔法で」

「索敵魔法って言っても、普通そんな広範囲は見れないでしょ……?」


 怪我も治してあげたし、彼らだけで森を出ることくらいできるだろう。

 四人組の冒険者を残して、俺は空へと飛び上がった。


「じゃあ、気を付けてねー」

「「「空まで飛べるのか……」」」


 唖然とする彼らに見送られながら、俺は街の方へと飛翔するのだった。


 そうしてあっという間に森を後にし、空を飛ぶことしばらく。

 俺は前方にあるものを発見した。


「あれは……」

『ワイバーンのようですね』


 空を悠々と舞うのは、全長五メートルほどの亜竜だった。


 亜竜というのは、ドラゴンの下位種と言ってもいい。

 当然ドラゴンと比べれば貧弱な魔物だが、それでも空から襲いかかってくる魔物は、防衛力の乏しい村や街にとってはなかなかの脅威である。


 危険度的にはゴブリンロードとか、ハイオークより少し上くらいだろう。


「一応仕留めておくか」

『こちらに気づきましたね』


 俺たちの接近を察知したワイバーンが、飛行の向きを変えてこっちに突っ込んできた。


『……彼我の力の差を理解するだけの知能もないようですね。亜竜などと、ドラゴンの仲間と見なされていることが非常に不愉快です』


 リントヴルムが吐き捨てるように言う。


「グルアアアアアアッ!!」


 そうこうしている間に、ワイバーンはすぐ目の前にまで迫ってきていた。

 鋭い牙が並ぶ口を大きく開いて、どうやらこちらを丸呑みするつもりらしい。


「そのつもりならそうしていいぞ」


 俺は相手の望み通りにしてやることにした。


 自らワイバーンの口の中へと飛び込む。

 そして舌の上へと着地すると同時、剣モードのリントヴルムをその舌へと突き刺して縫い付けてやった。


「~~~~~~~~~~ッ!?」


 赤子の小さな身体だからできる芸当だ。

 ワイバーンはすぐさま首を振って俺を吐き出そうとするが、ブレスも使えないドラゴンもどきでは、俺を口から出すことは叶わなかった。


 口の中から、脳天目がけて魔力の弾丸をぶっ放す。

 亜竜と言われるだけあって硬い鱗を持つワイバーンは、外からでは相当な魔力が必要だっただろうが、内側からならかなりの節約ができる。


 だいぶ魔力量が増えてきたと言っても、まだ赤子だし、前世のように湯水のごとく使えるわけじゃないからな。


 脳を貫かれたワイバーンは絶命し、真っ逆さまに地上へと落ちていった。

 その途中で回収し、亜空間へと丸ごと放り込んでおく。


 ……さすがにそろそろ容量がいっぱいになってきたな。

 もうちょっと魔力量が増えて欲しい。


「さて、それじゃあ帰るとするか」




    ◇ ◇ ◇




 その頃、冒険者ギルドでは。


「森の様子がおかしい……?」


 受付嬢イリアは不穏な報告を受けていた。


「ああ。俺たちはここ数年ずっとこの時期にオークを狩りにいっているが、明らかに今年は奴らの数が異常だ。森のあまり深くないところでさえ、幾度となく十体を超えるような群れに遭遇してしまった。しかも滅多に出ないはずのハイオークに、たった一度の探索で二度も遭遇したんだ」

「そ、そんな……」


 彼女に話をしているのは、Bランク冒険者たちで構成された、このギルドでも主力級のパーティである。

 ギルドからも信頼されていて、当然ながら彼らが嘘を吐くはずもない。


「すぐに撤退したが、俺たちでさえ、今のあの森に立ち入るのは危険だ。すぐに注意喚起しないと、何人もの冒険者たちが死にかねない」

「わ、分かりましたっ!」


 イリアはすぐさま事務員に命じて、いったん依頼を取り下げることにした。

 さらに掲示板にも、しばらくはオークの森に近づかないようにとの注意文を張り出す。


 幸いまだ繁殖期が始まってすぐのことだったので、すでに依頼を受けている冒険者はあまり多くないはずだ。

 どうにか彼らも森の異変に気が付いて、撤退してくれればよいのだが……。


 とりわけイリアは気が気ではなかった。

 なぜならまさに自分がその依頼を紹介してしまった、新人冒険者がいるからだ。


「レウスくん……無事ならいいんだけど……」

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