第17話 新規登録、謎の少年 5
あ、あれ? おかしいな? 確かに変な事は言ったかもしれないけど、その沈黙が妙に長すぎる。それこそ、周りの音が聞こえなくなる程に。俺と受付嬢との間に見えない壁ができて、それが二人だけの世界を作っているみたいだった。
「あ、あの?」
やっぱり、黙っている。俺の姿をじっと見ているだけだ。
「なにか?」
「どうして?」
「はい?」
「どう言う経緯で、魔術師になったんですか? 魔術師のスキルは、持っていなかった筈なのに?」
「それは」
う、ううん。どこから話せばいいのだろう? 「スキル死に」は冒険者界隈でも知られている現象だが、この現象は正に未知、本当に「奇跡」と呼ばれるような現象だった。魂の裏に隠れていたスキルが、(「特別な力が使われた」と言っても)その表に出てくるなんてありえない。
びっくり仰天、前代未聞な現象だった。俺が受付嬢に事の顛末を話しおえた時も、それがあまりに驚きだったせいか、ミュシアの顔をじっと見て、彼女から詳しい話を何度も聞きつづけていた。
「と、とにかく!」
二人の会話を遮った。そうしなければ、いつまで経っても終わらない。周りの冒険者達も、俺達の事をジロジロと見はじめている。
「そ、そう言う事なんで。俺は、真の才能に目覚めたんです」
自分で言うのは恥ずかしいが、それが事実なのだから仕方ない。ここは耐えて、自分の言葉を吐きつづけた。
「か、彼女のおかげで」
俺は、自分の後ろを振りかえった。俺の後ろには、ミュシアが立っている。
「だから」
「『自分はもう、魔術師である』と?」
「はい。『ここの水晶玉で確かめれば、すぐに分かる』と思います」
「ま、まあ、確かに。そうすれば、すぐに分かりますが」
まだ、半信半疑なご様子。そりゃそうだよな。俺だって、そうだったし。訝しげな目で俺を見るのは、充分に分かる。
「では」
そう言って出される水晶玉。冒険者の適職を見る、お馴染みの水晶玉だ。そこに映しだされる情報がつまり、「俺の能力」と言う事になる。
「これは!」
チラッと見られる、俺。
「そんな筈は!」
またチラッと見られる、俺。どうやら、とても驚いているらしい。
「確かに魔術師です」
受付嬢は俺の顔をしばらく見、それからミュシアの顔に視線を移した。ミュシアは、その視線をじっと見かえしている。
「貴女は?」
「はい?」
「一体、何者なんですか?」
ミュシアは、その質問に頬笑んだ。だが、それ以上の反応は見せない。ただ、それに「わたしは、わたしです」と答えただけだった。
「それが、答え。それが、真実」
「は、はぁ」
俺も、その言葉にうなずいた。そんな答えは最早、答えですらない。ただの謎かけだ。「わたしの正体を暴いてみろ」と言う挑戦。世界の神秘に挑むような恐怖。俺も受付嬢の事は言えないが、改めて目の前の奇跡に息を飲んでしまった。
「ま、まあ、そう言う事にしておきましょう。わたしは、一介の受付係でしかありませんから。この水晶玉が示す通り、彼の職業を変えるだけです」
受付嬢は複雑な顔で、俺の登録内容を書きかえた。俺の職業を魔術師に。
「終わりました」
「ありがとうございます」
「いえ」
受付嬢は「ニコッ」と笑って、何やら色々と考えはじめた。まあ、気持ちは分からないでもないけど。
「それにしても」
「はい?」
「本当に不思議ですね。魂の裏に隠れていたスキルが、引っぱりだされたのもそうですが」
「え? 他にもまだ、あるんですか?」
「ええ」
あれ、声を潜めたぞ? 周りの奴らには、聞かれたくないのか?
「冒険者の階級は、Cなんですけどね? ある一人の冒険者が……貴方と同じくらいの少年が、アーティファクトの軍団を討ちほろぼしてしまったんです。それも、
「え? ま、まさか! そんな」
魔法人形の軍団を!
「たった、一人で?」
「はい、私も直接に見たわけではありませんが。各地のギルドセンターに伝えられた情報では、『それは、紛れもない事実である』と。私も『それ』を聞いた時には、椅子の上から思わず立ちあがってしまいました」
俺は、その話に呆然とした。ありえない! Cの冒険者がたった一人で、魔法人形の軍団を倒すとか! 普通なら絶対にありえない事だ。
「くっ、うううっ」
俺は、右手の拳を握りしめた。悔しい。その理由は分からないが、なぜだか無性に悔しかった。
特別な人間は、自分以外にもいる。その周りから「天才」と呼ばれる人間は、自分が思う以上にずっとたくさんいるのだ。
「舐めちゃいないな」
自分の才能に甘んじてはいけない。才能は甘えるモノではなく、活かすモノだ。
「ミュシア」
「なに?」
「新しい目標ができた」
「どんな目標?」
「そいつを超える。そいつを超えて、この世界も救う。アイツらを見かえす事も」
「そう」
「うん!」
俺は、受付嬢の方に向きなおった。それに受付嬢は驚いていたが……まあ、そんな事は気にしない。
「すいません」
「はい?」
「その冒険者は? 冒険者の名前は、なんて言うんですか?」
「はい。確か、『フカザワ・エイスケ』と」
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