第41話 忠誠心のある奴隷

「やはり…………」


 奴隷伯爵さんに案内されて、やって来た部屋には大きな檻がたくさん並んでいた。


 そして、その中にいたのは、奴隷達だ。


 しかも…………普通の身体ではなかった。


 ある者は病気をしており、ある者は手や足がない。


 ダグラスさんは何となく予想出来ていたらしい。



「はい~、こちらが購入さえして頂けたら、間違いなく忠誠心のある奴隷達、欠損奴隷達でございます~おほほ」


 欠損奴隷…………か


「オーナー、やはり欠損奴隷でした。もしやと思いましたが申し訳ございません」


「ん? 何故謝るのです?」


「はい、欠損奴隷は買っても使い物にならない奴隷の事です、ですので…………」


「ふぅん~…………」


 確かに身体の損傷があったり、病気を患っていると働けないからね。


「おほほ、クロウ様のご希望通りの奴隷達でございますよ~?」


 この伯爵、僕の事を試すかのように見つめてくる。



 僕は幾つかの檻を見て歩いた。


 手や足が無い者、目に包帯を巻いてる者、病気で苦しんでいる者。


 そして、みんな同じ共通点があった。


 目に生気がないのだ。


 それもそのはず。欠損奴隷は最早死亡宣告・・・・のようなモノだからだろうから。


 少し見た目の良い者なら……玩具用に…………かも知れない


 そんな彼らは自分が陥った状況を理解しているのだろう。


 いつ死ぬかも分からない。そんな目をしている。


 何故僕がそんな彼らの気持ちを分かるのか、それは僕の前世と同じ目をしていたからよく理解出来る。



「伯爵さん……わざとですね?」


「おほほ、わざとですか? いえいえ~そんな事ございませんよ~?」


 伯爵さん、目が笑ってないですよ。


 はぁ……。


「伯爵さん、一つ僕と『契約』をしませんか?」


「ほぉ……、『契約』でございますか?」


「えぇ、紙は使いませんので、口約束で構いません」


「さて……どんな『契約』でしょう?」


 伯爵さんが真剣な目になっている。


「僕がここにいる奴隷の中で生きる気、やる気ある者を全員買います、ですのでこれから同じ苦境の者がいたら、全員僕に売ってください。どうですか?」


「おほほほ~」


 それを聞いた伯爵さんが大笑いをしている。腹が凄く揺れる。


 そして、その笑いが止まり、物凄い目で伯爵さんが見てきた。


「良いでしょう。欠損奴隷は価格も凄く安いですから全員購入してくださるのも可能でしょう。――――――但し」


 『但し』の所で伯爵さんの声のトーンが低くなった。


「私はね。こんな商売をしてはいるが、奴隷達を蔑ろにされるのはとても嫌いだ。だからもし買ってから、蔑ろにしたのが分かったら、私は君とは二度と関わらない。それでも良いかね?」


 伯爵さん……それは本性なのね。


 隣にいたダグラスさんが少し震えている。


「えぇ、もちろんです。僕はやる気があり努力する従業員・・・は、決して見捨てたりしませんよ?」


 この伯爵さん、少し本気を出している。


 普通の人なら怖いだろうと思う。


「……おほほ、これにも動じませんか~本当に小さき賢人さんは素晴らしい~!」


 やはり……試されていたみたいだ。



 なので、それに応えるためにも僕は大声で部屋中に叫んだ。



「この中に、僕の商会で働きたい奴隷は前に出なさい! 欠損していようとも、努力する者を僕は見捨てたりはしない! だから誠心誠意で働いてくれる奴隷は僕の元に来い!」



 そう叫ぶと、全ての檻の中がざわつく。


 そして一人、また一人、檻の前に近づいてきた。


「だ、旦那様! 腕はございませんが足がございます! 誠心誠意に働かせていただきますからどうか!」


「ぼくもだ! 足は無くても絶対に役に立ちます!」


 全ての檻から声が上がった。


 あぁ…………彼らはもうすぐ死ぬかも知れない恐怖に、一度は死んだのも同然だろう。


 そんな彼らが今生きようと産声・・を上げている。


 もちろん、全員連れていく。


 そう決めた。



 それから欠損奴隷全員の購入手続きをする。


 普通の奴隷は銀貨10枚から100枚が相場らしいけど、欠損奴隷はその10分の1だそうだ。


 更に24人いた欠損奴隷を銀貨20枚に負けてくれて、伯爵さんは初めての買い物ということで、普通ならば奴隷魔法が一人銀貨1枚はするのに、全員無料でかけてくれた。


 正直その奴隷魔法なんて要らないんだけど、ダグラスさんから大事なのでと勧められたので素直に従う。


 彼らは数時間後にはホルデニア支店に届くそうだ。



 その手続きが終わった後、伯爵さんから、


「小さき賢人さん~見て頂きたい奴隷がもう1組いますが、いかがでしょう~」


「ん? 欠損奴隷がまだいるんですか?」


「う~ん、欠損奴隷と言えば欠損ですが、そうでないと言えばそうでないので難しいですね~」


 ん? 欠損と言えば欠損だけど、そうでないと言えばそうでない? どういう事なのだろう?


「実はとある奴隷家族がございます~親2人に娘1人の家族構成の奴隷ですね~」


「ああ、なるほど? もしかして家族全員をまとめて買わないといけないとかですか?」


「おほほ、その通りです~しかも残念な事に、少々値段が張ります~」


「ふむ、でも勧めるからには……?」


「は~い、これは私の一押し家族奴隷でございます~但し、娘が病気なのです~」


「あぁ……それで……親は問題ないのに娘が病気なんですね? それでどのくらいの価格なんですか?」


「はい~、金貨1枚でございます~」


「金貨1枚!? アドバル殿? それはいくら何でも高額すぎやしませんか?」


 ダグラスさんが驚いた。


 家族とはいえ、奴隷3人に金貨1枚は凄い高額なのだろう。


 勿論買えない程ではないけど、とても気になる。


「ダグラスさん、良いですよ。伯爵さんが一押しと言う程の奴隷達です。ぜひ見させて貰いましょう」


「はっ……しかし金貨が掛かる程の奴隷なんて…………」


 ダグラスさんも商売人だからね。金貨1枚は既に僕には大した額ではないけどどうしても気になるようた。


「えぇ~絶対に損はさせませんよ~」



 それから伯爵の案内で奴隷達の奥にある部屋へやってきた。


 その部屋には一つだけ大きい檻があり、その中に3人の人影が見える。


 まず、その3人の見た目に驚いた。何故なら獣人族だったからだ。


「こちらはあの有名な銀狼族の奴隷でございます~」


「銀狼族!?」


 ダグラスさんが反応した。


 有名な種族なのだろうか?


「銀狼族は高い戦闘能力を有していて、護衛用奴隷の中では一番の人気のある種族でございます」


 へぇー、確かに見た目通り凄く強い。


「おほほ、ですがそれだけではありません。こちらの男性の方はその上位と言われる黒銀狼なんです~」


「黒銀狼……銀狼族で稀に生まれる天才だったような…………」


 さすがダグラスさん博識だ。



 そんな中、檻の中の銀狼族両親は殺気たった目でこちらを睨んできた。

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