284.神の世界③

 シヴァさんの呆気ない表情から、咳払いを一つして、話し続けた。


「まず、我々二人とも、本来なら『存在しえない存在』だ」


 存在しえない存在??


「ほっほっほっ、我々二人はのう、人の『想い』で生まれた存在じゃよ」


 人の想い!?


「過去を慈しむ人々、そして未来を慈しむ人々、無数の存在から想いが力となり、その力を象徴する神が生まれた。それが俺とアマテラスだ」


 想いが力に……。


人々・・の想いは、時に大きな力となるのだよ。お前が使った『クロノスリザレクション』もまた――――だが」


 シヴァさんの表情が険しくなった。


「我々はあくまで『象徴する存在』であって、お前が思っている『全知全能の神』の存在とは違う。だから、我々が直接、人に何かをする事など不可能だ。だから、それは言ってみれば、我々は『神ではない存在』でもある。我々は、人の『想い』から生まれた存在なのだから」


「ほっほっほっ、いきなり我々の話でクロウティアが困っておるのじゃ」


「ふん、仕方ないだろう。それも自業自得なのだからな」


 それを聞いたお爺ちゃんは、何処かばつが悪そうに笑っていた。


「我々は直接誰かに何かを与える事は出来ない。だが、間接的には出来る。今回『クロノスリザレクション』がその例だ。元々あれが使える人間なんて初めてだが……それでも、お前一人では使えない、こちらにいるアマテラスがいなければ使えられなかったからな」


 そうだったの!?



「本当ですか!? それならお爺ちゃん、何度も僕を助けてくださって、本当にありがとうございます!!」



 僕の言葉に、またシヴァさんがポカーンとした。


「ふ、ふん。だがな、その所為で――」


「シヴァ、良いではないか、そんな事は」


 シヴァさんが何かを話そうとした時、お爺ちゃんが止めた。


 でも、それはとても大事な事だと思えた。


 だから――――


「お爺ちゃん。シヴァさん。僕の所為でお爺ちゃんに何か起きたのなら、僕は知りたいです。何度も助けてくださったお爺ちゃんの事、もっと知りたいです」


「ほっほっほっ、クロウくんや、いいのじゃよ。実はのう、ここにおるお菓子や紅茶は『アカバネ大商会』の商品なのじゃよ。クロウくんのおかげで、我々はこんなにも美味しいお菓子や紅茶が飲めるのじゃ」


 その優しい笑顔でも、何処か寂しさを感じれた。


 隣にいるシヴァさんの表情も、また。




「うちのお菓子と紅茶美味しいですよね! 僕も大好きです! これもお爺ちゃんに救われた僕と、リサと、お母さんが出会えたからこそ、作れた――――絆なんです。だから、その絆はお爺ちゃんにも繋がっていると思うんです。だから、教えてください」




「アマテラス、お前の負けだな」


「ほっほっほっ……そうじゃのう」


 お爺ちゃんも諦めてくれたみたい。


 そして、シヴァさんから衝撃的な話が始まった。


「『クロノスリザレクション』は、未来の消えた命を過去に生きていた命に戻す魔法だ。それには、俺とアマテラスの『許可』が必要だ。ただ、この許可は我々でも好き勝手に出せる訳ではない。許可を出すにも条件がいる」


 その条件が問題なのだろうね。




「我々は人々の『想い』でその存在を維持している。つまり、人々の『想い』が我々の命となる。それを我々は『想いの灯火』と呼んでいる。ここまでの話で察しはつくと思うが――――我々がその許可を出すには、その『想いの灯火』を使う必要がある」




 その言葉に、僕は驚いて椅子から立ちあがった。


「『想いの灯火』が消えれば、恐らく、我々も存在出来ないだろう」


 それは……人でいう『死』を意味する事だ。


 何も言い返せないまま、お爺ちゃんを見つめると……お爺ちゃんは寂しく笑っていた。



「ほっほっほっ、そもそも、あれは我々の許可だけで使える魔法ではないのじゃ。クロウくんだからこそ使えた魔法なのじゃ」


「だがな、俺はそんな許可なんて出してない。そもそも、俺の許可も取らずに使ったんだからな」


 シヴァさんは許可を出してない?


 では、どうやって?




「アマテラスはな、俺の許可を無視し、俺の許可の分も自分の『想いの灯火』を使ったんだ。三倍の犠牲と共にな」




「ほっほっほっ、どうせいつかは消える命。儂の命なんぞ、安いものじゃ」


「くっ! お前は! またそうやって自分の『想いの灯火』を削って……あの時も、何故俺に相談しなかった!」


 シヴァさんが怒り、立ち上がった。


 あの時……が、どういう事なのかは分からないけど、きっと今回のような事だったんだろうね。


「確かに、俺の『想いの灯火』も少ない……だが……」


「シヴァ、良いのじゃ。クロウくんの事は、儂の……償いのようなモノじゃから」


「くっ……」


 シヴァさんが悔し気に両手を握りしめた。



 僕には、何が何だか分からない。


 でも、一つ分かったのは、お爺ちゃんの命が後少しなのだという事だけだった。




「シヴァさん! お爺ちゃん! どうすれば……どうすればお爺ちゃんの『想いの灯火』を戻せますか!?」




 それを聞いたシヴァさんは、一つ提案があると話した。


 お爺ちゃんは、初めてみかける険しい表情で、それだけは駄目だと話していたけれど、僕も負けずにシヴァさんにその事を聞いた。



 シヴァさんからの提案。


 それは僕の想像を超えるモノではあったけど……それでも、僕を何度も助けてくれたお爺ちゃんを助けられるなら、僕も頑張らないとね。


 だから。


 皆、ごめん。


 皆を……こういう形で失うかも知れないけど。


 それでも、僕は信じているから。


 リサ。


 セナお姉ちゃん。


 ディアナ。


 ナターシャお姉ちゃん。


 皆、信じているよ。

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