第16話 新規登録、謎の少年 4
ギルドセンター、か。いつもは事後報告でしか来ないところだけど。今回の場合は、違う。仕事の受注でもなければ、それの報告でもない。「所属のパーティーから追い出された」と言う、追放の報告だ。
俺達、冒険者が最も恥じる報告。文字通りの羞恥。周りの冒険者に気づかれたら最後、即失笑の不名誉だ。それを今、なそうとしている。周りの目をチラチラと窺って、それからばれないようにゆっくりと歩き、ここの受付に行って、そこに脱退書を持っていくのだ。
「本当に最悪な作業」
そう思わずグチってしまう。窓口の受付嬢は、それに「え?」って驚いていたけれどね。今の気持ちがどん底まで落ちていた俺には、どこか遠くから響いてくる声にしか聞こえなかった。
俺は死んだような顔で、窓口の受付嬢に脱退書を渡した。
「お願いします」
一瞬の沈黙。それからの「はい」と言う返事。これは、相当に驚いているようだ。A級の冒険者がまさか、自分のパーティーから追いだされるなんて。話したくても、黙らざるを得ない。普通なら「クククッ」と笑われても仕方なかった。
「
「そう、ですか。『スキル死に』が起って?」
「はい」
「それは、災難でしたね?」
温かい言葉だ。でも、今の俺にはグサリと突きささる。彼女の優しさは、どんな刃物にも勝る刃だった。彼女は「それ」を分からないでいるのか、穏やかに笑いこそしても、自分の言葉を改めたりしたり、あるいは、その表情自体も変えたりはしなかった。あくまでも、俺に対する同情を忘れない、ずっと親切な態度を保ちつづけていた。
「ご心中をお察しします」
「ありがとうございます」
そう答える自分が、悔しかった。目頭の方も熱くなって、身体の方も震えている。本当に最悪な気分だった。
「情けないでしょう?」
「なぜ?」
「『なぜ?』って、それは……」
「挫折は、成長の材料。これはたぶん、貴方にとっての
俺は、その言葉に目を見開いた。まさか、そんな事を言われるなんて。「なっ!」と驚く事はできても、「はい」とうなずく事はできなかった。
「そう、ですね。確かにそうです。俺は」
「頑張ってください」
「え?」
「微力ではありますが、影ながら応援しています」
「あ、う、は、はい。ありがとう、ございます」
その返事は、笑顔。それも、飛びきりの笑顔だった。それを見た俺が思わずドキッとしてしまう程の、そしてなぜか、ミュシアが「ムッ」としてしまう程の。彼女は心から、俺の事を応援していた。
「あ、あの?」
「はい?」
「どうして、そんなに? 普通は」
「私、ちょっと変わっているらしくて」
「変わっている?」
「はい、普通の感覚から。周りの同僚には、よく笑われているんですけどね?」
「そう、なんですか?」
「ええ」
彼女は「ニコッ」と笑って、脱退の手続きをやりはじめた。脱退の手続きは、すぐに終わった。書類自体はまったく問題ないし、除名手続きもそう難しいモノではない。自分の名前に横線が引かれ、そこに「除名」を意味する印が押されて、その所属がフリーになるだけだった。あらゆる責任が、自分一人だけに課せられるフリーに。
「終わりました。貴方は、今から
「はい」
「適職を見ますか?」
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫?」
「はい。今の俺は、見ての通り魔術師ですから」
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