兄side

第8話 妹の誕生日:兄

 俺の名は、高井廉(たかいれん)だ。二十七歳、平凡な会社員だ。本当に超平凡だぞ、平凡すぎるほどにな。有名企業に勤めているから、お金だけはあるかもしれないが。髪型だって、黒でそのへんによくいそうな、短すぎず長すぎない感じだし、顔も普通という言葉がふさわしいほどに普通だ。普通を知らない人は、〝普通の顔〟で検索してみるといい。多分わかる。多分な。ちなみにだが、身長だけはアホみたいに高い。学生の頃は帰宅部だったのに、バレー部の人数が少ないからって、練習もしていないのに身長だけで勝てるとかなんとか言われて、何故か大会に出たことがある。もちろん、ぼろ負けだった。バレーのボールって、当たると痛いんだなと初めて知った。見た目は白くて、柔らかそうなのに、誰かのアタックが顔面に来て、めちゃくちゃ痛かったのを今でも覚えている。

 そんな俺は、彼女なし二十七年目である。三十歳を超えたら、魔法使いになってしまうので、できればそれは避けたい。いや、なんとしても今年は彼女を作らねばならない。出会いなど、無いのだが。

 そして、今日も職場から家に着いて、玄関をガチャリと開けると、妹が廊下にたまたまいたのでただいまと一言、言葉を投げる。


「ただいま」


 しかし、妹に完全無視をされ、俺の一言は空気の中に消えていく。挨拶くらいしてくれたっていいのにと、顔を顰めながら、二階の自分の部屋へ入り、息苦しいスーツを脱ぎ捨て、ラフな格好に着替える。

 俺は妹と仲が悪い。妹が中学生になる頃には、もう、まともな会話はしていない。俺もしていないし、妹もしていない。いつも、お互い、酷い事ばかり吐いている気がする。

 兄の方くらいは優しくする努力をすればいいのに、と思ったそこのあなた。その通りだろう。俺も妹が嫌になることを言っているのだから、そりゃ仲良しにはなれやしない。わかっている。わかっているが、今更どうしようもない。気が付いた頃には、お互いとがった口調になり、会話が減ってしまったのだ。今更、このスタンスを変えるために妹にべたべたしたって、気持ち悪いだけだ。


「でも、俺は、昔みたいに仲良くしたい!」


 お兄ちゃんと呼ばれていた、あの頃に実は戻りたいのだ。一緒に遊園地に出かけたり、遊びに行ったりも本当はしたい。そう、俺は、本当は、妹が大好きなのである。

 ちょっとした、とがった態度の時期が俺にも妹にも昔始まったせいで、今の仲の悪さから抜け出せなくなってしまっているだけだと思う。

 それをわかっていても、プライドが許さないのかなんなのか、俺は素直になれないまま妹が怒ってしまうようなことを、今日まで言い続けてきている。


 これでは、いけないのだ。


 わかっている。


 そこで、俺は考えた。


「妹と仲良し大作戦をな!」


 今日は、実は、妹の誕生日であるのだが、俺は幼い頃以来の妹への誕生日プレゼントを用意したのだ。


「これを、サプライズで渡すぞ」


 俺は、三万円ほどしたスメンサのバッグを、棚から出してラッピングしていく。妹が欲しいなぁなんて、リビングで呟いていたのを思い出して買ってきたのだ。


「なんて渡せばいいのかわからねぇ、ご飯の後でいっか」


 そう思い、ラッピングをし終えた俺は、机にプレゼントを置いたまま、部屋着で豪華な食事の夕飯へと向かった。

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