181.リヴァとホフマン

「ギムレットさん~!」


 屋敷からギムレットさんが走って、出て来てくれた。


 まあ、出て来た瞬間に固まったけどね。


 それもそのはずだ。


 だって、ギムレットさんの屋敷の庭には、アクアドラゴンのリヴァ様がいらっしゃるからだ。



「クロウ様!!! 今日は一体何の嫌がらせなのですかあああ!!」



 ギムレットさんはいつも面白い人だ。


 僕とお父さんでお土産を贈ると、必ず嫌がらせがあああって言ってくるのだ。


 ふふっ、嫌がらせという言葉は、きっと愛情表現なのかも知れないね、とお父さんと話していた。



「こちらは、アクアドラゴンのリヴァ様です!」


「えええええ!?」


【ほぉ! おぬし、ホフマンにそっくりじゃの? 寧ろ、おぬし、ホフマンではないのかえ?】


「え? ホフマンって誰ですか?」


「ギムレットさん、こちらのリヴァ様が大橋を契約した方らしいですよ? ホフマン・バレイントさんって言うみたいです」


 リヴァ様は大きな首で頷いた。


「なっ!? もしや……名前が残っていない、伝説の先祖様では!?」


「え? 名前が残っていない?」


「ええ、何故か、アクアドラゴン様との契約を交わしてくださった先祖様の名前だけは、伝わっていないのです」


 百年前に何かあったのだろうか?


「その息子であるビルド・・・・バレイント先祖様が継いだとは聞いております」


【ビルドかえ……そうか、あやつも死んでおるのかえ、ホフマンが死んで百年、人間は時に敵わなかったのだな……】


「リヴァ様、ビルド様とも知り合いだったんですか?」


【ん? ああ、知り合いも何も――そやつは、我の――――】










息子・・じゃからのう】











 ◇



 現在、僕達はギムレットさんの屋敷で食事を取っていた。


 正面にギムレットさん夫妻、両脇から僕、セレナお姉ちゃん、リサ、ディアナ。


 そしてギムレットさん夫妻の向かいに座っているのは――



 美しくウェーブがかかった長い青い髪に、サファイアをも思わせる青い瞳。


 綺麗な顔立ちは、何処か、人間離れしていた。


 ――――そう。


 彼女の名は、リヴァ様。


 アクアドラゴン様だ。


 今は、どうやらドラゴン族が使えるスキル『人型変化』があるらしく、そのスキルで人型になってもらった。


 リヴァ様はその美しさもさることながら……とても目立つモノがあった。


 うん。


 たゆんたゆんだ。



 ベシッ――。



 僕の頭にセレナお姉ちゃんの拳が叩き込まれた。


「目線が嫌らしい!」


 そんな……、だって凄いんだよ!? 何であの大きさで零れ落ちないの!?


 ほら、ギムレットさんも……。


 あ、奥さんに怒られてる。


 そして僕はもう一発、セレナお姉ちゃんに叩き込まれた。




 リヴァ様は食事をしながら、昔話をしてくださった。




 ◇




 約百数十年程前。


 アクアドラゴンの湖では、アクアドラゴンのリヴァがまだ活動していた。


 その周辺は全てリヴァの支配領域となっており、他の神獣達や人族は誰も近づいて来なかった。


 そんな中、とある一団はリヴァの支配領域に入って来た。



 それから数日、一団は村を作り始めた。


 しかし、そんな許可など、出るはずもなく、リヴァはその一団を滅ぼすために向かった。


 そこで待っていたのが、一団の代表、ホフマンだった。



 リヴァの出現でも折れなかったホフマンは、それどころか、リヴァと激しい戦いを繰り広げる。


 リヴァは勇敢な彼を認め、自分の支配下に入る事を条件に、彼らを支配領域内で住まわせた。



 それからホフマン達は懸命に村を広くした。


 いつの間にか、他の一団も加わり、その村に住み着いていた。


 ホフマンのゆかりの者達だという。



 それから十年程が経ち、村も賑やかになっていた。


 そんな中、ホフマンはリヴァの元を訪ねた。


 リヴァの支配領域のため、この周辺には一切のモンスターや動物が寄り付かなかった。


 唯一、食材を取れるとしたら、湖だったが、流石のリヴァもそれは許さなかった。



 泣く泣く、ホフマンは村の位置をアクアドラゴンの湖から更に西側に移し、狩猟が簡単に行えるようにした。


 それが現在のバレイント領都だ。



 それから一年程して、少し寂しくなったリヴァはホフマンの所に遊びに行った。


 リヴァの登場で子供達が怯えて泣いた事からホフマンに怒られ、リヴァはスキル『人型変化』で人の姿になった。


 まだ齢二十六歳のホフマン。


 まだ独身だった。



 それからホフマンの猛アタックで、リヴァはホフマンの奥さんとなるのだった。


 実は長寿のドラゴン族は時折、人間に化け、遊ぶ事があり、その際、子供を産む事もあるのだ。


 そして、生まれた子供は『ビルド』と名付けられた。


 長年、この土地で頑張った彼らは『バレイント竜に愛されし家』と名乗る事となった。



 あれから数年後、奥さんのリヴァに何とか頼み込んで、湖に大橋を建設しても良いと許可を得たホフマンはビルドと共に、大橋を建設に取り掛かった。


 それから二十年後、ホフマン六十歳、ビルド三十二歳の時に、リヴァは家族を離れた。


 ドラゴン特有の眠りの期間に入ったのだ。


 ドラゴンの『人型変化』になると、二十年程して、長い眠りに付くのだ。


 リヴァは無理をして、三十年以上連れ添ったため、長き眠りが通常よりもずっと長くなってしまった。




 ――そして、リヴァはホフマンとビルドに二度と会う事は出来なかった。

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