第66話 宝石の真価

「それでは、詳しく話しましょう。その宝石はは『賢者の石』です。しかしその力は失われた…………のではなく、限定・・されています」


 僕は赤い宝石を見つめながら、ギムレットさんにそう告げた。


「限定……ですか?」


「はい、ギムレットさんは『賢者の石』がどういうモノだと思いますか?」


「そうですね……錬金術の最高峰と言われてますから…………大きい魔力MPを得るとかでしょうか?」


「それも一つの答えではあります。『賢者の石』とは、設定した魔法を具現化しつづける……特別な魔石なんです」


「設定した魔法を……具現化?」


 ギムレットさんが不思議そうな顔をした。


「はい、『賢者の石』と言うのはですね……魔法を代わりに行ってくれる魔道具のような物と考えてください」



 ソフィアから言われたのは、『賢者の石』と言うのはそもそも魔法を固定するための触媒と言う事だった。


 『賢者の石』自体がMPや魔力を持っており、込められた魔法を発動させたり出来る。


 言うなれば、魔道具用魔石と全く同じだ。


 但し、魔道具は魔道具師が作ったモノで魔石を燃料にして使えるのに比べ、『賢者の石』は魔道具師が必要ない。


 魔石は小、中、大、特大の四種類あり、小と中は使い切りの魔石となっている。


 大と特大の魔石は魔石中のMPが切れても消える事なく、MPが自然回復する。


 使い放題ではあるが、魔石大はMPが切れたら全回復するまで使えなくなるので低燃費で運用されている。


 貴族御用達の魔道具は基本魔石大が使用されている。


 一般的な魔道具は魔石小中と使用するタイプだ。


 使用する際に魔石を補充する形で魔道具を使用する。


 魔石特大は世界でも数点しか無く、基本は兵器として使われている。


 特大広範囲攻撃魔法を使うための魔道具で使用されている。


 帝国で三基、グランセイル王国で二基所有しているという。



 そんな中、魔石と比べた『賢者の石』はどれくらいの性能なのか……。


 魔石特大は大の50倍、『賢者の石』は魔石特大の100倍程の力を持っていた。


 現在確認されている『賢者の石』は存在していないという。




「では……その宝石にも何かの魔法が使えるという事でしょうか?」


 ギムレットさんが期待の抱いたようだ。


「はい、この宝石が作られた時に、とある『魔法』が込められています。と言いますか『賢者の石』として生まれてすぐにその魔法専用・・の『賢者の石』になってしまったのです。ですので『賢者の石』でありながら、本来の『賢者の石』の運用が出来ないから『賢者の石』であってそうでないと言えるでしょう」


「そうですか……自由に魔法が込められないのならそうですね……ではこの宝石に込められている魔法は……どのような?」


「はい、その魔法は僕が今まで見てきた中で最も素晴らしい魔法だと考えていますし、実は今の僕には一番欲しい『魔道具』になります」


「クロウ様が最も欲しがる魔道具……」


「この宝石に込められた魔法……いいえ、それは魔法というより願い・・でしょうか」


「願い……?」


「その魔法の名は――――――















 『大地生成』です」




「『大地生成』……?」


「はい、この宝石を使用すれば、土地を作る事が出来るのです。それも魔力を豊かに含んだ土地を。それはこの世界で最も価値のある大地になると思います。さしずめ……『奇跡の大地』とでも呼んでいいのかも知れません」


「『奇跡の……大地』」


「この『賢者の石』をお創りになられた方は、『賢者の石』を戦争に使われたくない、争いになって欲しくないと思ったに違いないでしょう。だからこそ作られたその時から大地を……人が生きる大地を作る事を願ったと思います」


「ご先祖様は……やはりそれ程平和を愛し……考えてくださっていたのですね……」


 ギムレットさんの目が潤んでいた。


 『賢者の石』は最も争いになるモノの一つだ。


 それを争いにならずに人々のために使って欲しいと願っていたからこそ『大地』を作る魔法を掛けたと思う。


 人を愛するからこその決断、ギムレットさんのご先祖様はとても優しい人だと思う。




「クロウ様……その宝石を……その力を教えて頂きありがとうございます。ご先祖様の想いが分かっただけでも僕にはとても有意義でした」


「いいえ、僕こそこれ程素晴らしい遺産を見させて貰い嬉しいです。力は人を傷つけるためにあるのではない。人を守るためにあるのだと……その理念は僕も大好きですから」


「はい……僕も子供達に笑顔で生きて欲しいとそう思っております。ですから僕も僕のやるべき事を成します。クロウ様、この宝石を是非買って頂きたい! 僕の領民の希望となる大橋の事業を必ず成功させねば……この宝石を託してくださったご先祖様にも申し訳が立ちませんから」


