第42話 ちぐはぐな違和感
「同じ、かな?」
僕は、首を傾げた。
週明けには新学年が始まる。つまりは学校に通わなければならなくなる、夏休みも差し迫ったその日。
蓮華を中心にゼンとノリで、京の辻々にある結界の補修を終えた次の日、体の修復を終えた僕は、この学校への潜入チーム5人全員で、例の2重魔法陣のある場所を訪れていた。
僕が最初に壊したもの以外に残り3カ所。
それらは、蓮華による強固な封印が施され、結界が作動してない代わりに、下の魔法陣も凍結されていた。
蓮華は僕の体に沿うようにうっすらと結界を張り、僕の霊力が漏れないようにコーティングすると、5人がすっぽりと入るドーム型の結界をさらに張る。
簡単にやってるけど、種類の違う結界だ。世界広しといえど、これだけのことが出来る能力者は片手に納まるだろう。
さらに、蓮華は魔法陣を封印していた結界をほどいた。
ゆっくりと、閉じ込められていた術式が作動を始める。
上の結界術式のみが一応は作動しているように見える。
が、下の魔法陣がそこから待機状態に入ってるのも、よく見れば感じられる。
ここで僕の霊力が充満すれば、一気に発動し、この前みたいに周囲のあやかしを呼び寄せてループが始まるのだろうか。
蓮華がコントロールして僕に結界コーティングをしている限り、その心配はなさそうだけれど。
だけど、なんだろうか?
この前と同じ気がしない。
なんだろう?
なにか違う?
色?
「飛鳥、違う、というのは、術式、ですか?」
僕の思考を読んだのだろうノリが話しかけてくる。
「どうだろう・・・」
違う、というのは、・・・違和感、でしかないけど・・・
「あんたたちはどうなの?」
蓮華が、ノリとゼンに言った。
「あんたたちも飛鳥といたんなら、同じかどうかわかるでしょ?」
二人は顔を見合わせる。
「すみません。わかりません。あのときは僕はあのループしている霊体を確認するのでいっぱいいっぱいでした。」
「俺も、です。飛鳥ほど注意がなってなかったです。」
「使えねー。」
これ見よがしに淳平が言った。
二人はチラッと彼を見るけど、何かを言い返すことなく、軽く頭を下げた。
最近は、ずっとこの調子だ。
どうも、二人はけっこう凹んでるようで、それに蓮華と淳平が追い打ちをかけている。どうせこの二人は機構の中枢に入るから、それなりに取り込んだ方が良い、なんて言ってた淳平が嘘のようだ。
「で、飛鳥、どうなの、何が違うのよ。」
二人を完全に無視することに決めたような蓮華が、僕に言ってきた。
「たぶん、術者が違うんだと思う。ていうか、この前見せられた魔法陣とも違うよね。」
「生憎とこの段階で見るのはやばそうだから、そこまでは分からないな。」
「ニーチェが来たのはここじゃないわ。だからこの前見せたのは別の場所のよ。」
「とりあえず剥がせるか?2枚ともいったん剥がして、持ち帰るか?」
「下だけ抜けない?一から描くの面倒だし、上の結界術式は固定されてるでしょ?」
結界は道に設置された道標に組み込まれていて、それを定期的に修復、補修することにより、京の結界は守られている。
それは一見目に見えないけど、霊力で描くだけではなく、うっすらと石に彫られているんだ。
淳平がいう2枚剥がすというのは、その石に描かれたものも削ぐということだ。ただし、さらに再構築するには、石を掘る必要がある。それを蓮華は嫌ったみたいだ。
2枚目は、この掘られた線の下に重なるように置かれた特殊な紙に描かれている。この紙は霊的な加工がされていて、魔法陣やお札なんかを記入し霊的な焼き付けを行えば、物質を透過する。いわば人工的な霊体になるという紙だ。
そもそもあやかしや霊というのが見えなかったり、物質をすり抜けるというのはよく知られているが、それと同じ次元の力なら、透過しない。僕ら霊能者が対峙するのは、そういったものと同じ次元の力を行使して戦う、といったところ。互いが互いに普通に干渉するほどに近似の次元であれば重なり合いも多く、僕らの目には、通常の人間とあやかしの存在感は変わらない。
