199.大商会、そして…

 完成したアカバネ式トイレは、お母さんから大絶賛のため、急ピッチで量産する事が決まった。


 既にソフィアには多くの仕事をお願いしていたので、トイレは僕自身が頑張って作った。


 形だけだと何とかなるかもと、ソフィアが気を利かせてくれて、分体を数体送ってくれて、スムーズに作る事が出来た。



 それから特に大きな事件やイベントもなく、日々は進み、十四回目のアカバネ祭が開かれた。


 今回の『アカコレ』は専属のモデルを起用して臨んだ。


 初回よりは負けるけど、十分過ぎる程、多くの人々を熱くさせてくれた。


 ナターシャお姉ちゃんも相変わらずの素晴らしい『ライブ』だった。


 それと、ナターシャお姉ちゃんの前座として、『オペラミュージカル』も披露された。


 今では貴族御用達になっている『オペラミュージカル』。


 その高い完成度の踊りと広大な歌に多くの人々が熱狂していた。



 それと今回、大きな発表は二つあった。


 一つ目は、『アカバネ式トイレ』の賃貸。


 最初、どういうモノか全く知らなかったお客様達も、その性能の紹介には多くの人が熱狂した。


 安価で賃貸する予定だけど、まだ数が間に合わないので、『公衆便所』という名で、各町に優先的に設置する事にした。


 事前にお母さんから情報を仕入れたおばあちゃんからも、秘密裏に注文が入ったので優先的に納めたけど、更におばあちゃんの友人貴族の方にも優先的に納める事になった。


 おばあちゃん、ご友人がとっても多かった。



 そして、最近全面的に契約を交わした『フェルメール大商会』からも注文が殺到した。


 ソフィアには悪いけど、分体をもっと作って貰い、『アカバネ式トイレ』の量産を急いで貰った。



 例の『テーマパーク』は完成するまでは、数年は掛かるから、完成がとても楽しみだ。




 そんな順風満帆に商会が進んでいる時に、思わぬ報せが届いた。




 なんと、東帝国であるアーライム帝国から、直々にアカバネ商会の参入の打診を貰った。


 アカバネ商会はグランセイル王国の商会であった為、アーライム帝国には進出せずにいた。


 それは他国の商会が元に争いに発展する事があったからだ。


 しかし、向こうから直々に打診が来た場合、断る事が出来ないとの事だった。


 態々向こうの王家より、打診があったので、断る事が寧ろ悪影響を及ぼすとの事だ。


 なので、アカバネ商会は帝国に支店を出す事になった。



 帝国から指定されたのは、帝都グランド、南東貿易街ガイア、南西貿易街フロリタ、その三つの大都市の中央に位置する要塞グリンベルの計四か所に支店を出すように言われた。


 こういうのは、出して貰える事が非常にありがたい事なので、アカバネ商会はとても光栄な事だそうだ。



 更に、今回の帝国からの指定出店もあり、『天使の輪』契約で多くのグランセイル王国とテルカイザ共和国の商店を傘下に入れたため、グランセイル王国の国王陛下から直々にダグラスさんに『アカバネ大商会』を認定して貰えた。



 こうして、僕が立ち上げた商会は、更に大きく成長し、大商会となったのであった。




 ◇




 アカバネ商会が大商会になってから、慌ただしい時が過ぎて行った。


 大商会になった事で、先ず、ダグラスさんの称号が変更になった。


 元々はダグラス商会頭だったけど、今はダグラス総帥となった。


 そして、その下にディゼル支店長がディゼル副総帥となった。



 グランセイル王国とテルカイザ共和国の全ての町に支店が出来た。


 そして、帝国内に支店が四店舗程出来た。


 また帝国内の支店は試運転中だ。


 何故なら、一切の販売をしていないからだ。


 そうなるとアカバネ大商会の代名詞ともなる『プラチナカード』も売らない。


 なので、買取だけを行っており、通常三割安値で買い取ると一切商売にならないのだ。


 なので一割安値で買い取る専門店になっていた。


 そもそも帝国内では全く知名度がないので、全く商売は進まなかった。



 帝国とは逆にフルート王国での商売は順調だった。


 『フェルメール大商会』を経由して、取引をしていて、購入も販売もとても順調だった。



 結果から見ると帝国がどうしてうちの商会を指定してきたのかが、とても不思議だった。




 ◇




 帝国支店の準備が終わる頃、学園アルテミスの一年間の学業も最後を迎えた。


 それによって、デイお兄ちゃんが卒業を迎えた。


 卒業生のパーティーが開かれ、下位学年の成績優秀者数人もパーティーに呼ばれた。


 セレナお姉ちゃんと共に、僕も呼ばれたので、参加してデイお兄ちゃんの卒業を祝った。



 あっという間に学園の一年が過ぎた。


 色々あったけど、リサと出会えたし、大商会になったし、僕もまた大人に一歩成長出来たような気がした。


 そして、年が明け、新たな一年が始まった。




 ◇




 ◆???◆


 華やかな部屋に、一人の高齢の男が座っていた。


 彼が座っている椅子は、帝都グランドにある皇帝の玉座よりも立派なモノであった。



 彼は真っ白い衣装に、背高い赤い帽子を被っていた。


 そんな彼の後ろに、影が現れ、中から一人の男が現れる。



「やっと来たか……それで、どうだった?」


「はい、猊下の仰っていたように、『空間魔法』が使われておりました」


「ふむ、その『空間魔法』は、本当に『空間魔法』だったのか?」


「それが、何処までも入れられているように見えました」


「そうか――――あれは恐らく『空間魔法』ではないだろう」


「???」


「お前が気にする所ではない、では次の報告を」


「はッ、例の女は、やはりグランセイル王国におりました。中々本人は見つかりませんが、娘が王国の学園で目撃されております」


「ほぉ――帝国から出て、王国へ行ったか……これは困ったのぉ……」




「使えない傀儡くぐつは――――」


 男性は興味を無くした玩具を見ているような目で空の向こうを見つめていた。

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