278.お姫様

 次の日。


 ヒメガミさんから、お母さんに会って欲しいと言われ……それもリサの無言の圧力を思い出して、会う事になった。


 そして――――連れられて行ったのが、まさかの……。




「えええええ!? お城!?!?」




 ヒメガミさんはずかずかお城の中に入って行った。


 ヒメガミさんが通る道にいた人達は、皆、両脇に移動して土下座をしている。


 あれか、この国の挨拶はやはり、土下座なのだろうか?


 ヒメガミさんと長い廊下を歩き、最終的に大きな広間に到着した。



 正面には、高台に大きな玉座があり、その両脇には、近衛兵と思われる兵士が数人立っていた。


 ――そして。



「お母様、ヒメガミでございます」



 えええええ!?


 お母様!?


 玉座には鋭い目をしている女性が一人、座っていた。


 一目みただけで、この人がどれ程の強さの人なのか分かるほどに、凄まじい威圧感を感じられた。


 恐らく、ヤマタイ国の女王様なのだろう。


 彼女を見て、僕は一人、似たような強さを思い出した。


 ――――元教皇が魔族の姿になった時の威圧感に非常に似ている。



 少し、強張る表情で女王様を見つめていると、女王様と目が合った。


 女王様は「ほぉ」と一言呟いた。



「ヒメガミ」


「はい」


「そちらの方は?」


「はい……私の、旦那様となるお方です」


 えええええ!?


 ヒメガミさん!?


 まだ夫になるとは……言って……なぃ……。


「…………」


「私の……呪いを解放してくださいました」


「なっ!? それは誠か?」


 驚く女王様に、ヒメガミさんは嬉しそうに大きく頷いた。


 そして、女王様が再度、僕を見つめた。


「其方、名は?」


「は、はい。クロウって言います。あっ、名前、クロウティアです! 長いの――――」


「クロウティア!?」


 僕の名前を聞いて、女王様が驚き、立ち上がった。


 あれ?


 女王様、会った事あったかな?


「西大陸から来ました。隣大陸の領、エクシア家の三男。クロウティア・エクシアです」


 再度、自己紹介をした。


 それを聞いた女王様は、玉座に座り直し、何かを考え込んだ。


 そして。


「ヒメガミの呪いを解いてくれた事、心から感謝するぞ。何か謝礼をしたいのだが……既に、ヒメガミの心が其方に向いているようであるな。どうだ、ヒメガミを妻として娶ってはくれぬか?」


 えええええ!?


 そんな簡単でいいの!?


 ヒメガミさんも嬉しそうにしているし!


 レイラお姉さんも何処か嬉しそうなのはどうして!?


「あ、あの……僕、奥さんが既に四人もいて……」


「お母様、既に奥様方々には許可を得ております」


 女王様もそれを聞いて、頬を緩めた。


「そうか、ヒメガミが選んだ男なら間違いないだろう。クロウ、うちのふつつかな娘を宜しく頼むぞ?」


「は、はひ! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 あっ……場のノリで言ってしまった……。


 僕……四人でも多いのに、奥さんが五人になってしまったよ……。


「あ、お母様、北のダンジョンに向かおうと思っております」


「北のダンジョンに?」


「ええ、旦那様が用事があるようでして」


「ふむ? だが、あそこには……彼奴らを越えねばならないぞ?」


「はい、旦那様なら大丈夫だと思います」


「ほぉ……それほどまでに強いのか……ふむ、分かった。ヒメガミ、これからは夫の為、尽くして生きるのだぞ?」


「はい……、お母様、これまでふつつかな娘を育てて頂き、ありがとうございました」


 女王様とヒメガミさんのやり取りが終わり、僕達はお城を後にした。


 何だか……ダンジョンを確認しに来たはずなのに、とんでもなく大変な事になってしまった……。




 ◇




 北のダンジョンに向かう前に、ヒメガミさんの荷物を取りに行きたいとの事で、お菊さん達と合流する前に、ヒメガミさんの自宅に向かった。


 お姫様だから、てっきりお城で住んでるのかなと思ったけど、寧ろ、首都エドオリから離れた山の上で住んでいるそうだ。


 いつものレイラお姉さんとヒメガミさんを捕まえて、空を飛んで向かった。



 山の上に、ポツンと立っている家があって、そこがヒメガミさんのお家だった。


 どうやらヒメガミさん自身が建てたお家らしくて、丸太が壁になっており、何処か別荘のような雰囲気だった。


 ヒメガミさんに案内され、リビングのテーブルに座り、お茶を淹れてくれた。


 ヒメガミさんには、既に『ブレスレット型アイテムボックス』を渡していて、それを使い、荷物の片付けが直ぐに終わっていた。


「ヒメガミさん、どうしてこんな場所で暮らしているんですか?」


 何かを思った訳ではなかったけど、何となく聞いてみた。


 ふふっと笑顔になったヒメガミさんが答えてくれた。


「以前話したように、私は火ノ神カグツチの力が呪いだと思っていたの、いつか、自分で気づかないうちにまた理性が飛んでしまって、周りに被害を出したくなかったから……首都エドオリの近くで、人が住んでいない、この山でずっと一人で住んでいたのよ?」


 あ……確か、そんな事言っていたね。


「旦那様。私の呪いを治してくれて、本当にありがとう。旦那様に出会えなかったら、私は今でもこの狭い家の中で、一人で……過ごしながら、いつ理性が崩壊するのか怯えて暮らしていたと思う。だから……私を助けてくれて、本当にありがとう」


 満面の笑顔で答えるヒメガミさんが眩しかった。

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