兄side

第22話 妹を助ける:兄

 今日も俺は、るみの配信を楽しみに、るんるんと会社から帰宅している。季節は冬になり、十二月。手袋とマフラーは必需品になってしまった。しかし、どんなに寒くても、俺の心はぽかぽかなのだ。


「ふふふ、妹がいるからな」


 ちなみに、妹には、ケンさんが実の兄だとはバレていないようだ。まだ顔の知らないケンさんは、毎日家で顔を合わせる俺なのだが。

 俺は、るみのツリッツァーに、愛のメッセージを伝えてから、家で妹と仲良くしようと最近はベタベタと追いかけている。


 が。


 俺がケンさんだと知らない妹にとっては、ただの気持ち悪い兄だろう。めちゃくちゃ嫌な顔で逃げられ続けている。


 でも、良いのだ。


 俺は自信をもって、妹を愛していると言える。


 そして、俺は愛のパワーで投げ銭を送り続け、ただいま、るみたんの順位はなんと…。



「二位!あと少しでトップだ!」



 今、帰宅中の俺は、知らない人が見たらどうかんがえても気持ち悪いおじさんだ。にやにやしながら、頭はお花畑だ。るみたんのことで頭はいっぱいなのだ。


「ふふふふふーん」


 これから、ボーナスが入ったら、更なる大きな投げ銭を送るぞと気合が入っている。仕事への気合が、人生で今一番入っているのではないだろうか。

スキップしながら、家の前に着いた俺は、鍵を出して、ガチャリと今日も扉を開けた。


「ただいまぁ」


 俺は玄関で、ただいまと呟くが、誰の返事もなくそのまま廊下を進むと、リビングの方から父さんの厳しい声が廊下に聞こえてきたので、そのまま立ち止まり、なんだ?と耳を壁にくっつけて聞く。


 なにやら、母さんと父さん、そして妹の麗が話しているようで、よろしくない空気を感じた。


「麗が怒られてんのか?ん?」


 耳を澄ますと、こんな言葉が聞こえてきた。




「冬の成績、悪いじゃないか!どういうことだ!このままじゃ立派な大学にはいけないだろ!立派になれないぞ!」

「まぁまぁ、父さん、そんなにならなくても。麗は頑張っているし……」

「申し訳ないが、父さんは知っている。お前が、男たちと話しているのを!鍵がたまたま開いていた時に、見た。あれは、仕事か?なんだ?そんないかがわしい物……」

「え、ちょっと麗、どういうこと?母さんそんなの知らないわよ!勉強がその変なことのせいで、ちゃんとできていないなら、話が違うわ!」


「うるさいなぁ!勝手に何でも決めつけて!私の人生勝手に決めつけないでよ!」




――――バシン




 話を廊下で聞いてると、誰かが誰かの頬を叩く音がした。父さんが麗を叩いたのだろうか。そう思って急いでリビングへ入ると、逆だった。




「麗、痛いぞ!父さんをブツなんて!」

「うるせえ!くそおやじ!」




 もう一発と、麗は腕を上げて父さんを叩こうとしていたので、俺はその手を掴んで止めた。

 こういうとき背が高くてよかったと、思う。振り上げた手なんて、低い身長の妹なら、簡単に上から掴むことが出来るし、喧嘩だって止めやすい。




「なにやってんだよ」



 俺が腕をつかんだままそう言うと、ぐしゃりと急に顔を崩し、妹は涙目で俺に叫ぶ。


「ちょっと、あんた、邪魔しないでよ……私は、私は、本当は自分のやりたいことに突き進みたいのよ、勉強だって好きじゃないのに、勝手にお父さんたちが押し付けているだけじゃない!嫌でも最低限頑張ってる!卒業だってできる!難関大学なんてどうでもいいのよ!」


「そうだな、じゃあ俺からも言ってやる」


「え?」




 目を丸くして固まる妹の前で、俺は全力で、自分の両親に叫んだ。人生で一番の声量だったかもしれない。声量自己記録は間違いなく、今日更新した。




「おい!そこの俺の親!何の話か、俺は知らない!何の話かはな……」


「ただ、ひとつ言わせてくれ!」





「麗はめちゃくちゃ頑張ってんぞ!なにかは知らないが、一生懸命夢に突き進みながら、勉強もちゃんとやってるんだぞ!決めつける前にちゃんと話くらい聞いてやれええええええええええええええええ」





「お兄ちゃん……」





 俺は声を大にして叫び通した。


 全力の声で。

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