得意の技能(スキル)が死んだ俺は、所属の組織(パーティー)から追い出されたが、代わりの最強技能(スーパースキル)が目覚めたので、新しい冒険生活(ライフ)を送る事にした
第75話 悪魔の気配、燃えあがる闘志 4
第75話 悪魔の気配、燃えあがる闘志 4
「抜けてきた? どうして?」
そう聞いた俺だったが、それからすぐに「しまった」と思った。今の質問はあまりに軽薄、相手の気持ちを軽んじる質問だった。彼女達はたぶん、出ていきたくて出ていったわけではない。本当にやむをえない事情があって、自分の属するパーティーから仕方なく出ていったのだ。少女達の顔を見わたしても、その気持ちが何となく察せられる。彼女達は「追放」とは別方向、「離籍」と言う名の理不尽を味わっていたのだ。俺は、「それ」を無視して…。
「くっ」
俺は、目の前の少女達に頭を下げた。そんな事しか考えられなかったが、これが精一杯の謝罪だったからである。
「ご、ごめん」
「え、な、なにが?」
そうとぼける態度にもまた、胸を痛めてしまった。
「ごめんなの?」
「だ、だって! その、嫌な事を聞いちゃったから」
少女達はその言葉に驚いたが、やがて「プッ」と吹きだしてしまった。あれ、俺の思っていた反応と違うぞ? 獣使いの少女ですら、今の言葉に「ポカン」としていた。
「別に気にしなくてもいいよ? 本当の事を話しただけだし」
「で、でも」
そこまで言った時だ。スウェンテさんが俺の諸々をいろいろと察したらしく、今までの表情を忘れて、俺の顔をじっと見つめてきた。「あなた、もしかして?」
スウェンテさんは真面目な顔で、俺の目をじっと見つづけた。これはもう、完全に気づいていますね。
「自分の属していたパーティーから追いだされたの?」
古傷の痛むような質問だった。「マティさんとの確執がなくなった」とは言え、その傷が無くなったわけでない。その質問にうつむいてしまった態度からは、その残り火が見えかくれしていた。「何かこう、理不尽な理由を付けられて?」
彼女は、俺の目を見つめた。俺も、彼女の目を見つめかえした。俺達は真面目な顔で、互いの目をしばらく見つめつづけた。
「そ、そうだね」
これは、俺。
「そっか」
これは、スウェンテさん。
「それは」
「でも」
「でも?」
「もういいんだ。その因縁も、さっき断ちきったし。あとは、それぞれに自分の道を進むだけだ」
「ふうん」
今度は、スウェンテさんの方がしんみりとなった。
「それならよかったね?」
「うん」
「あたし達の方は、そうはならなかったから」
「そっか。それは……」
残念だったね。そんな事を言える資格はない。それは、彼女達の尊厳をおとしめる行為だ。彼女達が彼女達である尊厳、その信念を挫いてしまう行為である。それこそ、悪魔のように。悪魔が人間の愚かさを笑うように。俺は彼女達の事情こそ察したが、その内容は「決して聞くまい」と思った。だが、それも要らない気づかいだったらしい。俺はそこで話を切ろうとしたが、彼女達はその続きを話しだしてしまった。
「最悪のギルドだった。最初は『あたし達全員の事を大事にしてくれたし。あたし達も、そこが最高のギルドだ』と思っていた。思っていたけど、それはただの誤魔化し。本当の姿を誤魔化すための隠れ蓑だった。あいつ等は、『クエストの報酬だけじゃ食べていかれない事』が分かると…まあ、大体の察しはつくでしょう? 夜の世界にあたし達を送りこもうとした。ゼルデとそんなに変わらないあたし達、ゼルデも十四歳くらいでしょう?」
「うん、俺も十四歳。君達も?」
「うん、あたし達全員。その十四歳にさ、笑っちゃうよね? 『身体の方はもう、女になっているだろう?』って。あたし達の服を脱がそうとしたんだ」
それに割りこんだのは、何とリオだった。リオはその手の話が元々嫌いだったので、周りの誰よりも苛立っていたらしい。
「許せない。あたしも、ゼルデと同じで自分のパーティーから追いだされたけど。そこまでの事は、周りの皆からされなかった。『自分の服を脱げだ』なんて」
「なら、ある意味ラッキーかも知れないよ? あいつ等は、『金』と『女』の事しか考えていないから。冒険者の仕事は、それを得るための糧。あたし達は一度もなかったけど、『朝に帰ってくる』って事もしょっちゅうあった」
「そんな」
「うん。だから嫌になって、そのパーティーから抜けた。パーティーの奴等からは、さんざん言われたけどね。それに脅えていたら、いつか絶対に壊れちゃう。あたし達は、欲望の捌け口じゃないんだ。あたし達には、あたし達の夢がある。『こうなりたい』って言う目標がある。あいつ等は、それを壊す怪物だった」
「怪物」
「うん。だから、新しい仲間を探している」
「新しい仲間を?」
「そう、新しい仲間を。たった三人だけで、魔王は流石に倒せないからさ。自分達の信じられる新しい仲間を」
俺は、その会話に割りこんだ。そう言う事なら、俺にできる事は一つしかない。俺は仲間の少女達を見わたして、目の前の彼女に視線をまた戻した。
「ならさ」
「うん?」
「俺達と一緒にやらない? 俺達も君達と同じ、『この世界を救いたい』と思っているから」
スウェンテさんは、その言葉に目を見開いた。それを聞いていた残りの少女達も、困ったような顔で彼女の事を眺めている。少女達は「不安」とも「困惑」とも言えない表情、複雑な表情を浮かべて、その答えをじっと考えつづけていた。
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