第26話 新旧の・・・
争う声で目が覚めた。
目が覚めたのに気づいたのか、個室スペースの扉が開けられる。
ノリだ。
ジェスチャーで、ダイニングに行くように合図してきた。
仕方なく、もぞもぞと起き上がり、部屋を出る。
想像通り、そこには蓮華も淳平もいて、淳平とゼンが睨み合っている。
寝起きで、面倒なのはやめて欲しい。
「貴船へ行ったんだって?」
淳平が不機嫌な表情のまま、僕を見るなり言ってきた。
確認しなくても、迎えに来たのは淳平だろうに。
「鞍馬に挨拶に行ったから。」
「鞍馬、ね。」
蓮華も不機嫌そうだ。だから置いてっただろうが。ありがたがれよ。
蓮華はムッとした顔をしたが、それでも、椅子から立ちあがらなかった。その目も不快そうにゼンに向けられている。僕に絡むより、重要なことがあったらしい。本来なら喜ぶところだけど、なんだか不穏な雰囲気だな。
「あんた、札貼られたんだって?」
「え、ああ、まぁ。」
「ふざけんな、まったく。」
吐き捨てるように淳平は言った。
そうだった。淳平はことさらに、化け物どもに施す術を自分たちに施されることを嫌がる。ゼンがやったのは、普通なら当然霊相手にするけど、彼らが人間にも同じように札を使うということは知っていた。だからそこまで気にしてなかったし、淳平だって分かってる、そう思ってたけど・・・
「お前に使った札な、人間に使えるもんじゃない。」
首をかしげる僕に淳平が、そう言った。
「だからそれは言ったはずだろう。人間に使えないのは、霊力が少ないからだ。飛鳥の霊力なら問題ない。」
「失敗したらどうなった。」
「飛鳥ならすぐに治る。」
「ちげえよ。てめえがどうなるかって言ってんだ。」
「そりゃ、飛鳥の霊力だ。ただじゃすまない。だけど、だからこそ飛鳥だって注意する。修練という意味じゃ、まずまずの方法だろ。」
「もし失敗したら?分かってんのか?失敗して、お前に跳ね返ってお前が死んだり再起不能になってみろ、苦しまなきゃならないのは飛鳥なんだよ、分かってんのか。てめえがどんだけすごい術者か知らんけどな、実践になれば、まさか、は絶対ある。100パー大丈夫と安全パイとったところで、まさか、は起こるんだよ。そんなことも知らない頭でっかちのガキが、うちの飛鳥を分かったように語ってんじゃねえよ。」
「ちょっと待ってください、淳平。確かに僕たちは無茶な術で飛鳥を外に連れ出したかもしれない。でも、それを言うならあなたたちが過保護すぎるんじゃないですか?あんたたちが守りすぎるから、町歩きに馬鹿みたいな霊力使って、近寄るモノ皆殺しですよ。意味分かんないのは、これを受け入れるあんたたちじゃないですか?60年も70年も時間があって、それこそ意味が分かんないですよ?」
その後も、3人の言い合いは続く。
どう考えても堂々巡り。
終わったことにどうしてそんなに真剣になれるんだろ。
渦中の僕が思うことじゃないけど、どうでもいいのに。
そうやってボーっと彼らの言い合いを見ていたら、蓮華がつかつかっと歩み寄って、僕の頬を両側に思いっきり引っ張った。
「イーッ!!」
引っ張られて痛いも言えずに、思わず叫んだ僕に、みんな驚いて視線を寄こし、言い争いが止まった。って、これが狙いかも知らないけど、蓮華、他にやり用はなかったのか。僕は両頬をさすりながら蓮華を睨み付けたけど、満足そうに意地悪く微笑んでいる。
「ま、いいか。それより貴船だ貴船。お前何かされてないか?」
「え、別に・・・」
「いいからちょっと来い。」
手招きされて淳平のところへ行くと、乱暴に上着がはぎ取られた。そのまま、くるっと反対側を向かされる。
「ほらやっぱり!」
叫びながら、背中をバシッて叩かれた。
なんだよ、もう。思ってたら、そのままもう一度反対側にくるっと回される。
ノリとゼンが背中を見て、息を呑む気配がした。
「これ、高龗神が?」
「だろうな。」
「何かあるの?」
僕は背中なんて見えないから、おそるおそる聞いた。
加護されても祟られることはない、と思いたいんだけど。
「魔法陣だ、多分召還型だな。」
「魔法陣?」
「調べるか?」
「んー・・・いやいい。僕が本当に困ることはしないと思う。機嫌が良かったから、多分加護かなんかのつもりでしょ。」
「そっか、ならいい。」
「ちょっと待ってください。いいわけないでしょ。」
「本人がいいって言ってるからいいんだよ。どっちが過保護だ。」
「いや、おかしいって。とにかく、機構には報告しますからね。」
「勝手にしろ。」
なんだか、よく分からないけど、とりあえずお開きなのかな?
