第30話 下級龍の納品
「レイナーいるー?」
「はいはい、レイナはここにいますよー。今日は随分遅かったですね。心配してたんですよー」
冒険者ギルドに入っていつもの様にレイナを呼ぶと受付の奥からレイナがニコニコと笑顔を浮かべて姿を現す。
レイナが心配していたというのも無理はない。
日はとっくに暮れてしまい、もう外は夜空に星が瞬いている。
ミミとフィーの狩った魔物――龍の下級種でサブマノゲロスと呼ぶらしい――は馬車では運搬できない為、木の板にロープで括りつけて三人で引き摺ってきた。
馬車の御者台には一応ノルを座らせていたが、馬は俺の横を並走するようにゆっくり進ませていたのでこんな時間になってしまったのだ。
「いやー……はは、ちょっと予定外のことがあってね。今日はちょっと荷物が多いからできたら人手を貸して欲しいんだけど」
「人手ですか……もうこんな時間だし確保できるかな?」
「人手が必要なら俺が手伝ってやろうじゃねぇか。一体何を狩って来たんだセレスト」
「うわっ! 支部長! いつの間に現れたんですか」
カウンター越しにレイナと話をしていると背後から声を掛けられたのでびっくりして振り返ると支部長が立っていた。
前に対峙することになったときもそうだったけどこの人の気配を殺して移動する技能はやばいな。
「いつの間にも何もお前はギルドに来る度に大声を出すからいつも聞こえてんだよ」
「え? そうだったの? それはごめんなさい」
確かにギルドに来るたびに大声で呼んでいた気がする。
注意されなかったので気にしていなかったけど聞こえてたのか。
「パパの言うことは気にしなくていいですよ。セレストさんは私の専属冒険者ですからね! それよりパパ、手伝ってくれるなら早く行きましょ!」
「レイナ、お前なぁ……はあ。まあいい、それでモノは何処にある? ああ、それと奴隷たちはどうした?」
「ルビィが途中で寝ちゃいましたからね。アイシャとノルが連れて戻ってるよ。獲物は街の外で二人が見張ってる」
「そういうことなら出向くのは俺だけにしよう。レイナ、お前は街の外には連れて行かんからな。査定と解体用の職員を手配しておけ」
「ぶー! パパのけちぃ」と頬を膨らませるレイナに謝罪をして支部長とギルドの外へ出る。
もう暗いとは言え、街の外にミミとフィーを待たせているから早く戻らないと心配だ。
◇
アクシスの城門を抜けた林。
「ミミ、フィー。待たせたね」
「別にもうちょっとゆっくりしてきても良かったのにゃ……」
「全くだ。これでは……はぁはぁ……ろくに、休憩にもなら、んんっ……」
木の幹に身体を預けて蹲り、呼吸を荒くへとへとに弱り切っているミミとフィー。
「お前、なんか変なことしてたんじゃないだろうな?」
支部長が何故かこちらをじとりと睨む。
そんな訳ないでしょうが。
「アレをここまで引きずって運んで来たんだよ。俺だってへとへとなんだからそんなことする訳ないでしょ」
支部長のざれ言を一蹴、二人の寄りかかる木のさらに向こうに横たわるサブマノゲロスを指で示す。
「――ッ! 龍か! しかも頭以外傷ひとつ付いちゃいねえじゃねぇか。こいつをお前らだけで狩ったってのか?」
サブマノゲロスを確認した支部長が目を見開き、興味津々と観察する。
「やったのはミミとフィーだよ。今回は俺は運んだだけ」
俺はサブマノゲロスの名前どころか龍だということも知らなかったけれど支部長はサブマノゲロスを見たことがあるようだ。
まあ、街にほど近いところに現れたのだし、下級種のようなのでもしかしたらそこまで珍しい種族ではないのかもしれない。
「嬢ちゃんたちだけでやったのか。サブマノゲロスの鱗は岩よりも頑丈だ。ベテランの冒険者でもこんなに綺麗に仕留められる奴はそうはいねぇんだぞ。末恐ろしいやつらだよ、お前らは」
支部長はそうは言うが、多分支部長ならあっさりと一刀両断しそうな気がするのでどこまで鵜呑みにしていいのやら。
「これ、ここまで運んだはいいんだけどさすがにミミとフィーを連れて門を通ったら目立ちすぎるかと思ってさ」
ミミやフィーは人間とは体の構造が違うのか、外見からは普通の少女や美人のお姉さんと言ったところなのだが、それなりに力があったので運ぶのはなんとかなった。
街まで運ぶのは可能だったのだけど、サブマノゲロスと夏に外套をすっぽり被った二人というのはどうにも目立ちそうなので止めたのだ。
「そりゃあ正解だな。サブマノゲロスはアクシスの開拓前にはそれなりの数がいたが、今は街からは距離を取って暮らすようになって討伐数が減っている。傷の少ない龍が納品されたとなりゃ大騒ぎになったろうさ」
お? っていうことはサブマノゲロスの買取は結構期待できちゃう?
「そういう訳で支部長にギルドまで運ぶのを手伝って欲しいんだけどいいかな?」
「お前には奴隷の件と嬢ちゃんたちの件で世話になってるからな。構わねえよ」
――ということで、付かれているミミとフィーはそのまま休ませて支部長と二人でサブマノゲロスを引き摺ってアクシスの街へと戻る。
既に暗く、まばらに輝く松明や蝋燭の炎の明かりと酔っ払いの唄が何処からともなく流れてくるのを聞き流しながら街を歩けば、サブマノゲロスに驚いた市民ががやがやと騒ぎながら後ろを付いてくる。
未知の魔物に怯える新米冒険者、久しぶりの大物に興奮するベテラン冒険者。
これからギルドに納入されるであろう素材を値踏みする商人。
あとは――なぜか笑顔で手を振って来るドレスを着た女性たち。
昼間のアクシスじゃ見かけないけど、飲み屋の給仕さんかな?
とにかく、そんなこんなでまるでお祭り騒ぎの街をギルドまで。
辿り着いた先で驚いて目を丸くした後にニッコリ笑ったレイナに抱き着かれたり、夜遅くに運び込まれた大物に頭を抱える解体の為に待機していた職員たちに謝ったりして。
「ではこちら、解体手数料を引いて龍種サブマノゲロスの買取金額金貨110枚です」
「マジか……」
レイナがにっこり笑って受付カウンターに十枚重ねの金貨の山を11個作る。
俺はたった一日で家を建てられる程の大金を手にしたのだった。
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