閑話 ナターシャ奮闘記とディアナの覚悟
◆ナターシャ・ミリオン◆
アカバネ商会の開店日にイベント『ライブ』を行うとクロウくんから言われた時は何の事か分からなかったわ。
けれど、クロウくんのためになるならと、私はそれはそれは一生懸命に練習した。
そして開店の日、イベント『ライブ』。
私はそれを甘く見ていたわ。
ただの観衆の前で歌って踊るだけだと。
クロウくんから「ナターシャお姉ちゃんの晴れ舞台のために作ったんだよ!」と言いながら『
そして、当日、それはそれは一生懸命に歌い踊ったわ。
衣装がちょっとえっちいのが心配でしたけど、クロウくんから「ナターシャお姉ちゃんのスカートの中が見えないように魔法を使ってるから大丈夫!」と言われ、自分のスカートの中を見てみると、本当に何も見えなかったわ。
そういう魔法と言われ、考える事をやめようと思う。
クロウくんがそうだと言えばそうなのだから。
歌い踊るのは全部で1時間演目。
途中30分くらい経った時、私は気づいてしまった。
大観衆に見守られ、彼らが私の声一つ一つに反応してくれて、私の行動一つ一つに反応してくれる。
あぁ……何て素晴らしいでしょう。
まさにこの世界で一番のお姫様になった気分だわ。
さらに30分。
どうして楽しい時間って、一瞬で終わるのだろうかとちょっぴり切ない。
演目が全て終わり、止まない喝采が更に私を包んでくれる。
まだ……私はここにいたい。
もっと歌いたい。
もっと踊りたい。
もっともっと……みなさんを、私自身を、幸せにしたい。
その時、ふとクロウくんの言葉を思い出す。
「僕は皆さんが『自分の一番やりたい事、やり遂げたい事を楽しみながら頑張って日々を充実して欲しい』、だから働きに給金も休みも食事も出します。だから働くだけでなく、人生を楽しむという事を忘れずに生きてください」
あの時、欠損奴隷達の欠損を全て治して貰った時に言われた言葉。
それは……私にも向けられた言葉だと分かっているわ。
だから、私がやりたい事。
クロウくんと歳が離れているから恋人なんて贅沢な事は望めない。
それでも、クロウくんのためになるなら、私は一生彼を追いかけたい。
でも彼は、何もしない人を嫌う。
他人を見下すのも嫌う。
だから私は彼を――――――好きになったのかも知れない。
だから――――――少しでも長く彼の傍にいるために。
私は『アイドル』になりたい。
いや、私は『アイドル』になるわ。
演目が終わって、声援が沢山聞こえても、この場から離れなければならない。
でも……このままじゃ駄目な気がする。
だから、私は皆さんの前に正座になり、訴えたわ。
みなさんと……この『ライブ』と離れるのが悲しくて泣きそうになって……。
だからそこから必死に私は訴えたわ。
どうか、私の『ライブ』をこのまま終わらせないで。
私はいつまでもここにいる。
だから……。
――だから!
みんな!
その後、私は渋々ステージを後にする。
遠くに見えるあわあわしているクロウくんが可愛い……。
私の『握手会』のための『プラチナカード』が告知されたわ。
正直、この商品が売れなければ、次の私の『ライブ』はないと思う。
クロウくんはとても優しいのだけれど、現実主義だからまた『ライブ』はさせてくれないかも知れない。
だから私はその日からずっと祈り続けた話。
神様、私に力を……
数日後の夜、お父さんが慌ただしく私の部屋にやって来たわ。
ノックもせずに息荒れに入ってきたお父さんは――――。
「ナターシャ! 『プラチナカード』が……『プラチナカード』が追い付かないくらい売れたぞ!!!」
お父さんもずっと気にしてくださっていて、涙ぐんで話してくれるお父さん、世界一カッコいいわ。
いや、クロウくんの次だから二番目かしら?
私も嬉し涙を流した。
◇
◆ディアナ◆
クロウ様のアカバネ商会が開店して一週間が経ち、初めての休日を迎えました。
私の仕事はお客様案内係です。
店の説明や買取順番札を渡したりと、充実して楽しい毎日でした。
中には女性のお客様もいらして、「まだ小さいのに頑張ってるわね」と頭を撫でてくださるお客様もいてとても嬉しいです。
初日、イベント『ライブ』を行ったナターシャさんは、今では街一番の人気者になっています。
ナターシャさんは私をとても気に入ってくださって、良く二人でご飯を食べたり、お話をしたりします。
昨日ナターシャさんから「私はこれからもクロウくんの傍にいるために『アイドル』を頑張るつもりなの。ディアナちゃんはどうなの?」と聞かれました。
意味が良く分かりませんと言ったら、「ただ従業員として働いても、彼の傍には立てないのよ?」と言われました。
ポカーンとしていると「ディアナちゃんには強くなれる才があると思うの。それで誰よりも強くなったら――――クロウくんの傍で護衛として護れると思うわ」と…………。
その後、お父さんお母さんにも相談してみました。
お父さんお母さんはアカバネ商会の護衛隊の指南役をしています。
「ディアナ、もし君がクロウ様のために強くなりたいと言うのならお父さんもお母さんも応援するよ。但し、強くなるという事はそう簡単な事じゃない。血反吐を吐くくらい苦しい訓練が待ち受けている。それでも強くなりたいかい?」
お父さんが真剣に、でも優しく聞いてくれました。
「はいっ! 私はこれからクロウ様を守れるように強くなりたいです!」
「そうか、分かった。それではこれから毎日、朝と晩に訓練をする。良いね?」
「はいっ! お父さん! お母さん! 宜しくお願いします!」
それから私はクロウ様の護衛を目指して毎日訓練に明け暮れるのでした。
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