296.九階層の秘密

 『ウリエルのダンジョン』の九層。


 広々とした平原だった。


 木々もそこそこ生えており、また地面には美しい緑が広がり、花や動物、鳥まで飛んでいた。


 あれ?


 ここってダンジョンだよね?


 ここに来るまで、花や動物、鳥も見かけていないし、他のダンジョンを巡った時も、そういうのは見かけた事がない。


 平原の最奥に一際大きい木が生えているのが見える。


 僕は飛ばず、ゆっくりと歩き、大きな木を目指して歩いた。


 周辺にモンスターは一切なく、動物達が遊んでいる。


 歩いている僕に興味を持ったらしく、鳥が数匹、僕の肩に乗って来た。


 右肩にはソフィアが乗っていて、頭にはタマモが乗っているので、鳥達は左肩に乗ってきた。


 動物達も僕に興味を持ったみたいで、近づいて来ては、僕と同じ速度で隣を歩いてくれた。


 中に熊さんもいて、歩きながら撫でであげると喜んでくれた。


 他にも鹿や馬、犬、猫等……本当に色んな動物がいるんだね!?




 のんびりと動物達に癒されながら、僕は大きい木の前に辿り着いた。




「あら? 貴方は…………なるほど、遂に来られましたか」


 薄く赤い髪の彼女は、優しい笑みを浮かべ僕を見つめた。


「あれ? ここに……人が?」


 でもよくよく見ると、耳が尖っている。


 人ではないのかな? 亜人族かな?


「初めまして、クロウティア様でございますね?」


 既に僕を知っているみたいだ。


「はい、僕はクロウです。貴方は?」


「申し遅れました、私はエルフ族のシエルと申します」


「エルフ族!?」


「はい。エルフ族はそもそも人数が少ないので見かける事が少ないと思います。そして、我々エルフ族は…………女神様を崇める種族でございます」


「女神様…………」


 ちょっと困った表情をする僕に、ふふっと笑うと彼女は大きなキノコの上に座るように言ってくれた。


 大きなキノコは椅子みたいで、ぷかぷかしててとても座り心地が良かった。


「まず、クロウティア様には一つ感謝しなくちゃいけません」


「僕に?」


「はい。先程申し上げたように、我々は女神様を崇めて生きてきました。ですが、ある出来事があり、我々の多くの子供達が命を落としております…………いま、こうして話している私もまた、既に命を失っております」


「ええええ!? お姉ちゃん、亡くなってるの!?」


「お、お姉ちゃん!? ふふっ、ほんと、可愛らしいお方ですね。貴方様がこのダンジョンの主で本当に良かった」


 満面の笑顔になったシエルさんが続けた。


「私は死しても尚、女神様をお守りしたかった…………ですけど、我々では女神様を守る・・事が出来ませんでした。そして、私もまたその生を終えてしまったのです……それでも何とか女神様の為になる事が出来ないだろうかと、生前に『秘術魔法』を使い、私は意識を持ったまま『精霊』になれました。いつか、女神様の為になる日が来る事を信じて……」


 シエルさんの強い信念がその瞳から伝わってくる。


「私の目的は女神様がこの世界に降臨なさる際の憑代になる『精霊体』を残し続ける事でした。ですが、それも簡単な事ではありません。何故なら、私に『精霊体』を守り続けられるほどの力がないからです。だから、最後の望みを掛けて、『ウリエルのダンジョン』に『精霊体』を定着させました。その賭けは……ありがたい事に大成功と言えるでしょう。貴方様が『ウリエルのダンジョン』の主になってくださったおかげで」


「僕が主になったおかげ??」


「はい。どうしてか、このダンジョンは他のダンジョンとは比べ物にならないくらいに、多くの『神力』で溢れております。私は……その『神力』を少し借りて『精霊体』を守り続ける事が出来ました。それは『ウリエルのダンジョン』だからではなく……貴方様のダンジョンとなったからだと考えられます。きっと……貴方様にはそれほど大きい力があるのでしょう」


 う~ん。


 もしかして、レジェンドスキル『奇跡の大地』でダンジョンが楽になっているあの事と繋がってたりするのかな?


 それなら僕というよりは、『奇跡の大地』のおかげだね!


 素晴らしいスキルに巡り合えたおかげなら、とても嬉しい事だ。


「そう言えば、ここの階層にはモンスターが一切いないんですが、それもシエルさんが関わっていたり……?」


「はい、大きい『神力』のおかげで、九階層を『精霊体』が最も守りやすい環境に変えられました。『精霊体』は自然が溢れている場所でしか生きられないのです」


「あ~だから、ここは花や草に動物、鳥達が一杯いるんですね!」


 いつの間には僕の隣で眠っている熊さんの頭を撫でる。


 この熊さん……。


 うちのお爺ちゃんに似てて、可愛いのよね。


「はい、その通りでございます。クロウティア様、許可も得ず、勝手にダンジョンに住んでしまい大変申し訳ございませんでした、どうか、私にこれからもここで居させてくださいませ」


 シエルさんは深々と頭を下げた。


「勿論ですよ! 勝手にだなんて! だって、シエルさんにとって女神様は大事な方なんでしょう? 僕はまだ女神様に会った事はありませんが、絵では見かけた事がありますよ! とても慈悲に溢れている方がと思いました。そんな方がいつかこの世界に戻って来てくださるなら、僕の所でいつまでも待ってくださっていいですからね!」


 シエルさんは大きな涙を流し、感謝の言葉を繰り返した。





【クロウくん……ありがとう……】


 ふと、女神様の声が聞こえた気がした。

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