第18話 冒険、リスタート 1
クエストの受注。それも、当然に大事だ。冒険者には経歴が必要だし、その生活費もまた必要である。何事も、タダではやられない。冒険者には冒険者の、そして、パーティーにはパーティーの経費が必要である。新しい仲間を一人、パーティーに入れるとしてもね?
つまりは、彼女の事を入れるわけだ。彼女はもちろん、初級者のC。実績らしい実績もないので、事実上の素人である。素人に高難易度のクエストを付きあわせるのは、どう考えても危ない。誰がなんて言おうと、危険すぎる。彼女は「わたしは、だいじょうぶ」と言っていたが、そのスキルがどこまで通じるかわからないため、ここはとりあえず様子見するしかない。
彼女のスキルが、どこまで通じるか? それをしっかりと確かめて、彼女に合った仕事を選んでいくのである。彼女が決して、傷つかないように。俺と同じような思いをしないように。絶対なんて自信はなかったが、それでも自分ができる範囲の事はしてやりかった。
俺は初級者でも安心のクエスト、ブラックリザードの討伐を選んだ。ブラックリザードは、大トカゲ。人間の腰くらいある、爬虫類型のモンスターだ。身体の表皮が黒いので、冒険者達から「
「本当に大丈夫?」
「だいじょうぶ」
す、すごい自信だ。表情一つ、変えないぞ!
「隠れるのは、得意」
「隠れてばかりじゃ、モンスターには勝てないよ?」
「分かっている。だから、隠れたままで倒す」
「な、なるほど」
そう言う手もあるのか。相手には自分の姿が見えないのだから、好きなところから好きなだけ殴られる。考えようによっては、最強のスキルだろう。どんなに強い敵だって、透明の相手には苦しめられる。その運が悪ければ、一方的にやられる時もある。それだけに強い、ある意味で可能性にあふれたスキルだった。
「で、でも、やっぱり」
「そうよ!」
「ふぇ?」
な、なんだ? 誰だか分からないけど、突然に話しかけられたぞ? それも、自分と同じくらいの少女にさ。少女は剣士の鎧を着ていて、その腰にも剣を一本差していた。
「だれ?」
「はぁ?」
なんで怒る? こんなの普通の質問ではないか?
「アンタ、アタシの事を知らないの?」
「知らない」
即答。だって、本当に知らないのだから。そう答えるしかない。
「有名な人なの?」
沈黙。
「ごめん。その、俺」
「信じられない」
「ふぇ?」
「このアタシを知らないなんて! アンタ、本当に冒険者なの?」
「は、はい、冒険者です。今は、訳あって」
「ストップ!」
「はい?」
「それ以上は、言わなくてもいいわ」
「はあ?」
もしかして、他人の事情には踏みこまないタイプ?
「
何も言いかえせなかった。本当にその通りだったから。彼女が俺の顔をじっと見たのも、その反応を確かめたかったからかも知れない。
「アンタの顔を見れば、分かる。アンタは自分の魔術に自信があったけど、思った以上の成果が出せなくて、そのパーティーから『さようなら』を言われた。そうじゃない?」
「いいえ」
まったく違います。そんなのは、まったくの見当違い。今の姿から推しはかった、ただの想像でしかなかった。想像が真実と重なる事は、正直にあまりない。
「俺はその、
また、沈黙。だが、今度の沈黙は驚きも入っていった。「魔術師のアンタが、剣士なんてありえない」と言う驚き。彼女は変に笑って、俺の顔をマジマジと見た。
「からかっているの?」
「まったく」
「嘘よ」
「本当」
「だって! そんな事は」
「ありえる」
そう言ったのは、俺ではない。俺の隣に立っていた、ミュシアだった。ミュシアは彼女の前に近づいて、その顔をじっと見はじめた。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます