102.現聖女様

 ◆セシリア・セイクリッド◆


 私の名はセシリアです。


 苗字・・は元々は違うけど、今は高位聖職者に与えられる『セイクリッド』の姓を貰っています。


 実は私には前世の記憶がありました。


 赤ちゃんの時から意識がありましたが、まだ首も座らない頃に私の両親は戦争で亡くなられました。


 私の両親はとある元王国の王様だったけれど、アーライム帝国との内戦によって滅ぼされてしまいました。


 私だけがまだ産まれたばかりで、そのまま教会で育てられる事になりました。


 孤児として育てれば、復讐に駆られる事もないだろうと、私だけ許されました。


 そして孤児のまま、教会で育つ事となりました。



 五歳になるまで、教会の下手伝いをしていました。


 この世界では五歳の時に職能開花をするようで、その職能によって進路が決まると言っても過言ではありません。


 ですので、孤児とは言え、五歳の職能開花はとても大事にされました。


 寧ろ、教会では『回復の使い手』を常に確保しようと躍起になっていたので孤児達は凄く期待されているのです。



 そして私の職能開花の日。


 私は『教皇の証』を開花しました。


 実はある程度予想はしていました。


 何故なら、前世の記憶があるからです。


 その話はまた後にしましょう。



 教会から私の職能を聞かれた時に、私は答えずに十五歳になった時に話すと告げました。


 それを聞いた司祭様達は大慌て。


 もしかしたら上級職能以上かもしれないと噂されるようになりました。


 中には『聖女』かも知れないと、私の待遇もどんどん良くなりました。


 それから私はとある目的のために人々を癒し続けます。


 十歳になる頃には、その回復魔法の力で、周りから『聖女』と言われていました。


 ですが私は決して『聖女』ではありませんから『聖女』と発表する事は絶対無いと公言しました。


 教会も信者達も残念がっていましたが、十五になるまで自分の職能は秘密にする事にしていましたから。



 それから多くの人々助け、十五歳になる私は『現聖女様』と呼ばれるようになっていました。


 職能は『聖女』でなくても、私の働きは教会内でも最も貢献度の高いモノでしたから当然と言えば当然だったのかも知れません。


 そして私が十五歳の誕生日の日。


 教会や信者達も待ちに待った私の職能発表の時が来ました。


 そして私の職能――回復系統最上級職能『教皇』である事を公表しました。


 それからはもう大変で、大陸中に私の名前が広まりました。


 しかし、それから三か月後、私は身体に異変を感じました。


 いいえ、実は十五歳の誕生日の日に既に感じていました。


 それは――。


 私が妊娠をしている事が何となく分かったからです。



 前世で子供を産んだ事もありますので、どうすれば子供を身ごもるかくらい分かっています。


 ですが、決してそういう事をした訳ではありません。


 だって、私に子供を産む資格なんてないですから。


 私は既に最上級職能でもあったので、私に見つからずそういう事も出来ないはず。


 しかし、私は十五になる瞬間にこの身に子供を授かりました。




 それから三か月後、やはりこの身に子供がいると確信しました。


 何故、私に子供を授けてくださったのか……あの方は私に何を求めるのか、分かりません。


 しかし、この身に授かった子供は大事にしなければいけません、あの日の悲しみはもうりですから。



 私は子供を身ごもっていると公表しました。


 世間では大慌てでしたが、この世界では十五歳になってすぐに妊娠する事も多くあるのです。


 旦那様は誰なのかと聞かれましたが、旦那様については答えられませんと答えました。


 だって、私にも分かりませんもの、この子には……父親がいないんですから。


 周りの人達は、私に期待したように今度は私の子供に期待を寄せます。


 『聖女』か『聖人』が生まれますようにと皆期待を寄せていました。



 それから半年程が経ち、私は可愛らしい娘を産みました。


 それはとても元気な子で、元気に泣いて、たくさん乳を飲んで、すくすくと成長しました。


 そして五歳の誕生日に職能開花した際、彼女は『魔法使い』と話しました。


 確かに火属性魔法を使えたので、そう公表しました。


 しかし――周りからは期待外れだと落胆されました。



 それから娘が『聖女の出来損ない』なんて呼ばれている事が分かりました。


 何故私でなく娘に勝手に期待して勝手に落胆したのか……それがまた私には怒りを感じずにはいられませんでした。


 だから、彼女が十二歳の時に学園に入る際、一度教会を離れ、帝国ではなくグランセイル王国の王都学園に娘を入学させると教会に明言しました。


 教会からは物凄く反対されましたが、私は子供優先に生きると決めましたから、一切聞く耳持ちませんでした。


 そして、娘が十二歳になった年に娘を蔑んだ帝国を離れ、グランセイル王国へ行きました。


 願わくば、かの公平で勇敢な英雄エクシア家のような良い友人に出会えたらと願いました。



 私は病気を理由にしばらく公務から離れると公表し、グランセイル王国へと旅立ちました。

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