得意の技能(スキル)が死んだ俺は、所属の組織(パーティー)から追い出されたが、代わりの最強技能(スーパースキル)が目覚めたので、新しい冒険生活(ライフ)を送る事にした
第64話 成り上がりの先、見返すべき人 1
第64話 成り上がりの先、見返すべき人 1
さらなる高みへ、無限なる最上へ。そんな気持ちで成り上がっていった人はたぶん、その道中で挫折を味わうか、それを味わわなくても、それに近い苦渋を飲まされるだろう。自分の限界を知って、あるいは、その夢自体を諦めて。自分から自分の道を閉ざし、その先に見える光から逃げて、元の自分にすっかり戻ってしまうのだ。何もかもが分からない、文字通りの初心者に。「スキル死に」が起った頃の俺も、それと正しく同じだった。
自分がこれからどうしていいのかも分からない。そもそも、どうしたいのかも分からない。超剣士でなくなかった自分は、文字通りの無能だった。昨日まではあんなにも戦ってきた自分が、今日は何もできない素人になっている。ミュシアとの出会いは(本当の意味で)救いだったが、「それがもし無かったら」と考え……いや、そう言うのは考えないようにしよう。仮定の話は、どこまでいっても仮定の話だ。「それ」を現実として証す手段はないし、その現象を作りだす手段もない。今の現実を証す手段は結局、過去からの積みかさねしかないのだ。
「
だから、今を変えるしかない。これからの未来を変えるしかない。一つ一つの成功を積みかさねて、その先に光を作りだすしかないのだ。自分の絶望から這いあがるようにね。暗闇の底から一つ一つ登っていくしかないのである。
俺は自分の仲間を連れて、今日の仕事に挑んだ。今日の仕事は、モンスターの討伐だった。ある村に何度も現れて、そこの農作物を食いあらすモンスター達。文字通りの害獣。モンスターのレベルは決して高くなかったが、その数がかなり多い事もあって、村の人々はかなり困っているようだった。
俺は「それ」に胸を痛めつつも、真面目な顔で目的の村に向かった。村の風景は殺風景、なんて言うのは失礼か? でも、本当に地味な村だった。村の中には小さな集会所と領主(と言うか、村長)宿、村全体を囲む防壁らしき物はあったが、防壁は安い鉄材から作った物だったし、肝心な畑の周りにも粗末な柵しか設けていなかった。これでは、モンスターの襲撃も防げない。「いくら弱いモンスターだ」と言っても、相手は普通の人間よりもずっと強いのだ。それこそ、こんな柵など体当たり一つで壊せてしまう。
「なのに?」
俺は真面目な顔で、村長の顔に目をやった。村長の顔は、俺の視線に暗くなっている。
「どうして?」
「金が無いからだよ」
簡単すぎる答え。だが、深刻な問題でもあった。金の問題を抱えているのは、何もこの町だけではない。
「襲撃への備えに金を使いすぎてね。最初は、それなりの物を備えていたんだ。村の防壁も立派な物だったし、畑の柵も鋼鉄だった。でも……」
村長は、両手の拳を握りしめた。その拳で、自分の怒りを表すかのように。
「完璧なんて物は、ありえない。最初は上手くいっていたそれも、次第に通じなくなっていった。壁や柵の維持費も、馬鹿にならないからね。増築と修繕、そこに人件費も加われば、村の税収だけでは賄えなくなる。お上から貰える補助も、知れたモノだからね。こうなるのは、時間の問題だった」
俺は、その話にうつむいた。その話があまりに辛かったからだ。自分達がモンスターへの対策を怠ったわけでもないのに。彼等は最善の策を講じてもなお、その最悪の事態から脱せないでいたのである。自分の拳を握りしめる程にね。村長の周りに集まっていた子ども達も、悲しげな顔で彼の腕や足を掴んでいた。
「大丈夫です」
「え?」
「そいつ等の事は、絶対に倒す。俺の故郷も、魔王の手下に襲われました。それで」
村長は、その続きを遮った。たぶん、「聞かなくても分かる」と思ったらしい。俺に「そうか」と微笑んだ顔からは、彼の優しさがほのかに感じられた。
「この時代、幸せな人間の方が少ないよ。ワシも昔、大事な人を失ってね」
「そう、ですか」
今度は、俺の方が言いよどんでしまった。彼もまた、俺と同じ苦しみを背負っている。それが、何とも悲しかった。
「こんな時代は、早く終わらせましょう」
「ああ。だが、焦りは禁物だ。目先の平和だけを追いもとめて、本当の平和を見失わないように。一つ一つの問題を乗りこえていこう」
俺は、その言葉にうなずいた。周りの少女達も、それに「はい!」とうなずいた。俺達は自分の役目をもう一度確かめて、村長に仕事の段取りを伝えた。仕事の段取りは、至って単純。いつものように戦って、今回の獲物を葬るだけである。それぞれが、それぞれの得意技を活かしてね。その役目をキッチリこなすだけだった。
俺達は村長から害獣が現れやすい時間帯を聞き、その時間帯に合わせる形で、それぞれが守る場所を決めた。「畑の中心にはミュシア、東側には俺」と言う風に。攻めと守りの両方を補う形で、敵の出現をじっと待ちつづけたのである。
俺は背中の杖を抜いて、自分の周りをぐるりと見わたした。
「どこからでも来い。もし出てきたら、すぐに葬ってやる」
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