206.姉と弟の決心
十六回目のアカバネ祭が終わった。
いつもの如く、盛大に盛り上がっていた。
秋終わりのアカバネ祭が終わると、次待っているのは……新しい年だ。
僕は毎日、魔道具やポーション、武具の生産を勤しんでいた。
気が付けば、二学年も終わりを迎えた。
正直、今の自分は学生である事を忘れる事がある。
だって、学園に殆ど行かないから。
今ではほぼ『ロード』クラス棟かアカバネ島で作業に没頭しているからね。
僕の代わりと言う訳ではないけど、リサとディアナが楽しんでくれれば、それで良いと思ってる。
彼女達の土産話が毎日の楽しみだった。
年が明ける前。
遂に、セレナお姉ちゃんが卒業をした。
卒業式には僕やリサも招待されて、セレナお姉ちゃんの卒業を祝福した。
これからは毎日一緒――――――
と思っていたけど、セレナお姉ちゃんから衝撃な発言があった。
――「クロウ、私はこのまま、王国の騎士になるわ」と言われた。
エクシア家でもなく、王国の騎士に……。
きっと、お姉ちゃんなりの考えがあると思うから、僕は応援する事にした。
勿論、これで離れる訳ではないから、『遠話』もあるし、会おうと思えば、いつでも会えるから。
その時、セレナお姉ちゃんから「クロウの事は、私が絶対守るから。何があっても」と話していた。
いつも言ってくれていた言葉だけど、その時の言葉は――今まで以上に決心したような言葉だった。
◇
僕が三年生になると、一年生の時に同じパーティーだったピナさんが訪れてきた。
勿論、歓迎するけど、どうやらお願い事があるそうだ。
彼女に連れられ、『ナイト』クラス棟に来た。
そこには、二十名程の男女が集まっていた。
「クロウくん、その、今日はわざわざ来てくれてありがとう」
「ううん、それにしても、彼らは?」
「うん、これからクロウくんに見て欲しい事があるんだ」
「見て欲しい事? 分かった。僕でいいなら、見せて欲しい」
そう言うと、彼らは何かを打ち合わせして、僕の前に広がった。
――――そして。
彼らは僕の前で『
そうか……アカバネ祭で見れる『オペラ』を彼らなりに表現していた。
アカバネ大商会程の音楽もなければ、『オペル』達のような完成度もない。
でも、彼らからは『熱意』が伝わった。
演目途中、一人がミスを起こした。
それでも隣の人が素早くカバーして、また演技に戻る。
彼らはここ数年、ずっと練習してきたように思える。
パチパチパチパチ
演目が終わり、僕の拍手の音が響いた。
その後、ピナちゃんから、アカバネ大商会と関わりがあるエクシア家の僕にアピールをしたかったとの事だった。
もし、少しでも良いと思って貰えたなら、どうか、『オペル』達に口添えをして欲しいと、下っ端からでも良いから何でもするとの事で、踊っていた皆からの熱意が伝わって来た。
世界には、まだ、夢を諦めず、ずっと追いかけて頑張ってる人達がいる。
いや、いた。
僕が知らなかっただけで、まだ世界にはこういう人が沢山いるはずだ。
だから、彼らを応援したいと心から思えた。
僕に出来る事。
彼らを応援して、チャンスを与える事。
そのチャンスをモノに出来なかったとしても、挑めない方が辛いはずだ。
だから彼らのような、夢を、守るために。
僕がこの王国を皆を守りたい。
◇
◆セレナディア・エクシア◆
私は最愛の弟を守りたかった。
でも、私如きでは、とても彼を守る事が出来なかった。
私が弟にしてあげられる事は何だろうと、ずっと考え続けてきた。
「だいじょうぶ! あたしはくろうてーあのおねーちゃんだから! あたしがくろうてーあをまもるの! だからくろうてーあはこわがらなくていいの! ぜんぶおねーちゃんがまもってあげるんだから!!」
十三年前、私の一番古い記憶の言葉だ。
あれからずっと考えた。
どうしたら、弟を守れるだろう――と。
最初は漠然と強くなろうとしたけど、途中で気づいてしまった。
――――弟は私に守られる程、弱くない。
あれから数年。
考えた結果、私が弟自身を守れないなら……弟の周りを守れば良い事に気づいた。
弟は現在、アカバネ大商会で、愛する………………妹と暮らしている。
だから、私は、アカバネ大商会がいるこの王国を守る事を決めた。
グランセイル王国を守る。
それがゆくゆく、クロウを守る事に繋がるだろう。
だから私は、グランセイル王国の『特別騎士』になった。
『特別騎士』は騎士として、王家の命令に従うのではなく、王国に取って、より良い方になるよう勤める事が出来る騎士だった。
もし、王家が王国に取って
『剣聖』だからこそ、『特別騎士』となり、私は自分自身が悪と判断する者をその場で斬れる権限を持った。
なので、多くの貴族達は、私の前では皆良い顔をする。
私は既に高らかに宣言していた。
――――「もし、王国に取って不正を働いている者がいるなら、私が絶対に成敗致します」と。
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