第52話 抉るような記憶


「何か、何か便利な魔法はないか……?」


 新たな魔法にヘルハウンド攻略を見出そうと熟考し出す。


 街への被害を考えると、火属性と風属性は危険だからパス、土属性と氷属性は発動後の魔法速度が遅いからパス、水属性と闇属性は警戒されていそうだからパス……そうなると、あとは……?



 こうして熟考する俺に向けて、あの門兵が声を上げる。


「おいっ、そこの無能! いつまでチンタラやってんだ! そんな犬っころなんて、さっさと片付けやがれ!」


「!? そ、その下卑た言葉遣いは……!?」


 門兵からの野次を聞いた瞬間、あの門兵が誰かを思い出し、それに付随する出来事までも思い出してしまう。

 それは、二度と思い出したくはない出来事であり、心の傷を抉りに抉るような記憶であった。


「あなたは、あの時の……Aさん……」


 俺の中にある闘気は萎え、高速回転させていた思考も低下してしまい、とても戦闘中とは思えない状態となる。

 そして僅かに回転する思考で、他のことを考え始めた。


 何故、あの人がここに?

 確か、今朝はいなかったよな?

 もしかして、午後からの勤務なのか?

 どちらにせよ、もう会いたくはなかったな……


 そんな戦闘とは関係ないことを考えては落ち込む俺。

 そんな俺の姿にヘルハウンドは好機と見たのか、前触れもなく駆け出し、俺に襲い掛かろうとする。



「お、おいっ!? 無能、なんで動かない!? お前がやられたら、誰がその犬っころを倒すんだ!?」


 門兵Aからの野次に、俺は無反応のまま俯く。

 その間もヘルハウンドは俺の元へ向かい続けている。

 距離にすると、あと10mほどだろうか。

 ヘルハウンドはそこから更にスピードを上げ、一気に俺を噛みつきにきた。


「グァァァーッ!!」


 大口を開けて噛みつこうとするヘルハウンド。

 それでも微動だにしない俺。


「おおお、おいっ!?」


 門兵Aが不安げに声を上げた瞬間、ヘルハウンドの首は綺麗に切断され、俺の頭上を通過してそのまま地面に落ちて行った。

 すると、頭部と胴体は切り離されているものの、出血は殆どしていない。

 何故なら、ヘルハウンドが目の前まで来た瞬間に、光熱の白い刃で切断と止血を同時に行なったのだから。

 実は俯いていたのは演技であり、その後はヘルハウンドに警戒されぬよう、心の中で新たな光魔法である「白刃はくじん」を唱えていたのだ。


 ただ、全てが演技と言うわけではなく、きっちり精神的ダメージは受けている……ぐふっ!

 もし出陣前にニカナから勇気を分けてもらえてなければ、きっと立ち直れなかっただろう。


「ニカナ……ありがとう……」


 ニカナの入った御守袋をギュッと握り締め、小さくそう呟く。

 その直後、ニカナから喜びの感情が流れ込み、自然と俺まで喜び微笑み出す。すると……



「す、すっげぇー!」


「それな! マジすげぇーっス!」


 西門の隅から、今朝に俺を見下し陰口を叩いていた、門兵DとEがひょっこりと姿を現し、興奮しながら俺を褒め称えてきた。


「え、えっと……ど、どうも……?」


 今まで他人に褒め称えられたことが無かった俺は、どう対応すれば良いのか分からずに、ただただ困惑していた……

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