第47話 追い剥ぎ少女、再び 4

 確かにそうだ。ある程度の予想があれば、こう事態にも備えられる。自分の真上に獲物が飛んでいたって同じ。普通なら思わずあげてしまう声を抑えて、その獲物がどう動いているのかをじっと眺められるのだ。獲物は、俺達の上をずっと飛んでいる。まるで今日の昼飯でも見つけたかのように、こちらの様子をじっと窺っていた。

 

 俺は、その視線をじっと見かえした。俺が視線を逸らせば、敵がすぐに襲ってくる。敵の数は現時点で二体だけだが、その大きさがまだ小さい事もあって、おそらくは子ども、「飛ぶのを覚えてからまだ間もない幼鳥だ」と察せられた。

 

 幼鳥の力は、そんなに強くはない。だが厄介な相手である事には変わらず、わしくらいの大きさがある事もあって、突然の急降下からくる体当たりを受ければ、多少のダメージは覚悟しなければならなかった。現に今も、俺達のところへ急降下している。彼等は幼体ながらも凶暴な、空の狩人なのだ。


「なら一層に負けられないね」


 周りの少女達も、その言葉にうなずいた。みんな、やる気満々である。


「クリナ様」


「な、なに?」


「君は、地上の警戒を。あの幼鳥はたぶん、巣立ち前の若鳥だ。親から巣立っていく過程として、狩りの訓練に励んでいる。訓練には、その獲物が必要だ」


「な、なるほど。つまり」


「そう。俺達は、その練習相手だ。巣立ちの自信をつけるための」


「冗談じゃない! 狩りの練習相手なんて」


「俺も、そう思う。でも」


 俺は、自分の結界を指さした。結界の表面には、例の幼鳥がぶつかっている。


「アイツ等程度なら、戦うまでもないようだ」


 幼鳥達の様子を見る限り。幼鳥達は結界の表面にぶつかった衝撃で、思わぬダメージを受けていた。硬い壁に何度もぶつかるような、そんな感じのダメージを。彼等は結界の力に身体を焼かれこそしなかったが、その防壁を貫く事はできなかったらしく、頭上の空にまた飛びあがっては、無感動な顔で俺達の事を見おろしはじめた。


「幼鳥の攻撃は、通らない」


「なら!」


 これは、シオン。彼女は自分の弓に矢を填めて、空中の幼鳥達に「それ」を向けた。


「今度は、こっちの番!」


 シオンは、弓の矢を放った。町の訓練所で見せた時と同じ、その残心もしっかりと守って。自分の目標を睨んだまま、真面目な顔で矢を放ったのである。


「当たるよ」


 宣言通り。矢は、見事に当たった。空気の抵抗をもろともせず、斜め上の方向に進んで、獲物の身体に突きささったのである。それも、獲物の急所と思われる場所に。獲物は彼女の矢にやられて、今の場所からすぐに落ちてしまった。


「ね?」


「うん」


 本当にいい腕だ。クリナ様は、悔しがっているけどね。幼鳥が地面の上に落ち、その衝撃で身体が結晶体に変わる光景は、「美しい」としか言いようがなかった。


「二羽目も、頼むよ?」


「お任せ!」


 彼女はまた、自分の矢を放った。矢は獲物のところに向かっていったが、それが獲物の身体に当たるところで、その攻撃が何者かに防がれてしまった。俺達の頭上に現れた、謎の影と共に。影は幼鳥の身体を守るようにして、俺達の事をじっと見おろしはじめた。


「アレは?」


 シオンは、影の正体に目を見開いた。影の正体が、「幼鳥の親だ」と気づいたからだ。


「現れたね」


「うん、ここからが本番だ」


 俺は、頭上の巨鳥を見あげた。巨鳥は今も、俺達の事を見おろしている。こちらの様子をどうやら、うかがっているらしい。攻撃の意思自体は消えていないが、つがいのもう一方を待っていたあたり、一羽でも攻めるよりも、「全員で攻めた方がいい」と考えたようだった。


「なかなかに賢い」


「そうだね。でも、私達の敵じゃない。そうでしょう?」


 俺は、その言葉にうなずいた。正にその通り。ビックバードは確かに強いが、それでも遊撃竜よりはずっと弱かった。遊撃竜を倒せる俺達が、ビックバードに負ける筈がない。俺は自分の後ろにシオンを下げて、アイツ等に自分の杖を向けた。


「コイツは、ちょっと痛いぞ?」


 そう言って放つ、例の魔法。桃色に輝く、灼熱の砲弾。砲弾は空気の抵抗を無視して、そのまま真っ直ぐに進んでいった。


「当たるよ」


 シオンも、その言葉を否めなかった。俺の言った通り、砲弾が巨鳥達の身体に当たったからである。巨鳥達は砲弾に自分の身体を焼かれて、地面の上にゆっくりと落ちていった。


「ね?」


「うん!」


 シオンは「ニコッ」と笑って、巨鳥のクリスタルを拾いに行った。だが、そこで思わぬトラブルが起ったらしい。彼女は最初こそ驚いているだけだったが、数秒後には自分の両手をあげて、俺の方に視線を移した。


 俺は、その視線に驚いた。それが伝える内容もそうだが、彼女の背後を取っていた人物にもまた驚いてしまったからだ。俺は真面目な顔で、背後の人物を見つづけた。背後の人物が、あのだったからである。

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