第40話 ゆるしの言葉


「い、今まで、無能で落ちこぼれと見下し、そして、蔑んでしまい、申し訳ありませんでした……うぅ……」


 プライドの高いエリザは相当な屈辱を受け、ポロポロと涙を流し始める。

 まさか己よりも遥かに劣る者に謝罪をするなど想像だにしなかったのだろう。

 そして今も尚、その遥かに劣る者の面前で涙する事自体が屈辱であると思っているハズ。

 その弱々しい姿を見つめていると、先程感じた意外な感情が徐々に膨れ上がって来た。


(ダメだ、セリーヌを裏切る訳には……)


 何故この感情を抱いたのかは不明だが、もしこの事を知られたらミカゲは喜び、セリーヌはきっと悲しむであろう。

 それを瞬時に悟った俺はこの感情に蓋をすると決め、エリザからの謝罪に対し返事をすることに。

 だがその直前、ニカナからあるイメージが流れ込み、その時閃いた言葉をそのままエリザへ伝えた。



「……許します。汝の全てを赦します……」


『!?』


 俺が口にした「ゆるしの言葉」に2人は驚愕の余り絶句。

 特にエリザはかなりのショックを受け、ソファへ崩れる様に座り込む。

 しかし、閃いた言葉をただ口にしただけの俺には、2人が絶句した理由が分からない。


「ギルマス? エリザさん? 一体どうしたんですか!?」


 2人からの応答は無く、少し様子を見ようと待つ事にした。そして、3分後……



「……はっ!? あ、あぁ、すまん。まさかお前がその言葉を口に出来るとは、超思わなくてな……」


(口に出来る? 口にする、じゃなくて? 一体どういうことだ……?)


 シャカが発した言葉の意味を理解出来ず、どの様な意味なのかを直接聞いてみた。


 シャカによると「ゆるしの言葉」とは、本来「神の代行者」と呼ばれる者にしか口に出来ない不可思議な言葉らしく、仮に他者が口にしようとすると口が突然動かなくなり、唱える事は絶対に不可能とのこと。

 そしてこの言葉を授かった者は、唱えた者に対する裏切りの言動や行動が取れなくなるそうだ。


「そんな言葉を何故俺に……?」


 ニカナによる教えとはいえ、その理由は不明で使いどころも不透明である。

 本当はもっと理解したいところだが、この手の類いは幾ら考えても答えは出ないと結論付け、早々に考える事を放棄した。


「まぁ、いずれ分かると思いますし。それより今は、髪色の件を優先したいんです……」


「超重大な事なんだがなぁ……まぁいい。そんじゃあこれから、お前のその黒髪について超話をするぞ?」


「はい。お願いします……」


 エリザは未だに反応を示さず、固まったように動かない。

 心配ではあるが今はそっとしておき、シャカの話に耳を傾けることに。


(一体、この黒髪にどんな秘密が……?)


 真剣な眼差しでシャカを見つめながら、話し始めるのを粛として待つのであった……

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