僕の背中を写真でとってるみたいだけど、機構に送ったらまた面倒になるかも、なのにな。
写真とか、報告とか、そんなのは、後ろの二人にまかせるしかない。そこら辺は、僕らザ・チャイルドにはアンタッチャブルだ。どうしようもない。
ところで、なんかあったかと・・・
そうだ。鞍馬だ。
「なぁ、ちょっと面倒なんだけど、中等部の生徒会に鞍馬の頭目の娘がいるらしい。多分、僕らの素性ばらされてるぞ。」
「やっぱり、か。」
「なんだ知ってたのか。」
「知ってた、というよりオリエンテーリングの件で、ちょっとね。」
「オリエンテーリング?」
「9月から新入生が入るだろ。中等部は、新2年生が新1年生を引率する形で全施設を巡るらしい。ゲームなんかを加えつつ、点在する施設を案内するというイベントだ。」
「新2年って僕もか?ムリだぞ。」
「分かってるわよ。編入生もちょうどいいからって、このオリエンテーリングに参加するようにってことみたい。編入の2年は生徒会が案内を担当することになったわ。その生徒会の中に倉間葵の名があった。」
「だけど、ここエスカレーター校だろう。なんでそんなイベント・・・」
「幼等部、小等部は、こぢんまりと1つの校舎にまとめられてるのよ。実質中等部と高等部がこの点在してる施設を使うわけ。あんたの言うとおり、高等部はほぼエスカレーターだから、外部組も同級生にまかせておいて問題なしということで、中等部の新入生向けのみオリエンテーリングがあるってわけよ。」
「だったら編入生だって、周りに頼めるじゃん。」
「どうやら、生徒会からの提案、らしいわよ。ちなみに編入生は飛鳥1人。」
「まじか。それ断れないの?」
「無理だな。一応俺たちも強引に飛鳥と同行できるようにねじ込んだ。倉間だけじゃなくて、きな臭い名前が他にもあったからな。新任の教師も案内について行かせてくれっていったら、普通に生徒会のところに振られたよ。」
「それは、良かった、のか?僕たちの関係は秘密だろ?」
「いや。一応面識があることになってる。資料は渡してるはずだが?」
「あ・・・。」
「たく。明日までには頭に入れといてくれよ。お前は田口飛鳥、タンタンの甥っ子ってことで戸籍を作ってる。タンタン絡みで俺らとはちょっとの面識あり。小学校からこの春までロンドンで暮らしていたが、日本の教育を受けさせたい両親の願いで全寮制のこの学校に入学。あっちではケンブリッジ郊外在住だ。OK?」
「あ、うん、地の利はあるからケンブリッジなら大丈夫。言葉はクイーンズでいい?日本語は?」
「親とは日本語、学校ではクイーンズ。これがあったから、ノリとゼンだ。クイーンズ訛りだろ?」
「言われてみれば。て、1ヶ月も前に決まってたんなら教えろよ。」
「1ヶ月前に言って頭に入れてくれるお利口さんなら言ってるよ。」
チッ。
そんな会話をしている僕らを、いつの間にかノリとゼンが見ていた。
「へぇ、そんな風にキャラ付けするんだ。」
「何が?」
「いや、僕らは自分として入学するからいいけど、飛鳥は別人になるんだろ?なんか入ってた資料見たら、今までの生い立ちとか、これまでの人生が物語になってるみたいだしさ。飛鳥とか、そういうの苦手そうだと思ってたけど、どうするんだろうって、ちょっと心配してたんだ。」
「学生の会話なんて、上辺だけだろ。ID資料なんて読み込んだって、実体験なきゃ不自然だよ。日常生活ににじみ出る所だけ分かってたら、実体験から引っ張った方が間違いが少ない。」
「伊達に経験してない、か。」
「語学は大丈夫なの?」
「それこそ、伊達に経験してないさ。いろんな国の言葉を最低ネイティブで、いくつかは日本語訛りや韓国訛り、OZ訛りにフランス訛り、なんてのもたたき込まれたよ。今回は子供のスラング混じりのクイーンズが話せる日本人だから、かなり楽。」
「なんで帰国子女なんだ?」
「さあ?でも僕がほとんど今の文化に関心ないからじゃない?アニメやアイドル、流行り物なんて分かんないから、それなら外国にいてたって言った方が会話しやすいだろ。どうせ、その程度が上の決定理由さ。」
「そんなもんか。さすがにこういうのを見せられると、自分が実戦経験のない頭でっかちだって思い知らされるな。」
さっきの言い合いにたいする当てこすりなのか、反省なのか、ゼンはちらっと淳平を見ながら、そんな風に言って笑った。
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