兄side

第18話 大好きな妹:兄

 俺は今、とても混乱している。頭の中にある、物事をしっかりと考えるために、流れに沿って泳ぐ魚たちが、逆走し、群れを離れ、バラバラになり、どうしたらいいかわからない状態だ。


 わかりにくいと思った人の為に簡単に説明しよう。

 

 俺の推している、るみたんは……。


 すぐ隣の部屋にいる、妹だと判明した。


 だから、超絶パニックなのだ。


「だめだ、だめだだめだ、やばいわからん」


 俺はこれからどうすればいいのかと、頭を自分の部屋の壁に打ち付けて落ち着かせる。


「るみたんは……麗……?」


 何故判明したのか、それは、数分前に始まった、るみたんの記念すべき、ファン千人達成配信にある。

 まず、前回の配信で、るみたんは〝次回の配信でね!〟と仮面を取る事をファンと約束したのだ。

 そして、俺は今日ドキドキしながら、一日を過ごしていた。仮面を取っても、るみたんへの愛は変わらない自信はもちろん、あった。そこは問題ない。ただ、まだ見たことのない、大好きなるみたんの顔を今日、見ることが出来るのだ。ソワソワを通り越し、いてもたってもいられず、仕事なんか集中出来やしなかった。

 

 そして、数分前、記念すべき、るみたん顔お披露目配信が始まったわけなのだが……。


 どうみても、見たことある顔だった。メイクをして、明るい髪の毛だとしても、俺は気が付いた。

 最初は、ドキドキしながら配信開始を待っていた。そして、配信が始まり、るみたんの顔を初めて見たのだが、何か見覚えのあるような、違和感を覚え始めてきてしまったのだ。


「え?ちょい待てよ、そんなはず……いや、待てよこれって……」


 目元、口元、顔の形。いくらメイクで、隠していたってわかってしまう。違和感の正体が、完全なる確信へと変わったとき、俺は叫んだ。




「ううう、うららあああああ」




 俺の頭の中は今、魚たちが暴れている。思考の魚たちが。

 俺は、とにかく落ち着こうと必死になる。

 妹だとわかってしまってからは、まともに、配信なんて見れやしない。


 気が付けば、るみたんの記念配信は終わり、部屋には静寂な空気だけが漂っていた。


 しばらくしてから、俺は落ち着いて考えた。落ち着くまでに何時間かかっただろうか。今、脳みそは、正常に働いてくれるとは思う。


「るみたんが……妹……。兄と仲良くしたい……るみたん……麗……」


 俺は、落ち着けば落ち着くほど、そんなはずがないと思いながらも、麗はもしかして、俺の事を嫌っているのではなく、どう仲良くしたらいいのかわからないままなのかと、前の配信で言っていた言葉を頭で繰り返し、ドキドキしていた。


「麗は……本当は……」


 そして、明日はまた朝早くから仕事だというのに、眠りにつくことの出来ないまま、朝を迎えてしまった。


 妹と知ってしまってからは、配信時間は隣の部屋にいると思うと、どうしたらいいのかわからなくなってしまっていたので、退勤後、どこかで時間をつぶし、会社近くの公園で二十二時半の配信を覗いていた。正直、家でどう妹をみればいいのかもわからなかったので、毎日終電で、遅くに帰宅した。

 公園から配信にはいけたものの、もう、どう見てよいかわからないのだ。コメントなんかできないままだ。

 しかし、顔お披露目から、一週間たったある日、〝ツリッツァーに勉強が忙しいので今週の配信お休みです〟とだけ、投稿して急に配信が途絶えた。


「はぁ……大丈夫かな勉強。というか、配信再開した時に、どんな気持ちで見ればいいのやら……」


 俺は頭を抱えて、毎日朝を迎えている。麗への気持ちが膨らむほど、もうどうしたらいいかわからず、眠れないのだ。


 だって……。


「俺は、妹が大好きだから……」

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