第65話 貯金と面会

 アカバネ商会の一年間の利益がとんでもない金額だった。


 土地代金等引いた金額だというけど、その土地って王国内の全ての町の一等地ばかりだよね? それでも配当金が金貨3000枚も僕の手元に入った。


 別な案件で白金貨130枚もあるから――計160枚になる計算だね。


 そもそもだ、白金貨1枚でどんな買い物が出来るのだろう? それが160枚……。



 決算会議が終わり、次の日。


 僕はダグラスさんの所を訪れた。


「ダグラスさん、お金をどうしようと問題はないんですよね?」


「オーナー、勿論でございます」


「では、アカバネ商会へ更なる投資も可能ですか?」


「……勿論でございます」


 ダグラスさんが渋い顔になった。


 昨日ダグラスさんと初めて口喧嘩したあの事だからだろう。


「ではこれから投資金全部『資金』スペースに入れますね?」


「……金貨3000枚全額ですか?」


「いいえ?」


「ほぉ……てっきり全額要らないからと全額入れてくださると思いました」


「ええ、その通りです」


「ん?」


「今のところ、僕はお金を使う事がほとんどないので、全額投資します!」


「ッ!?」


「全額、金貨3000枚と白金貨130枚をです!」


 それを聞いたダグラスさんは立ち上がり何とも言えない複雑な表情をしていた。


 人間驚くと声が出ず、声が出なくなった人は一度に二つの表情になるんだね。




 ◇




 あれから、ダグラスさんと話し合った結果、『資金』スペースに入っているお金全額僕がいつでも自由に使って良いとの約束の元、全額投資を受けて貰った。


 ダグラスさん曰く、この『資金』スペースからお金が消える事は……寧ろ減る事すらないと言われた。


 なので、いつでもここから使って欲しいと言われた。


 更に、アカバネ商会で買い集めた資材の事だが、現状売らなくても十分に商売が出来ているので自由に使ってくださいと言われた。


 そもそも買い取った物の相場が高く上がったら売る予定だったけど、大量に売るとなると商会ギルドや国がうるさいらしく……いっそのことそのまま集めるだけにして、僕が使いたくなったら使うで良いのではないかって幹部会議で決まったらしい。




 それから数日が経った。


 ディゼルさんから例の領主さんが訪れたとの事で、僕との面会が決まった。


 『オーナー』と会う事を伝えて、秘密にすると『契約の紙』も交わしたという。


 ディゼルさん、仕事が速い。



 総帥室で待っているとノックの音と共にディゼルさんと三十代くらいの男性が入ってきた。


「こんにちは~」


「なっ!? 子供!?」


 彼は僕を見て驚く。


「ギムレット様、こちらが我々のオーナー様でございます」


「ほ、本当なのですね……これは申し訳ありませんでした。思っていた方とあまりにも違っていたもので」


「あはは、僕は全く気にしていませんよ。それに事実ですし」


 ギムレットさんが若干引いていた。


 ディゼルさんは案内が終わり、部屋から出てくれた。


 僕が名乗った後、ギムレットさんに僕の前のソファーに座って貰う。


「ではギムレットさん、こちらは一旦お返し致します」


 そう言い、『賢者の石』と伝わる赤い宝石を返した。


「はい。たしかに受け取りました」


 契約を交わした訳ではないが、社交辞令にこういうのは必要だろうと思う。


「クロウ様lこちらは本当に『賢者の石』だったのでしょうか?」


 恐る恐る聞くギムレットさん。


「その宝石はですね……『賢者の石』であって『賢者の石』とは違うんです」


「『賢者の石』であって『賢者の石』と違う……ですか?」


「はい、もう少し分かりやすく言うのなら、『賢者の石』と言ったところですね」


 それを聞いたギムレットさんの顔が曇った。


「元……ですか…………そうでしたか……『賢者の石』ではなかったのですね……」


 『賢者の石』ではないと落胆するギムレットさん。


 何かを思った後、ふと顔を上げ僕を見た。


「では、この宝石はもう価値がないのでしょうか?」


「いいえ、その宝石には……とても高い価値がございますよ?」


「ッ!? それは本当ですか?」


「はい、それではギムレットさん、その宝石がどのようなモノか、お教え致しましょう、但しこれだけは守って貰います」


 ギムレットさんが唾を飲み込み少し頷いた。


「その宝石を絶対に買わせて頂きます。ギムレットさんの言い値であっても構いません」


 ギムレットさんの顔が驚きの顔に変わった。


「そ、それは本当ですか!?」


「はい、アカバネ商会のオーナーとして約束しましょう」


「それは……ありがたい……限りです」


 ギムレットさんの目が少し潤んだ。


「そういえば、ギムレットさん、僕はその宝石を事業のために売るとしか聞いていませんが、先祖代々受け継がれきたモノなのに売っても良いのですか?」


「そうですね……先祖代々受け継がれては来ていますが、この宝石が何かしてくれる訳でもなく宝の持ち腐れのまま持っていても価値が見い出せないなと思ったんです。先祖はこれが『賢者の石』だと伝えました。それはいつか困難な状況になったら『賢者の石』を使い困難を越えなさいという言葉だったのかなと思います」


 ギムレットさんが小さく溜息を吐いた。


「それに僕はもう決めたのです、あと数年で大橋が完成しそこから山を越えなくても遠回りをしなくてもあの大きな湖を横切る事が出来れば、人の往来も増え貿易も栄えるはずだと。それを次の世代の子供達に夢を見せたいのです」


 ギムレットさんの強い眼差しには強い決心を感じる事が出来た。


「既に覚悟が決まっているようですね。ではそちらの宝石がどんなモノか説明します、その上で値段の交渉といきましょう」


 ギムレットさんは大きく頷いた。

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