第33話 遠話
ダグラスさん達が発つ日がやってきた。
挨拶兼『遠話の水晶』を渡しに顔を出す。
「ダグラスさん!」
「オーナー!」「オーナー!」
二人は買い物を終わらせ、船に乗る前だったみたい。
「二人ともこれを付けてください。『次元袋』を改良して、物じゃなくて声を出し入れする水晶を作ってみました!」
「声を……出し入れ……ですか? ……?」「綺麗な腕輪です!」
二人とも渡された腕輪を迷うことなく付ける。
「これを使えば、いつどこにいても会話が出来んです!」
「なっ!? それは本当ですか!」
「船に乗ったら試してみましょう! 使い方は水晶に触れながら送りたい相手を浮かべて語り掛けると、言葉が瞬時に相手へ届くようになってます~」
アヤノさんはキレイ~って呟きながら眺めているが、ダグラスさんは天を仰いだ。
「これは『次元袋』と同等に商売に強く…………これは……」
「では、お二人ともいってらっしゃい!」
「はい。行ってきます」「お任せください!」
そうして、二人を見送った僕は、『遠話の水晶』で遠話を試し、ダグラスさんは「とんでもない物を持ってしまった」とぼやいた。
◇
数日が経過した。
今日は久々もお姉ちゃんとの稽古の日。
いつもの訓練所に行くと、お姉ちゃんが待ち構えていた。
「ねぇ、クロウ?」
「うん? どうしたの? お姉ちゃん」
「この前、水晶ってどうなったの?」
「うん? あれはお姉ちゃんの案を採用して、ブレスレットにしたよ!」
「そ、そう?」
「うん! 相手も凄く喜んでくれたよ!」
「へ、へぇー」
何かお姉ちゃんがどんどんジト目になっていく。
「……」
「……」
ジーっと僕を見つめるお姉ちゃん。
「……?」
「……」
「えっと、お姉ちゃん? どうかしたの?」
「……」
「あ、あの? お姉様?」
「ん! もう! クロウなんて知らない!」
「ええええ!?」
お姉ちゃんはそのまま走り去ってしまった。
何故だぁぁぁぁ!?
「ちょ、ちょっと待ってよ! ねぇ! お姉ちゃんってば!」
くっ!? 追いつけない……だ……ど!?
しまいにはお姉ちゃんを見失ってしまった。
どうしたんだろう…………お姉ちゃん、僕は何かいけない事をしてしまったの?
そこに偶々通りかかったメイドのリーナさんがいた。
「あっ、リーナさん! お姉ちゃんを見かけませんでしたか?」
「クロウ様、いいえ? どうかなさいましたか?」
「ん……実は――――」
リーナさんに先程の事を話した。
「なるほど、セレナ様のアドバイスで作ったアクセサリーを相手に渡して、その方から好評だったと…………」
「そうです、相手方もペンダントよりはブレスレットの方が良かったと…………」
「クロウ様、お相手様に初めてアクセサリーをお贈りになられたんですよね?」
「はい? まぁ……初めて……かな?」
袋は先に渡してたけど、アクセサリー類とは違うし、今回の『遠話の水晶』はブレスレット型だからアクセサリーかな?
「えっと、クロウ様。お相手がどんな方かは分かりませんが、異性の方にアクセサリーを贈る事は好意を示すのですよ? しかもセレナ様にはその事は一言相談もせず、セレナ様の提案のアクセサリーをお贈りになられたのなら…………」
「え? ん~確かに渡したのは異性ではありますがもう一人は男性ですし……?」
「はい? お相手様は女性の方ではない?」
「女性も一人いますが、男性も一人いますよ?」
「う~ん、つまりクロウ様は女性の方を気を引くために、アクセサリーをプレゼントした訳じゃないと?」
「えぇぇぇ!? そんな事しませんよ!」
ちょっと顔が赤くなった気がした。
「それならば……恐らくですが、セレナ様は誤解なさった可能性がございますね」
「ご、誤解?」
「クロウ様が女性の気を引くために、アクセサリーをプレゼントなさったと」
「ええええ!? そんな訳ないでしょう!」
これは急いでお姉ちゃんを探さないとまずい気がする。
ここは全力で、『精霊眼』発動!
どれどれ――――いた! 屋敷の屋根の上か!
「リナさん! ありがとう! ちょっとお姉ちゃんとこ行ってきます!」
僕は足早に屋根の上に駆け上がる。
「お姉ちゃん!」
「ッ!? クロウ!? どうしてここが!?」
ちょっと目が赤いお姉ちゃんがいた。
そして逃げ体勢に入る。
「ち、違うんだ! お姉ちゃん! アクセサリーは男性に贈ったの!」
「へ?」
驚いた顔でこちら見た。
何とかお姉ちゃんの腕を捕まえる事が出来た。
「ふぅ…………誤解なのお姉ちゃん! あのブレスレットは男性一人女性一人に贈ったの!」
「えっ? …………どういう事?」
「んとね、あれは僕の仲間に預けた仕事道具なの」
「へ? 仲間? 仕事道具?」
「うん! だから決して異性の気を引くために作った物ではないよ!」
「そ、そうだったの……、だったら早く言いなさいよ!」
「ごめん…………まさかそんな風に思われると思ってなくて」
「ふ~ん」
「ぼ、僕は世界一お姉ちゃんが大好きだから!」
「えっ」
お姉ちゃんの顔が真っ赤になった。
何だか僕も顔が熱い。
「だ、だから! 異性にプレゼントを贈ったりしないから!」
「う、うん、ゎかったゎよ…………」
う…………照れるお姉ちゃんも世界一可愛い。
「それはそうと、仲間と仕事道具について説明しなさいよ」
「ん~、まだ言える程のじゃないからな……」
「え~、じゃあ、あのブレスレットは何のために作ったの?」
「あれはね、遠く離れていてもお互いに声を届ける事が出来る道具なの、『遠話の水晶』って名付けたよ」
「うん? 声を届けてどうするのよ」
「お互いに瞬時に声が届くから会話出来るの」
「え!? ちょっとクロウ? それクロウが作ったの!?」
ちょっとお姉ちゃん近い、近過ぎる! めちゃ良い匂いするし、近い……。
「う、うん、そうだよ?」
「むっ」
お姉ちゃんが両手を出してきた。
「私も欲しい! それがあればいつでもクロウと話せるんでしょう!?」
「えっ、そうだね。分かった! 後で作って持って行くよ」
「ダメ! 今直ぐ作って!」
「へ? …………稽古は?」
「稽古よりこっちが大事よ!」
あのお姉ちゃんが稽古より優先するなんて、余程欲しいのね。
ブレスレットの枠と魔石を取り出す。
風属性魔法で魔石を丸く削る。
それを眺めてるお姉ちゃんは尻尾はないが餌を待って尻尾を振っているワンちゃんに見えてきた。
数分で綺麗な水晶が出来た。
水晶に『遠話用の魔法』を設定し、ブレスレットに付着させて、完成!
「はいっ、お姉ちゃん」
「むっ」
お姉ちゃんは左腕を前に出した。
「??」
「付けて!」
「あっ、はいっ」
お姉ちゃんの左腕に『遠話の水晶』ブレスレットを掛けると、お姉ちゃんは嬉しそうに笑う。
何だか、僕も笑みがこぼれた。
「クロウ、ありがとう」
「どういたしまして」
それからお姉ちゃんから朝、昼、晩、と毎日遠話が飛んでくる毎日だったが、悪い気はしなかった。
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