257.カフェ

 本日はセシリアお義母さんが務めている『カナン町』を訪れた。


 中央の女神様像の前には、多くの信者達が祈りを捧げていた。


 ――――――ごめんなさい。


 その女神様……実在していないというか……僕なんです……。



 信者達を横目に聖堂に入ってみた。


 高い天井に、魔法で浮かせた多くの魔道具から神秘的な雰囲気の天井と、壁には色んな絵が描かれていた。


 女神様の絵、魔族と戦う勇者様の絵、人々が祈りを捧げている絵など。


 その中でも、僕の目が止まって魅入った絵があった。


 とある女性の絵だった。


 女神様でも、誰かの知人でもない、知らない女性…………おばあちゃんの絵だった。


 その慈愛に満ちた笑みは、見る者全てを慈しむようだった。



「くろにぃ」


「あ、リサ、お仕事お疲れ様」


 現在リサは、セシリアお義母さんを手伝って、カナン町で礼拝を開いたり、各地を訪れているとの事だ。


 何しろ、彼女が本物の『聖女』だという事は、既に大陸中で広まっているからね。



 どうやら、セシリアお義母さんが最上級職能『教皇』であり、その娘が『聖女』となったのは、大陸歴史で最も素晴らしい奇跡だと言われていて、『女神教会』がここまで信仰を集められたのも、二人のおかげと言っても過言ではないと思う。うん。


「リサ、この絵って……?」


「この絵は聖母様の絵だって」


「聖母様?」


「うん。女神様がこの世界に顕現した時の姿と言われていたみたい」


 そうか……この方が本物・・の女神様だったのね。


 とても綺麗で慈悲深いがとても印象的だ。



 リサに案内されて聖堂を歩き回った。


 すれ違うのが、うちのメイド服を着た従業員達なのがちょっと面白かった。


 アカバネ大商会と提携しているからと、従業員達が聖堂の掃除から管理までしてくれているからね。


 おかげで聖職者達は礼拝や祈り、信者達の悩み相談を精力的にこなせているとの事だ。



 僕は知らなかったけど、アカバネ大商会主体で『カナン町のツアー』なるものもあるらしくて、毎日各地の信者達が訪れているみたい。


 リサとセシリアお義母さんの礼拝は週に一回しかないので、その日は物凄く混むそうだ。




 カナン町の外れ、湖が見える所に、いくつかのカフェが立っている。


 カナン町は宗教だけの町ではなく、観光地としても有名になっていて、多くのお店が立ち並んでいるのだ。


 リサのお気に入りカフェ『ウサギ小屋』を訪れた。


 このカフェは子供達が運営しているカフェである。


 アカバネ大商会直轄でもあるが、大人達は一人もいない。


 厳密に言えば、一人だけいるのだが、その人は決して表に出ない。


 基本的な料理担当は、その大人一人だけで、他全てを子供達が頑張ってくれているお店だ。



 子供達だけで切り盛りしているこの訳アリのお店。


 何故、このようなお店があるのかというと。


 このお店で働いている子供達は、実は、全員戦争孤児達なのだ。


 連合と帝国の戦争。


 多くの兵士達が亡くなった。



 その中には、勿論、父親である人も沢山いた。


 母親だけでは育てられなくなった家庭や、父子家庭であったが子供だけ残ったケースもあった。


 そんな子供や家庭は、全員カナン町に移住して貰った。


 そして、このお店『ウサギ小屋』はそんな子供達で構成されているカフェなのだ。



「いつものセットを四人前でお願いします」


 リサの言葉に子供店員さんは「かしこまりました」と慌ただしく厨房へ走って行った。


 カナン町にいる時は必ず立ち寄る店らしく、「いつものセット」で通るのね。


 数分、僕は報告会議であった事とか他愛ない事をリサと話した。


 子供店員さんが二人、プレートに飲みモノやケーキを乗せて持ってきてくれた。


 そこにあったのは、最近物凄い人気が出ている『ロイヤル紅茶』と『スマイルケーキホットケーキ』があった。


 ここの『スマイルケーキ』には可愛らしいウサギが描かれていた。


 ロイヤル紅茶にも可愛らしいウサギの絵柄のカップがとても可愛い。


 僕とリサ、レイラお姉さん、そしてソフィアは美味しい紅茶とケーキを堪能しながらひと時を過ごした。




 ◇




 ◆とある研究室のような部屋◆



 奥にある一際目立つ大きい試験管の中で光り輝いている魔石のような石があった。


 そして、その部屋に珍しく人が現れた。


「ほぉ……こういう事になっていたのか」


 男は感心したように輝く石を眺めた。


「くっくっくっ……こんなくだらない封印・・で何が出来ると言うのだ?」


 男の言葉に、輝く石は何かを訴えるようにますます大きい光を放った。


「ほう……それならば、見届けてあげよう。貴様の最後の悪あがきというのものをな」


 男は右手で試験管を割り、輝く石を握った。


 男の右手に握られた石は輝きを失い、部屋には再び闇が訪れた。


「さあ、貴様が勝つのか、儂が勝つのか、最後・・の勝負と行こうじゃないか! くっくっくっ」




 この日。


 中央大陸……いや、世界では初めて弱い地の揺れを観測した。

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