 ギムレットさんの希望に溢れたその眼差しがとても居心地良い。


「勿論です。先程話したようにこの宝石は僕がもっとも欲しがっていたモノですから……ギムレットさんの言い値で構いません、買い取らせて頂きます」


「分かりました、ですが正直僕にはその値段が付けられないのと、仮にその宝石を使おうとしても有効活用は出来ないでしょう。クロウ様の見立てで構いません。大橋の事業があと3年程で終わる予定です。それに必要な経費や資材があれば良いのでその値段で買ってください」


「……分かりました、本当に僕の見立ての値段でも構いませんね?」


「はい、僕はその宝石を調べ、理念も分かってくださりちゃんと説明もしてくださったクロウ様を信じますから」



 僕は何処か他人を信じられない所がある。


 ダグラスさんを頼ったのも正直……勘でこの人にお金を預けたら絶対に増えると思えたし、最悪の場合『次元袋』から居場所を特定して回収にも行けたから任せた。


 それをダグラスさんは見事に成してくれて、それ以上に僕と一緒に商会まで開いてくれて、今では他人から最も信頼した仲間でもある。仲間以上に僕は彼を家族だと思っている。


 前世で『家族』は支配するためのモノだとばかり思っていたからこの世界の『家族』を異質に感じていた。


 しかしエクシア家に生まれてから『家族』というものがお互いを支え合う暖かいものだと教わった。


 それから周りの他人にも少し目を向けれるようになった。


 前世では学校でも妹と一緒にいじめられたり、近所の方は見て見ぬふりをしていたりと、僕は何処かで他人を拒絶している。


 だから欠損奴隷なんて購入し、彼らを治す事で忠誠という信頼を得ていた。


 精霊眼なんて力を得たから、こっそり相手が噓偽りを言っているかなんて試した事も多々ある。


 それも全て他人が怖いから、信じられないからなのだと……この宝石の本当の事を知った時、そう思ったんだ。



 ギムレットさんはまだ会って数十分しか経っていない僕ですら信じていると言ってくれた。


 思えば……僕は誰かから「信じている」なんて一度も言われた事がなかった。


 いいや、前世の妹は…………きっと一緒に幸せになれるからと僕の事を信じているからと言ってくれていた。


 だから僕は彼の思いに……答えてあげたい。


 全力で応援したい。


 そう思えた。



 お父さんお母さんが平民に寄り添った政治を行っているのもきっとこういう気持ちなのだろうか?


 今度聞いてみようと思う……なにせ僕は……お父さんお母さんの子供なのだから。



「では、宝石の買取額は……」


 僕はギムレットさんを真っすぐ見つめた。


「これから大橋が完成するまで全ての資材を提供します。そして完成するまで現在働いている職人さん達を全員アカバネ商会で雇います。自慢ではありませんがうちの商会の給金は相場より倍以上です。それに希望者を更に募って工事に宛てがいましょう」


「!? それ程まで……してくださるのですか」


 ギムレットさん……涙もろい方なのかも知れない。


「それと、バイレント家には固定額として、金貨2000枚を――」


「ちょ、ちょっとお待ちください!」


「はい?」


「大橋が完成するまでの資材代や職人の給金はかなりの額になるはずです! なのにそこから更にお金は頂けません!」


「いいえ、この宝石にはそれ以上の価値があると言っても過言ではありません」


「いいえ! これ程までに破格な待遇をして貰うのです、それ以上は申し訳ないですから……」


「本当にこの宝石にはそれ以上の価値があるのですから遠慮なんて要りません!」


「いえ、仮にその宝石を僕が使ったとしても大した活用は出来ないでしょう、それは最初から……クロウ様に渡すべく、ご先祖様がお創りになったとそう感じましたから、あるべき姿というやつですよ」


「これは確かに僕が今考えてる最も大事なモノですが、それではバイレント家があまりにも損です。このままの金額で買うなんて詐欺にも等しいくらい安値です」


 何とかギムレットさんを説得する。


 ギムレットさんが何かを考え込んだ。

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