このどちらにも干渉するような物質が、さきほどの魔法陣に使われる紙で、この手のものは太古より存在する。今はその流派問わず使える安価な市販品(といっても霊能者たちの間で、だが)も出回り、ここにある魔法陣を記載した紙もその手の一種だ、と僕らには見えた。
この手の道具が使われているのは、先の調査で判明していたのであろう、紙を収納する特殊な道具も用意しているようだ。
そもそも霊的親和性が高く、記された術式は小さな霊力で発動する。だから持ち運び要の道具も充実している、というわけだ。
ちなみにゼンが使用したお札は、この劣化版。
霊力を込めやすい単なる紙だ。
当然、力を簡単に使えるのは前者。
器用な術式を組んで操っていたが、あの紙で充分な力が発揮できるのは、高い能力を持つ証拠。
蛇足で言えば、貴船の神が僕に描き込んでる召喚の陣。
あれは、紙なしに直接僕の霊体に描き込んでいるのだろう。
何らかの条件が整えば発動し、その時は物理的に見えるかもしれない。
ちなみに陣や術式というのは別に紙に書く必要は無い。
ただし、これらを描いて発動するような能力者の場合、その場で描くとなるとどうしても時間がかかるし、まぁ、手間がかかる。戦闘中にこの時間を短縮する手段として、紙に描いておく、というのが札などを使った戦い方。また、空中に式を描くと拡散が早い。長時間固定するには、物理的に記す必要がある。そのために、紙や石に術式を描くという技が用いられる。
僕は、蓮華のリクエストの通り、下の紙を抜き出すことにした。
蓮華じゃないけど、上の術式をちゃんと剥がすとなると、石を削がなきゃならない。正直僕も面倒だ。
下の紙は、一見道標に閉じ込められているように見える。
けど、上の術式を内包する仕様のためか、道標より一回り大きい。
これを掴んで引っ張り出せば完成だ。
すでに術式=魔法陣が描かれているから、力のある他の流派の人間が触ると、何が起こるか分からないし、現に霊力が流れてしまっている現状ならなおさらだ。その良い例が先日のゼン、といったところ。ここにいる僕以外の全員に、その可能性はある。
「いったん飛鳥の霊力で全部魔法陣を包んでみて。そう。それからゆっくりと引き抜いて。」
蓮華の指示の下、僕はそうっと紙を引き出した。
うん、やっぱり違う。
僕は霊力で包んだまま、みんなに魔法陣を見せた。
「ほんとだ、違うわね。」
「これ、素人か?」
「・・・・」
「・・・・」
まあ、この前の魔法陣も違和感なかった二人にはわからないだろうけど、やっぱり前回僕が壊したやつとも感じが違うし、蓮華が持ち込んだものとも違う。
でも、そうだ。淳平が言うように素人が描いたのだとしたら・・・
誰かがお手本の通り見よう見まねで描いた魔法陣で、基本は合ってる。 だけど、よく見れば正確じゃなくて、発動はするけど、威力が落ちるし、また、変な動作をするかもしれない、そんな感じ。
なんか、これだけの精巧な魔法陣を、へたくそに描くってどういう状況だろう、と気持ち悪さを感じつつ、魔法陣を特殊な封じの力を付与された収納袋へ。
そして、蓮華が、結界の修復を簡単に済ませ、次の現場へ、僕らは向かった。
次に行った現場は、ニーチェが念写をした場所だった。
念写通りの魔法陣を取りだして、また封じの袋へ。
三カ所目。
やはり同じ。
誰か素人が描いたような魔法陣。
他の3つと違う者が描いたであろう、それ。
僕だけでなく、ザ・チャイルドの2人は僕と同じ感想なのだろう。
何かちぐはぐな感じ。
プロの使う道具を使い、プロの技を使い、高度な魔法陣を使用・設置する技能。
にもかかわらず、まるで魔法陣を理解していない素人作成の魔法陣。
たった4つだが、すべて同じ術。にもかかわらず異なる魔法陣の作成者。
なんか気持ち悪い。
釈然としない、そんな感じ。
これ、最近感じなかったっけ?
この手の違和感?
僕は、先日のオリエンテーリングを思い出した。
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