第19話 妹からのお菓子:兄

 さて、今、俺は会社から帰宅中だ。周りの商店街やスーパーは、休日だからか多くの人が出入りし混んでいる。

 休日ムードが漂う通りを俺は歩いて突き破り、土曜出勤を恨んだ。


「くっ。帰宅時間がおやつの時間らへんだといっても、土曜はしんどいぜ」


 私服でクレープを頬張る女子高生らしき集団を見つけ、社畜になったらそんなのんびりとした幸せは訪れないのだぞと光線を送ってやった。

 そして、電車と徒歩で一時間弱。俺は家の前に着く。何故だか、最近は、玄関のドアを開ける前に深呼吸してしまう。いや、理由はわかっているのだが。


 妹と同じ空間へ入る事を考えると、ドキドキしてしまうのだ。


「くっ。入るか」


 俺はいつも通り、鍵で玄関を開けて家に入る。すると、リビングの方から甘い匂いが漂っていた。母さんが何かまた、お菓子を焼いたのかとリビングに入ると、妹がお菓子を抱えて立っていた。


「ただいまぁ、あ、いい匂い!ん?リビングに二人並んで、何してんの?」


 そういうと、母さんに背中を押されてこっちに来る妹がいた。


 俺は、どうしようかと汗を増やしながら身構える。これから何が起こるのだろうかと、深呼吸で落ち着いたはずの心臓をバクバクさせながら俯く妹を見つめる、すると……。


「お、お、お、お兄ちゃん、骨折、ごごごごご、めんだからああああああ」


 真っ赤になった、妹は、俯いたまま俺にそう叫ぶと同時に、両手で胸に抱えていた、作ったのであろう数個のマフィンを一気に俺に向かって、投げ込み、二階へ走り去った。


「麗……」


 俺は放心状態のまま、何が起きているか理解できないまま固まっていた。すると、母さんは言った。


「麗、廉のために、マフィン作ったのよ。骨折の件、許してあげてね」





 これは、間違いない。俺は確信した。


 妹は、俺の事を嫌いなのではない。


 そうだ、そして、その逆だ。


 きっと、俺が酷いことを吐くようになってしまったから。


「俺のせいだ……」


 俺は床に転がるマフィンを拾い集めながら、心に誓った。


「母さん、俺、麗のこと大好きだ。めちゃくちゃ応援してんだ」

「麗、勉強頑張ってるものね」


 違う、勉強だけではない。さすがにそうは言えないが、俺はもう心に決めた。


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