第24話
二人きりの旅行を一週間後に控えた週末。
みなみは相変わらず夕陽の部屋に入り浸っていた。
夕陽は夕食用のもやしの髭を取る作業に没頭している。
みなみはそれを幸せそうに眺めていた。
「何だよ、こっちをじっと見て」
気付いた夕陽が怪訝そうな顔をする。
「えっ?あれ、見てたっけ」
「あのなぁ。そんなに見られてると居心地悪いってか……」
急に目元を赤らめて視線を逸らす夕陽にみなみが目を細める。
「キスしたくなったとか?」
「…………正解」
「おっ。珍しく素直〜」
するとみなみは首を伸ばしてチョンと触れるだけのキスをする。
「それだけじゃ物足りない」
夕陽はみなみの身体に触れないように顔だけ寄せて更に深く口付けてきた。
角度を変え、何度も。何度も。
「はぁ……夕陽さん、キス上手いなぁ。
ヤバ過ぎ。それで何人の女の子をメロメロにしてきたの?」
キスの残滓が残るみなみの唇を親指で拭い、夕陽はちょっと意地悪な笑みを浮かべる。
「ノーコメント」
「あー、ズルい」
「逆にお前こそ全然慣れないな。今でも身体に触れそうになるとすぐガチガチになるし。今までドラマや何かで無かったのかよ、そういうシーン」
「ないよ!そんなのっ。それに、お…オンナに過去を訊ねるのはNGなんだぞ」
「あー。はいはい。スミマセンでした」
軽く笑い、夕陽はもやしの作業を再開する。
何をするにも楽しい二人の時間。
みなみは擽ったい気持ちをクッションにぶつける。
「ねぇ、夕陽さん。旅行はどこ行くの?フロリダ?モルディブ?それとも…」
「お前はもう少しこの世の物理法則を学んだ方がいいぞ。いいか?一泊二日だぞ。国内、それもこの近辺に決まってるだろうが」
夕陽は旅行の行き先をみなみに告げていない。
行くまでのお楽しみと言っている。
「ふーん。じゃあ楽しみにしてる。ねぇ、ところでそれ、何作るの?」
みなみはボールの中の大量のもやしを示す。
「特製野菜炒め」
「え〜、またぁ。あれ美味しいけど頻度高過ぎ」
「うるせー。野菜がたっぷり摂れて身体にいいんだよ。それに笹島なんて畑を食い散らかす害獣並に食うぜ」
笹島は毎回この野菜炒めを作る度に喜んで食べる。
お陰で野菜炒めの腕前はかなり上がった。
笹島曰く、路地裏で店が持てるレベルだそうだ。
「う〜っ、笹島さんと一緒にしないて欲しいな。それより私だってご飯作れるよ?」
すると夕陽は嫌な顔をして立ち上がる。
「嫌だよ。お前の作るメシは甘いやつばかりだからな」
みなみもテレビ番組の料理対決等の経験を経てそれなりに上手いのだが、作る物は大体相手に忖度しない、甘いパンケーキやフルーツサンドといった自分の食べたいものばかりだ。
「そんな事ないよ。今日はハチミツたっぷりの……ふにゃっ?」
言いかけた唇を甘く塞がれる。
「今日はいつもより美味しく作るから、大人しく待ってな」
「は…はわっ。何か今日の夕陽さん凄くイケメン」
「は?いつも言ってるやつだろそれ」
みなみは耳朶を赤く染めて呟く。
「…違うよ………今日は全部イケメンって事だよ」
「バカか」
夕陽に一蹴され、みなみはあまりの恥ずかしさにソファに沈んだ。
☆☆☆
その頃。笹島はある準備をしていた。
「さて。いよいよ親友の恋のお助けマン始動だなっ」
夕陽は旅行前に笹島にある事を頼んでいた。
野崎詩織を足止めして欲しい。
野崎詩織とは、永瀬みなみを攻撃する過激なネットストーカーだという事がわかっていた。
これは一部のファンたちの間では有名な話らしく、笹島はその特定にそれ程時間を要さなかった。
しかし本題はここからだ。
何故彼女がみなみを攻撃するのかがわからない。
それはみなみが高校一年の時に留年した真実に隠されているような気がした。
「親友の為に一肌脱ぐ俺、かっくい〜。なのに何で彼女が出来ないんだ?」
笹島は気合いを入れ、目的の人物が来るのを待つ。
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