第6話 ケンとの出会い:妹
初めての配信から、三日が経った。学校から帰って、時間があれば配信し、寝る時間も削っていた。しかし、視聴者はちらほら来るものの、ファンはまだ、ゼロ人だ。
家族には配信しているとバレないように、メイク道具やウィッグは隠している。もちろん、配信するときの姿を見せるなんてことはしない。だって、うるさいから。勉強はどうなのとか、そんなことして、とか言われてしまうのが目に見えている。あと、あいつには嫌なことを絶対に言われる。部屋には基本的に勝手に入らないようなシステムになっているし、兄に覗かれてからは鍵を付けたので平気だ。
「絶対ファン増やして、有名になって、あっと言わせてやるんだから」
しかし、そうは言っても、ファンが一人も増えないのでは話にならない。やり方に何か問題があるのかもしれないと頭を抱えていた。
ちなみに今日は、溜まっていた宿題を何とか終わらせて、配信の準備をしているところだ。さすがに今日は宿題をやっておかないと、親に学校から連絡が入ったらまずい。そう思い、とりあえず、宿題の山を必死に片付けた。
そして、明るくつやさらなウィッグに、ロングのつけまつげ、アイプチでぱっちりにした瞼と、カラコンで大きくウルウルの瞳。ぷっくりした唇。すべてを整えて、私はひらひらの仮面をつける。
なんで、仮面を被るかって?そりゃ、まだ、メイクが完璧でないのもあるかもしれないけれど……学校の人にばれたりするのがまだ怖い。もう少し慣れて、自信が付くまでは、仮面を目元にだけして配信すると決めた。ゴージャスな仮面舞踏会で身に着けそうなおしゃれなひらひらは、しばらく取れそうにはない。
「まだ、自信がない……いや、そんなこと言っていたら、トップになれないぞ、まぁ、とりあえず、今日も配信だ」
私は配信タイトルとテーマを決めて、自分が映るようにスマートホンのカメラを向け、真ん中のライブ開始ボタンを押した。
「こんばんは、るみです!誰か今日も来てくれるかな……初心者ですが、良ければ私とお話しませんか?誰か来ないかなぁ、待ってますよーー」
しばらく、そんな感じに、一人でしゃべりながら待っていると、入室メッセージがあった。ちなみに、私は配信になると、普段の声とは大きく変えて、甘い声にするのだ。癒し系の、女性を目指し、声を研究しているところでもある。
すると誰かが私の配信にやって来た。
「ケンさん!こんばんは、来てくれてありがとう」
自分のライブ配信に誰かが来てくれると、見に来てくれた人の名前が表示されるようになっているので、私はすぐに来てくれた人の名前を読み上げた。そして、コメントが来たので、読み上げながら返事する。
「〝初めましてケンです。仲良くしてください。最近妹と喧嘩して、へこんでいます〟……なるほど。まず、ケンさん来てくれてありがとう!そして、喧嘩しちゃったの?大丈夫?」
初めて来てくれた、ケンさんと言う人は、キツネのイラストのアイコンで登場した。アイコンは、配信画面に表示されるコメントの一番左側に丸く表れる。その人の目印のようなものだ。そして、はじめて来てくれた人は挨拶をしてくれたり、してくれなかったりといろいろだが、丁寧に挨拶をしたり、コメントをしてくれる人は大事にしたい。
「あ、またコメントありがと……なになに、〝昔は仲が良かった妹と、今は喧嘩ばかりで寂しい〟……なるほど。でも、良いお兄さんじゃない?妹の事をこんなに想っていて。素敵よ?妹さんは幸せね」
だって、自分の兄だったらこんな風に思って貰えてないしありえないもの。
すると、ケンさんから大きなハートの初めてのアニメーションが送られてきた。
「え、ちょ、ケンさん!これって……」
そう、これは視聴する側が、投げ銭というやつをアイガールに送ったときに表示される華やかな動く絵文字のようなものだ。つまり、私は初めての投げ銭を貰ったのだ。
「え、ちょっと、まって、こんなにいいの?」
しかも、その初めての投げ銭は一万円くらいの大きさだった。まさかの展開に私は嬉しさと驚きを隠しきれない。
「ケンさん!ありがとう!ん?コメント来てた、えっと、〝こっちこそありがとう、元気でなかったから言葉に救われたよ〟」
「そっか、よかった」
ケンさんは相当へこんでいたらしい、私のさりげない言葉で、こんなにも大きな額の投げ銭をくれたのだ。そして、救われたと言ってくれた。とても嬉しかった。
その後も、視聴者はケンさんだけだったけれど、妹との昔の思い出話を聞かせてくれたり、素直になれなくて、悔しい想いをしていることをコメントで話してくれた。
こんなに素敵なお兄さんは、この世にはそんなにいないよと励まし、いつかまた、妹と楽しく話せる日が来るといいねと伝え、今日の配信は終わりにした。
そして、自分のファンの数と名前がわかるページを開くと、ケンさんの名前があった。これが、私の初めてのファンだった。
私は初めてファンが出来たことにも、投げ銭を貰えたことにも、嬉しすぎて舞い上がっていた。興奮しすぎた私は、寝付くことのできないまま、朝を迎えてしまっていた。
本当に嬉しかったのだ。
そして、初めてできたファンのケンさんは、のちに、私をとんでもない世界へと連れて行ってくれる人になるのだ。
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