得意の技能(スキル)が死んだ俺は、所属の組織(パーティー)から追い出されたが、代わりの最強技能(スーパースキル)が目覚めたので、新しい冒険生活(ライフ)を送る事にした
第58話 かつての仲間、これからの友 2
第58話 かつての仲間、これからの友 2
彼女の気持ちは、凄く分かった。確かに驚くだろう。剣士だった俺がまさか、魔術師に変わっていたなんて。普通の冒険者でも、何かしらの動揺を見せてしまう。彼女の場合もまた、その例に漏れなかった。最初は俺の話をまったく信じず、自分の常識ばかりを話して、その話を「ありえない」と否めていたが、ミュシアが彼女にこれまでの経緯を話すと、自分の常識をすっかり忘れて、目の前の俺に「本当なの?」と聞きはじめた。「この子に『真の才能を目覚めさせてもらった』って?」
リオは、俺の顔をまじまじと見た。まるで俺が本物の俺でない、偽物の俺であるかのように。彼女は俺の杖に目をやった後も、しばらくは無言で杖の事を眺めていた。
「信じられない」
「だよね? でも事実、俺は魔術師になった。彼女の力を受けて、真の才能に目覚めたんだ。今までは、魂の内側に隠れていた才能を呼びおこされて」
そうは言ったが、やっぱりまだ信じられないでいるらしい。リオは能力こそ秀でているが、どこかお堅いところがあるので、自分の常識(特に社会上の常識や偏見)から外れた事に関しては、その理解がどうしても遅れがちだった。「そんな事は、ありえない」と言う風にね。目の前の現象をすぐに非常識へと変えてしまう。今回の場合も、その偏見が働いているようだった。リオは半信半疑、不安と興奮とが混ざった顔で、俺の目をじっと見かえした。
「なら、撃ってよ」
「え?」
「魔法が本当に撃てるなら。ここで、それを撃ってよ?」
俺は、その返事に戸惑った。「魔法を撃て」と言われれば、いくらでも撃てる。撃てるが、それでもやっぱり躊躇ってしまった。自分の周りには、大勢の人が歩いている。それらすべてから見られるわけでないし、それ自体が別に嫌いでもなかったが、自分からあえて目立とうとするのは、ある意味で気が引けるところもあった。周りの人間から驚かれるのは、何かしらの偉業を成せた時でいい。
俺は炎の呪文を唱えて、掌の上に小さな炎を作った。
「強い魔法は、流石に撃てないからさ。こう言うので」
え、無視? 俺が彼女に話しかけても、まったく応えてくれない。俺の掌をただ、じっと眺めているだけだった。
「ど、どうかな?」
また、無視ですか? そうですか。もう、いいです……って? どうしたのだ? 俺の顔を突然に見てきたぞ? 今までは、掌の炎を見ていただけだったのに。彼女は一瞬の躊躇いを見えてからすぐ、不思議そうな顔で俺の掌をまた見はじめた。掌の上ではまだ、俺の出した炎が燃えている。
「すごいね」
「ふぇ? な、なにが?」
「ゼルデが。あのパーティーを追いだされても、自分の道をまた見つけている。あたしの方は、それがぜんぜん分かっていないのに」
「冒険者を続けていたんじゃなかったの?」
リオは、その言葉に苦笑した。いや、苦笑しただけではない。周りの少女達は気づかなかったようだが、その目には涙が浮かんでいた。
「一応はまだ、辞めていないけど。でも……」
沈黙は、戸惑い。あるいは、葛藤か? そのどちらにしても、彼女が悩んでいる事に変わりはなかった。彼女は今、ある意味で人生の岐路に立っている。
「このまま続けていいのかな?」
「それは」
分からない。それが、俺の答えである。彼女に自分の心を傷つけられ、あの追放を笑われた。俺は彼女の事を恨みこそできたが、「諦めるな」と励ますのはもちろん、「辞めるな」と止まる権利も持っていなかった。彼女の未来を決めるのは、他でもない彼女自身。自分の罪にさいなまれながらも、そこから光を見ようとしている彼女自身である。だから、何も言えない。彼女の運命を決める一言は決して、俺の口からは発せられないのだ。
俺は、無言の姿勢を貫いた。だが、それを破るのが仲間。俺のパーティーに加わった少女達だった。少女達は俺の気持ちを察しながらも、相手の気持ちも同時に察しているようで、彼女の行いを許したわけではなかったが、彼女に一応の救いを与えた状態で、俺に「試してみればどうか?」と聞いてきた。
「彼女が自分の罪と向きあうためにも」
俺は、その言葉に唸った。その言葉はもっとも、とは違うな。これは、彼女達の慈悲である。同じ年頃の少女達が、これまた同じ年頃の少女に抱くそれの。少女達は俺と彼女の関係を分かった上で、彼女に復活のチャンスを与えようとしていた。
俺は、その厚意に胸を打たれた。それを無視すれば、俺もマティと同じになってしまう。
「ねぇ、リオ」
「なに?」
「冒険は、好き?」
その答えは、数秒後。答えの内容は、「好き」だった。
「今も昔も、ずっと」
「そっか。なら、白魔道士は?」
「つづけ、たい。あたしは、ゼルデと違って」
リオは、俺の目をじっと見た。今までに見た事のない、真っ直ぐな目を向けて。
「これしか無いから」
「そう、それじゃ! 俺達と一緒に」
「待って」
「え?」
「ゼルデのパーティーには、入れないで」
「俺達と一緒に旅したくないの?」
「違う! 自分の悪いところを改めるまでは、その」
呼吸を一つ。
「協力者にしてほしい。あたし自身が、『本当に変わった』と感じられるまで。だから!」
リオは真っ直ぐな目で、俺の目をじっと見つづけた。
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