174.オペルの決意

「我々『オペル』は――今まで、自分達のやりたい事を表現する事が出来ませんでした。中には貧しい者、中には家柄に縛られていた者、中には見せ場がなかった者――みんな悩んで生きて来ました。

 しかし四年前に『オペル』になって思ったのです。これが俺達が本当にやりたい事だった――と。ですからその場を提供してくださり、ずっと我々を面倒見てくださったアカバネ商会には、大恩義がございます。

 全てをお返し出来るとは思っておりませんが、どうか我々にもご恩を返す機会チャンスを与えてください。お願いします」


 深く頭を下げているクラウディさんからは、真剣な気持ちが伝わって来た。


 『オペル』さん達の待遇は、僕としては以前からもっと良くしようとしていたけど、ナターシャお姉ちゃんから『テンツァー踊る者』の皆さんに申し訳がないからと、そのままにしてきた。


 でも今は『オペラミュージカル』が完成した。


 『オペラミュージカル』はアカバネ商会が考えたモノではなく、彼ら『オペル』達が完成させたモノだ。


 これからは、お互いに商談相手として対等な立場になれるだろう。



「分かりました。先日の『オペラミュージカル』は僕もとても感動しました。『オペル』の皆さんの努力も間近で見てきたつもりです。ですから、これからは『アカバネ商会』の提携店パートナーとしてよろしくお願いします!」


 それを聞いたクラウディさんの目から涙が流れた。


「ありがとうございます!! 『オペル』一同、これからアカバネ商会に恥じない活躍を約束致します!」


 ナターシャお姉ちゃんも嬉しそうに、泣いているクラウディさんの背中を優しく触れてあげた。






 十三回目のアカバネ祭が終わり――数日後。


 王都の貴族街の一角に大きいテントのような建物が設立された。


 『オペラミュージカル』会場である。


 『オペラミュージカル』は毎月のうち五の倍数の日に開催される事となり、毎月六回公演と決まった。


 基本的には貴族向けの娯楽となっているので、入場チケットは高額なモノとなっていたが、彼らのパフォーマンスを一目見ようと多くの貴族が訪れる事となる。


 そんな『オペラミュージカル』は上級階級の娯楽ではあったが、半年毎に開かれる『アカバネ祭』で全ての人が見れたので、多くの平民達とその子供達の楽しみとなった。


 そして――――時代は、少しずつ、娯楽を求める時代へと向かうのであった。




 ◇




 ◆テルカイザ共和国、中央議会◆


 グランセイル王国が大きな娯楽文化を花咲かせようとしていた頃。


 隣国のテルカイザ共和国では、緊急会議が開かれていた。


 テルカイザ共和国は七つの領になっており、その領主が大きな発言権を持っている。


 ①メシアード領、テルカイザ共和国の中央に位置しており、共和国内一番の賑わいを見せる領だ。


 ②ルワイド領、北方に位置する領。帝国に最も近く、帝国民の旅行地として有名だ。


 ③アデイド領、北東方に位置する領。フルート王国に最も近く、貿易が盛んでいる。


 ④アッシュ領、南東方に位置する領。グランセイル王国と最も近く、一番の貿易量を誇る共和国の玄関口と言われている。


 ⑤バレイント領、南方に位置する領。東に不可侵の湖と西と南に高い山脈と北に森と世界で最も田舎領として有名だ。


 ⑥ジュマル領、西南方に位置する領。西側の山脈にある鉱山で有名な領だ。


 ⑦ハスラ領、西北方に位置する領。西側に海と面しており、水産業からリゾート地として非常に有名な領だ。




「それでは緊急会議を行う!」


 中央に座っていた白髪の鋭い眼光の男性が話した。


 彼はメシアード領の領主、アーディル・メシアードだ。


「先日、十三回目ので『天使の輪』契約が始まった」


 その言葉を聞いた全ての領主の顔が曇った。


 それもそのはずだ。


 『天使の輪』契約は基本的にグランセイル王国だけの契約だ。


 しかし――――


 唯一、共和国内で『天使の輪』契約を勝ち取った領があった。



 ――――――そう、バレイント領だ。



「ギムレット殿」


 領主全員の視線が、バレイント領の領主、ギムレットを見つめた。


「我々は『天使の輪』契約を結べませんでした――」


 その言葉に、ギムレットさんの顔に緊張が走った。


「ギムレット殿――――」


 全員の表情がますます強張った。




「例のモノは――――」




 その言葉に全員が息をのんだ。


 ギムレットの口が開くその瞬間までの刹那が、果てしなく長く感じる程の緊張感であった。


 そして――――――。


 立ち上がったギムレットは例の物・・・を取り出した。


「「「「うおおおおおお!!!!」」」」


 そして例の物・・・がテーブルの上に上がった。






「「「「女神クロウティア様の服だ!!!」」」」






 そう、彼らは――。






「「「「女神クロウティア様、万歳!!」」」」






 クロウティアの大ファンだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る