307.城下街潜入

「あ、あの……本当に人間様ですか?」


「そうですよ? その質問、これで十回目ですよ?」


「あ、ああ……これは申し訳ございません……」


 野営地のモンスター達を風属性魔法で一掃して、その中にいた魔族さん一人にお願いして、北の町について聞いてみた。


 最初は「ば、化け物!」とか言いながら後退りしていた。


 化け物だなんて失礼な!


 タマモとソフィアがちょっと威嚇すると、すぐ気を失った。


 すぐに『エクスヒーリング』で回復してあげたんだけどね。



「え、えっと……姉御?」


「僕は男です!」


「え!? …………お、親分でしたか……」


「お、親分……そんなの初めて言われました。それはそうと貴方のお名前は?」


「おお、そうでした。俺はペイルと申します」


「ペイルさんですね、僕はクロウです」


「ペイルさんだなんて、呼び捨てにしてください! クロウ親分!」


 なんともノリの軽い魔族さんだね。



「それで親分は北の町が知りたいと言っていましたね?」


「う、うん。北に大きな街が見えていたから」


「はい、あれは魔王様が住んでいる『魔王城と城下街ダーク』という街なんです」


「魔王城……地下街ダーク……」


「そうです! それで親分は何しに向こうに?」


「ん~、僕達の大陸がモンスターの大軍に襲われていたから、それをなんとか止めたくて」


「あ~、あれは魔王様のモンスターの大軍ですね。既に親分が潰しているから暫くは送れないですよ?」


 ペイルは既に全滅しているモンスターの大軍を指差した。


「まあ、元凶を潰さないと終わらないからね」


「そうですね……あんな感じに潰さないとね……」


 遠い目で全滅しているモンスターの大軍を見つめるペイルだった。



「それはそうと、あれは魔王様が送ってくるの?」


「そうですね、顕現なさった魔王様の能力らしいですよ?」


「顕現した魔王?」


「ええ、魔王様が顕現したのは、去年の話なんですよ」


「えええええ!? もっと前からいたんじゃないの?」


「いいえ? 今までは四天王の領主様が大陸を四つに分けて支配なさっていたんですけど、去年ひっそり現れた魔王様の所為で、戦争をしているんですよ」


「魔王の所為・・?」


「はい、四天王の四人の方は人間達とは戦わないと仰っていたんですけど、顕現なさった魔王様が人間を滅ぼすと言って、戦争に発展したんですよ」


 そう言いながら、大きく溜息を吐いた。


「元々、俺達も戦いたくはなかったんすよ? 今の人間達がどうなっているかは知りませんけど、いきなりあんなモンスターの大軍……恐らく全滅ですね」


「……そうだったのね。一応向こうでも全滅してるから大丈夫だよ」


「そうですか、やっぱり向こうは全滅…………ん? 向こうでも・・?」


「うん。向こうにも強い人達が沢山いるからね。モンスターの大軍は全滅しているよ」


「えええええ!? 一年間集めていたモンスターの大軍をっすか!?」


「うん。寧ろ……僕としては、魔族がここまで弱いと思わなかったけどね」


「えええええ!? 人間なのに、何でそんなに強いんですか!?」


 ペイルが大袈裟に驚いた。


「それは僕も知らないよ~気付けばこんな感じだったからね」


 僕の言葉にソフィアが「うちのご主人様最強!」と言いながらぴょんぴょん跳ねていた。ペイルの頭の上で。



「ペイル、取り敢えず魔王城まで案内してくれる?」


「勿論です! ここからはこのペイルにお任せください! 親分の為なら何だってします!」


 ペイルが物凄くやる気に満ちている。


 僕が人だと分かっていても、変わらないのは凄いね。



「ペイルは人である僕を嫌ったりしないの?」



「そんな訳ないじゃないですか、実のところ、魔族の大半は魔王様が嫌いなんです。出来れば、あの魔王様を倒してくれる存在が現れてくれたら嬉しいっす。それが同じ魔族でも、人でも、モンスターでも、『神獣様』でも、神様でも何でもいいっす」


 どうやら、魔王様は人気がないみたいだね。


 一体どういう人なのか、楽しみだね。



 こうして、僕達は『魔王城、城下街ダーク』に向かう事となった。




 ◇




 僕とヒメガミさん、ナミちゃん、ナギちゃん、リッチお爺さんに『霧属性魔法』をふんだんに掛けて、僕達は魔族に扮して『地下街ダーク』に入った。


 ペイルの田舎の知り合いの体で話を合わせた。


 一番最初に、『魔王城』の視察に行くことにした。


 地下街を通り抜けると、広がるのは、行き来する魔族達の多さだ。


 雰囲気は人族の街と大して変わりない。


 ただ、空を飛んでいる魔族も多いので、見える感じが少し違うくらいか。



 道を歩き、少しずつ上に登っていくと、遂に『魔王城』が見え始めた。


「魔王城、大きいわね」


「うちのお城くらい大きいですわ」


 ヒメガミさんとナミちゃんの感想だ。


 そう言えば、二人ともお姫様だものね。


 魔王城には大きな橋が架かっており、橋を渡れば目の前だったが、橋は城に収められている。


 ――その時。


「あ、親分。そう言えば、数か月前から、その城に封印が張られたって噂っすよ?」


「封印?」


【クロウくん、魔王城にも軽度の『不可侵の結界』が張られているわ。橋が降りたとしても、中に入る事は出来ないと思われるよ】


 橋を渡るだけで簡単だと思っていたけど、そうはいかないみたいね。


「一度、何処かで作戦を考えたいかな。ペイル、何処か――――」


 その時。




「ペイル! 何でアンタがここにいるの!?」


 可愛らしい女魔族がペイルを見つめて驚いていた。

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