213.美女の正体

 ◆連合軍、東軍◆


「ファイアランス!!」


「剣技! 重衝斬撃!!」


 ジョゼフの豪快な攻撃とフェルメールの鮮やかな攻撃魔法が戦慄の伯爵を襲った。


「ぐあああああ!!!!」


 戦慄の伯爵の叫びと共に、襲ってくる二人に斧を振り落とした。



 ドカ――――ン



「くっ!? 剣技も無しに跳ね返しおったわい!」


「ジョゼフ殿! 感心してる場合ですか!? ファイアランス、ダブルマジック!」


 戦慄の伯爵の一撃で吹き飛ばされたジョゼフを守るように、フェルメールが二本の炎の槍を撃った。


 戦慄の伯爵は飛んできた炎の槍を、豪快に斧で振り払った。


「ぐるあああああ!!!」


 彼の雄叫びを上げると、フェルメールに襲い掛かった。


「剣技!! 双重旋廻撃!!!」


 ジョゼフが戦慄の伯爵の間に入った。


 ジョゼフの剣戟と戦慄の伯爵の斧がぶつかり合い、周辺の大気すら震わせる程の轟音が響いた。



 今回ぶっ飛ばされたのは戦慄の伯爵の方だった。



「ふむ……戦慄の伯爵め、少しおかしいのぉ?」


「ええ、あんな戦い方はしないはずですけどね」



 二人は彼の戦い方に疑問を思っていた。


 戦慄の伯爵の強い理由。


 それは、如何なる場合でも、冷静沈着で最善の行動をするはずだ。


 ――しかし。


 今の戦慄の伯爵はまるで………獣に近かった。



「それに、あやつ、剣技を一切使わんの。使わなくても強いが……あの一撃一撃が重い剣技は使えないようじゃ」


「これは好機ですね。上級魔法を使いましょう。少し相手お願いしますね」


「分かった」



 また立ち上がり、雄叫びを上げながら突っ込んでくる戦慄の伯爵を、ジョゼフは正面から打ち合った。


 一撃、一撃、重っ苦しい音が響いていた。


「――――――、エクスプロージョン!!!」


 フェルメールの詠唱と共に、現れた火の玉。


 ジョゼフは瞬時に後方に下がり、火の玉が戦慄の伯爵にぶつかった。



 火の玉は戦場を震わせる程の轟音と共に、大爆発を起こした。



「――ふぅ、この歳で上級魔法は疲れますね」


「ガーハハハハッ、あんなのが使えるんならまだまだ若いじゃろう」



 爆発の跡には、ボロボロになっている戦慄の伯爵がいた。



「あれを喰らって、生きている所か、まだ立ってられるのか」


「本当、恐ろしいですね。あれで冷静だったらと思うと、ますます恐ろしい」



 戦慄の伯爵は「ぐるるる」と弱々しく声を発しながら、後方へと引いて行った。


 ジョゼフ達は深追いはせず、戦慄の伯爵を撃退して、前線で勝利を挙げた。




 ◇




 最前線を押し上げる事に成功した東軍は、そのままアーライム帝国領に進軍した。


 『先見の賢者』フェルメールの的確な戦場読みで、連合軍は大きな被害もなく、アーライム帝国東軍の切り札であった『戦慄の伯爵』も失敗に終わった為、連合軍の快進撃であった。



「さて、このままガイア街まで追い込もうかのう」


「いや、ここはまだ進まない方がいいでしょう」


「ふむ、西軍の様子を見るのじゃな?」


「ええ、挟み撃ちになっても困りますからね」




 ◇




 連合軍、西軍。


 テルカイザ共和国の東砦を挟み、両軍睨み状態を続けていた。


 この睨みが続けば、不利なのは連合軍なのは明白だった。


 ――しかし。


 アカバネ大商会の特製魔道具『ブレスレット型アイテムボックス』が大活躍をした。


 多くの支援物資を運んでいる為、大変な戦場でも、楽に休憩が出来たり、美味しい食事が摂れていた。



 両軍で先に痺れを切らしたのは、連合軍ではなく、帝国軍だった。


 帝国軍を率いていて、美しい女性が先陣を切って出て来た。


 連合軍のセレナディアも同じく先陣を切って、彼女と対峙した。




 連合軍と帝国軍、全ての兵士達が息を呑んだ。


 風になびく美しい黒髪で吸い込まれるかのような碧眼の美女。


 少しウェーブが掛かった綺麗な薄紫髪に明るい黒瞳の美女。


 この世界でも類を見ない、美女二人が対峙していた。



 二人共、左腰には剣が繫っており、醸し出している雰囲気も、強者そのモノだった。



「初めまして、グランセイル王国『剣聖』セレナディア・エクシアよ。先日はやられたわ」


「ご丁寧にありがとうございます。わたくしはアーライム帝国の『剣聖』レイラ・インペリウスですわ」


「!? 皇女さんでしたの」


「はい、こちらもお会いして光栄ですわ、エクシア家の剣聖・・さん」


「皇女さん、一つお願いをしても?」


「いいですよ?」


「このままお互いに被害がないまま、撤退してもらう事は出来ませんの?」


「少なくとも、戦争を仕掛けたのは我々帝国です。どうして撤退を?」


「貴方の目を見れば分かるわ。仕方なく・・・・戦っている事くらい」


「ッ!? ……ですが、私には戦わなければならない理由がございます。申し訳ありませんが、ここで引くわけには行きませんのよ」


「……そう、私にも負けられない理由があるわ」


 両者は剣を抜いた。






 同じ時代に、同じ女性で、同じ最上級職能。


 それは言うなれば、奇跡に等しかった。


 いつの時代も、最強の戦士は孤独である。


 彼女達は、その孤独を分け合える存在だったはずだ。


 この戦争さえ、起きなければ。


 お互いに守りたい、大切な存在の為。


 彼女達の戦いが始まろうとしていた。

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