328.二人の母

 『決戦の日』まで後、四日。


 本日はアカバネ島で大きな祝い事が開かれていた。


 多くの人々が避難している中、皇帝と女王からの圧力――――だけではないけど、僕の結婚式・・・が取り行われた。


 多くの知人から祝福され、僕の五番目の奥さんにレイラお姉さん、六番目の奥さんにヒメガミさんと結ばれた。


 今回の誓いのキスでは気絶せずに済んだ。


 これも日頃から…………。



 夜は大きな宴会が開かれた。


 四人の奥さん達からも祝福され、僕達は楽しい時間を過ごした。



 その日の夜。


 女王様が僕の元を訪ねた。


「えっと……女王様――――「お義母さんで良い」、お、お義母さん……」


「くっくっ、わらわが『おかあさん』と言われる日が来ようとは……それはそうと、ヒメガミの旦那になってくれた事、母親として感謝するぞ」


「いえいえ! こちらこそ! ヒメガミさんのような素晴らしい女性と結婚出来て、とても嬉しいです!」


「そうじゃろう、他の五人も素晴らしいが、わらわの娘も中々良い娘じゃから……幸せにしてやって欲しいのじゃ」


「も、勿論です!」


 今でもどこかお義母さん女王様って、怖いイメージがあって……。


 オロオロしている僕を見たお義母さんはふふっと笑っていた。


「それはそうと、クロウや、其方に話しておかねばならない事があるのじゃ」


「ほえ? は、はい、どうぞ?」


「うむ、其方が『天使の試練』を乗り越えたと聞いたが、誠か?」


「は、はい」


「……もし良ければ、見せてはくれぬか?」


「分かりました」


 僕は右手の手の甲を前に出した。


 そして、念じる。


 『忍耐の証』を発動させる。


 右手の甲に『天使ミカエルの模様』が浮かんだ。


「うむ、間違いなく『天使の試練』を打ち勝った者じゃな…………ありがとう」


「いえいえ!」


「お礼にわらわの過去について教えよう」


「お義母さんの過去?」


「そうじゃ、わらわはアマテラス神を崇める一族『鬼神族』なのじゃ」


「『鬼神族』……ですか?」


 確かにお義母さんにも、ヒメガミさんにも、ナミちゃん、ナギちゃんにも、頭に角が生えている。


 あの角は『鬼族』である事を証明しているだろう。


 でも『鬼神族』という言葉は初めて聞く。


「『鬼神族』は昔からアマテラス神を崇めておった。しかし……『魔王』によって真っ先に滅ぼされた一族なのじゃ」


「『魔王』…………」


 恐らくだけど、お義母さんが話している『魔王』は、僕が倒した『魔王前世の父』ではないだろう。


 なにせ、今世に生まれてまだ一年だったらしいし、そもそも生まれたというよりは……そのまま移動・・して来たように見える。



「そんな我々一族は『魔王』を倒すべく、大きな神術を使ったのじゃ、それがわらわを長きに渡り眠らせたのじゃ……来る『魔王復活』の時の為に」



「『魔王復活』の時……」


「我々一族が真っ先に狙われ、壊滅状態になっておったが、それを助けてくださったのが、ミカエル様とシエル様達じゃった。あの時、助けがなければわらわは生きてはおらぬだろう……」


 何となく、リッチお爺さん達と知り合いな気がしていたけど、そうだったんだ……。


「それからわらわは必ず『魔王』が復活すると踏んだのじゃ。だから大急ぎ子を作り、力を蓄えたのじゃ……それが結果として、こういう形になって、わらわは本望じゃ。今度こそ……わらわの一族『鬼神族』の恨みを晴らしたい!」


 お義母さんもずっと『魔王』に殺された一族の事を心の中に仕舞って生きて来たんだ……。



「今日は、其方にこれを渡そうと思ったのじゃ、きっとこれからの戦いの為になるじゃろう。わらわの一族が授かった三種の神器。そのうち一つはわらわが、そしてもう一つはナギが持っておる。最後の一つは……クロウティア、天使を受け継ぎし其方に持って貰いたいのじゃ」



 そう話すお義母さんは僕に不思議な鉱石で作られた美しい短剣を渡してくれた。




 ◇




 ◆フローラ◆


「ねぇ、セナちゃん」


「は、はい! お義母様」


「ふふっ、またそんな呼び方して……あのクロウくんのお嫁さんでしょう? もっと楽にしないと」


「は、はい…………」


 クロウくんの二番目のお嫁さんであり、私の息子のお嫁さん。


 いつも変な仮面を被っている、ちょっと不思議な子。


 でもその理由・・を私は知っている。


 うちの息子の圧倒的なまでの魔法の力で、幻術が掛かっているとの噂の仮面。


 確かに、いつも変な仮面を被っていても、誰も気にしない。


 それが当たり前・・・・かのように。



「ねぇ、一つ、私の話を聞いてくれない?」



「はい? ど、どうぞ?」


「ふふっ、私の自慢話よ?」


 セナちゃんは困ったように苦笑いした。


 ふふっ、その顔も可愛いわね。



「私にはね、自慢のが一人……いるの」



「えっ?」


「ふふっ、彼女はね……自分が好きな人を守る為に、自分を捨ててしまったの」


「……」


「それを承諾した私も旦那様も……本当にダメな親だと、今でも思っているわ」


「そ、そんなこと……」


「でもね。今でも彼女は世界の何処かで困っている人を助けている気がするの。自分が愛した人を守る為に守った世界を、今でも沢山の人々の助けているに違いないわ」


「…………」


「私の……自慢…………の……娘…………よ。だから……この戦いに……参加しているなら…………どうか、無事で……」


「お義母様……」


 セナちゃんは泣いてしまった私を優しく抱きしめてくれた。


 彼女の涙と共に。

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