第92話 黄金の龍、弱者の抵抗 1
毎度恒例の歓迎会は、今回も楽しかった。楽しかったが、それと同時に辛かった。自分の周りから注がれる視線に、冒険者達の射殺すような眼差しにずっと苦しめられていたからである。まるでそう、俺が「長年の宿敵」と言わんばかりに。テーブルの席からこちらを眺めては、俺に殺気全開の視線を向けてきた。いつもは温厚なウェルナでさえも、彼女に「また、新しい仲間が増えたんだ」と伝えた時は、それに何も応えないどころか、無感動な顔で俺の顔を睨んでいた。
挙げ句は彼女達の登録を済ませた時も、ずっと黙っている始末。ウェルナは新入りの顔を見わたして、その鎌使いに「わたしも、ジョブチェンジしようかな?」とつぶやいた。「そうすれば、わたしも彼と旅ができるのに」
チアは、その言葉に溜め息をついた。溜め息の理由は分からないが、その言葉から何かを感じたらしい。
「ねぇ、ガーウィン君」
「なに?」
「これはかなり、失礼かも知れないけど。貴方って、まさか」
「な、なに?」
「『女たらし』なの?」
俺は、その言葉に押しだまった。君も、「それ」を言う? 仲間の少女達と同じ、俺の事を「女たらし」って。君は(俺の感覚では)、「それを言うような子ではない」と思っていたのに。まさか、「それを堂々と破る」とは。俺はその現実にうなだれつつも、悲しげな顔でチアの顔に目をやった。彼女の顔はなぜか、「アハハッ」と苦笑いしている。
「そんなわけないじゃない? この俺が『モテる』と思う?」
あれ、なんで黙るの? 変な事は、別に聞いていないじゃない? 俺がまさか、「女たらし」なんて。誰がどう見ても、信じない話だ。それなのにどうして?
「チア?」
ここでようやく応えてくれた。何だか分からないけど、今の事を考えていたらしい。
「ああうん、ごめんなさい。『私の思い違いかな?』と思ったけど」
なぜ、唸る? そしてなぜ、俺に耳打ち?
「たぶん、あの子」
「ウェルナさん?」
「そう。あの子、貴方の事を好きよ?」
俺は、その言葉に目を見開いた。だって、そうするしかなかったから。彼女の推測を聞いて、それに驚くしかなかったから。俺は胸の動揺を何とか抑えつつも、真面目な顔で彼女の顔を見かえした。彼女の顔はやっぱり、どこまでも無表情である。
「ま、まさか! そんな事」
「『ありえない』って?」
「う、うん。彼女とはその、ただの」
「そう思っているのは、貴方だけかも知れない。パーティーの女の子達だって、本当は」
「う、うん。でも!」
チアさんは、その続きを遮った。「そこから先は、言わなくてもいい」と言わんばかりに。
「まあいいわ、貴方が女たらしであろうとなかろうと。私の気持ちは、変わらない」
「え?」
「私も、貴方の事が好きよ?」
俺は、その言葉に赤くなった。今までに色々な女性と関わってきた俺だが、そう言う言葉にはやっぱり弱い。胸の奥に「ガツン」と響いてしまう。それが何の躊躇いもなく、相手に堂々と伝えた言葉ならなお。俺は、自分でも恥ずかしい程にうつむいてしまった。
「そ、そう言うのは!」
「プッ」
ふぇ?
「プッ」
また?
「貴方って、意外と初心なのね?」
「なっ!」
失礼な! 俺は別に……いや、結構初心かも知れない。自分では気づいていなくても、こう言う大人のカラカイには弱いらしかった。俺は顔の火照りを消して、彼女の顔をじっと睨んだ。彼女の顔はやっぱり、どこか楽しげである。
「悪い?」
「いいえ。むしろ」
「え?」
「そっちの方がいい。本当の女たらしよりはね? 鈍感な純粋君の方が好きだわ」
「そ、そう」
それは、褒めているのか? 俺がその、「鈍感な純粋君」である事に。
「ま、まあ、チアがいいなら」
「ふふっ」
笑い方が、大人っぽい。その両目を少し細める仕草にも、妙な色気が感じられた。流石は、鎌使いの少女。
「で?」
「うん?」
「みんなは、ほら? こうして、寝ているわけだけど。明日の予定は?」
俺は、その言葉に目を細めた。これから先は、真面目な話。今までの悪ふざけが消える、真剣な話である。それに冗談をつけるのは、どう考えても失礼だった。俺は自分の顎をつまんで、部屋の壁に寄りかかった。
「それは当然、新しい仕事を受けるよ? 俺達は、冒険者だからね? 冒険者が冒険を怠けてはいけない。今は、夜の休憩時間だ」
「大変ね」
「うん。でも、嫌じゃないよ? こうして、色々な人とも出会えたし。最初の仲間とは……その、あまり上手くいかなかったけど。今は、とても満ちたりている。『彼女達と一緒に頑張れば、きっと』ってさ。いつも楽しい時間を」
「幸せね」
「うん」
「私は、この戦いを『抵抗だ』と思っている。弱い者が強い者に抗う抵抗、この世界に平和を取りもどす抵抗。私はね、本当は戦うのが好きじゃないの。好きじゃないけど、誰かがやらなきゃ終わらない。この混沌とした世界が終わらない。あの憎い魔王を倒さなければ」
「俺も、そいつに自分の親を殺された」
チアは、その言葉に口を紡いだ。その言葉にどうやら、思うところがあるらしい。彼女は俺が話しかけるまで、その口を決して開こうとしなかった。
「綺麗な月ね、真ん丸の満月。金色の円が輝いている」
「うん」
「私、月が好き」
「俺も、好きかな? 特に今夜のような満月はね?」
俺は「ニコッ」と笑って、夜空の月を眺めつづけた。それが伏線になったのかは、分からないが……次の仕事は、今まで最も難しい内容だった。
「
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