151.白熊の憂い
「ほ……本当に……あの病気を治してくれたの?」
目を大きくして驚いているお母さんだった。
「はい、それはもう大丈夫ですよ!」
それを聞いたお母さんの目には大きな涙が浮かんだ。
そして、お母さんは僕を力強く抱きしめてくれた。
暫くして、漸くお母さんが落ち着いた。
「クロウティアが儂の病気を治してくれたのか……」
「あの病気は私やセシリアさんでさえも治せなかった病気だったのに……」
あれ? セシリアさんの名前も出た。
「セシリア殿か、そうだな。あの方にも見て貰って無理だと言われたからのう」
おじいちゃんも頷いている。
「なんでそこでセシリアさんが??」
そう質問するとお母さんがジト目で僕を見つめて来た。
「ねえ? クロウくん、セシリアさんって大陸最高の回復士様だよ?」
あっ、そうだった……。
「ん? クロウティアはセシリア殿とも接点があるのか?」
「はい! セシリアさんは今僕の所にいらっしゃいますからね」
「何!? セシリア殿が帝国を離れたという噂は本当か!」
「確かにセシリアさんはうちにいるわよね、そう言えば、よく帝国が黙っていたわね」
「ああ、何やらセシリア殿が帝国と教会を見限ったとかで、噂になっとったんじゃ」
ありゃ……あんな優しい人に見限られるって……今の帝国と教会ってそんなに酷いモノなのか?
「そうか……セシリア殿が我が国に……これは困ったのう」
「え? おじいちゃん、セシリアさんがうちにいるのって困るんですか?」
「そりゃそうじゃろうて、あの方は回復士最高職能の『教皇』、教会の次期教皇と言われておるからのう、このまま我が国にいれば教会本部は我が国に
「へぇー、教会本部って教皇様の場所で変わるんですね~」
「ええ、だから今の教会は良い噂を聞かないわ、帝国から多額の裏金を受け取っているとか」
「フローラ! 証拠のない噂は言っちゃダメだとあれほど!」
「むっ……でも事実……まぁ言っても仕方がないわね、ごめんなさい」
どうやら教会で色々あるみたいだね……。
確か何とか事件で、お母さんが一番の被害者だったんだからね。
「それで面白くない帝国はどうするのかな?」
僕の質問に三人共表情が
そしておじいちゃんが口を開けた。
「恐らくは……戦争になるかもしれんの」
えええええ!?
「せ……戦争!?」
「教会というのは大陸で最も価値のあるモノじゃ、それが他国に渡る事を帝国が許すはずもない、現に帝国が大陸北半分を支配した最も大きい理由も教会なのだからじゃ」
そんな……たった一人のためにそこまでするの?
「クロウくん、『バレンタイン枢機卿の堕落事件』って覚えている?」
「はい! お母さんが関わった事件でしょう?」
「ええ、目的が私だったけど、実はあの時ですら……戦争一歩手前まで行っていたんだよ?」
「そんなに!?」
「ええ、あの時は枢機卿の一人に無理矢理罪を着せたんだけど、あれは枢機卿一人ではなく教会全体の仕業なのよ」
「但し、それについての物証はない。あくまでも当事者である我々がそう感じているだけだよ」
お父さんが頷きながら答えてくれた。
「あの時、戦争にならずに良かったわい……まだ儂も現役ではあったが、誰も『戦慄の伯爵』を止められなかっただろうからのう」
「『戦慄の伯爵』?」
「ん? クロウティア、ちゃんと授業には出ていないのか? 『戦慄の伯爵』は帝国最強騎士の名だぞ?」
「うっ……ごめんなさい……」
授業少し受けてはいたけど、すぐに『ロード』クラスに編入してしまったから……。
「戦争になるとしても、あと数年はかかるじゃろう、今は……セレナディアがおるから大丈夫じゃろう」
「お父様がそこまで認めるなんて――セレナちゃんって、そんなに強くなってますの?」
「うむ、昨日儂の一撃を返り討ちしおったわい」
「『剣聖』だからかしらね」
「ああ、何と言っても最上級職能だからね」
ふふふっ、僕のお姉ちゃんが凄く褒められている!
「何でクロウくんが誇らしげなのよ……」
お母さんから言われてしまった。
「あ、でも素のままだとお姉ちゃんでは、まだまだおじいちゃんには敵わないですよ?」
それを聞いた三人が一斉に僕を見つめて来た。
「素のまま……ってどういう事なの?」
「まさか……」
「ほぉ……?」
あれ? ――何か言ってはいけない事を言った気がする。
ちょっと!? お母さん? お父さん? 何故僕の肩を掴むのかな!?
「クロウ、もしかして……」
「補助魔法かしら?」
「え? はい、そうですよ!」
「補助魔法か、クロウティアは補助魔法も使えていたのか……しかしそんな魔法使った所は見かけなかったぞ?」
「お父様、クロウくんは無詠唱で魔法が使えますから――」
「無詠唱だと!? そんな……馬鹿な!?」
おじいちゃんが物凄く驚いている。
「しかも、その補助魔法って……効果時間が信じられないくらい長いんですよ……」
「だが補助魔法が掛かっている程度の強さではなかったぞ?」
僕は三人にますます言い寄られた。
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