第18話 古代文字と魔法書
ギルドに納品を済ませ、仮拠点まで歩いて戻ってきた頃には既に空には月が輝いている時間だった。
さすがに暗すぎるのでまずは火を起こそうと焚き火の支度をする。
石と枝を拾い集めてフレイムの魔法陣の上に設置、詠唱して火を起こす。
枝に水分が残っていたのか最初は不安定だった火が安定したのを見てほっと一息つく。
可愛い弟のジェドを廃嫡させない為に俺は魔法が使えることを隠していた。
けれど今は隠す必要もないし、生きていく為には色々な魔法を使えるに越したことはない。
「確かこの辺にしまったと思うんだけど……」
雑多に散らかった荷物の中から一冊の本を取り出す。
この本は実家で暮らしていたときにこっそりと魔法書の内容を書き写したもので、旅に出る時に財布とこの本、そして狩用のナイフを一本だけ鞄に詰めて家を出たんだよね。
魔法書を手に取り、まず身につけるべき魔法を考える。
と言っても、この1ヵ月の暮らしの中で必要なものはなんとなく考えていた。
まずは水を生み出す魔法。
今はアクシスから水筒に水を入れてきているが、水魔法を覚えれば飲み水に困らない。
川の水は上流の様子がわからないので飲料として使うのは少し心配だ。
井戸を作るまでの代用にしたい。
次に土魔法。
拠点の周囲を囲うのに木材を揃えるのはそれなりに資金がいるので、土魔法の壁で最低限の囲いを作りたい。
囲いがあればルビィをもう少し自由に駆け回らせてあげられる。
ということで、ページをめくり目当ての魔法について書かれたページを探す。
「ウォータースフィア……球状の水を生み出す。生成した水は飲料として使用できる。アースウォール……大地に呼びかけ壁を生み出す。舗装された道路の上や家の中で使用すると道や床を破壊してしまうので要注意、か」
とりあえずはこの二つを覚えるのでいいかな。
まずは水魔法の練習からはじめよう。
魔法書を参考に土の上に魔法陣を描く。
練習なので魔法陣のサイズは手のひらより一回り大きいくらいのサイズに縮小。
その上に水を受け止めるための鍋を設置。
「よし。――清浄にして明瞭 青の恩恵よ 星環抱擁! ――ウォータースフィア!」
魔法陣に向けて右手をかざし、魔法書の通りに詠唱。
詠唱を通して体の外に放出された魔力を右手で制御して魔法陣の上に集約する。
まるで空中に目に見えないグラスがあるかのように、何処からともなく水が注がれてグラスの底から行き場のない水が波を打つように溜まり――やがて完全な球形の水がその場に生まれる。
「よし。成功した!」
そのままウォータースフィアで生まれた水を鍋に落として焚火のそばに置く。
これはあとで温かいものが飲みたくなった時ように取っておくとして。
次は土魔法の練習と行こう。
先ほどと同じように小さ目の魔法陣を描く。
いきなり大きなものを作っても邪魔になるだけなので、こちらも目安は自分の手のひらより小さいくらいの石壁を作ってみよう。
「強硬なる意思は白の豊穣 正義の盾よ 黒の鏃を打ち払え! ――アースウォール!」
詠唱を終えると、ずずずと魔法陣の上に土が隆起して壁が出来上がる。
周囲の地面は変化がないのでまったく新しく土壁が生まれたようだ。
今回はあまり魔力を込めなかったけれど、どのくらいの強度なんだろう?
こつんこつんと指で弾いてみたり平手で叩いてみるが壊れる様子はない。
「じゃあこれならどうだ」
拠点づくりに使用したハンマーで横からフルスイング。
「……さすがに壊れちゃうか。これは魔力の込め方とか陣の組み換えでもうちょっと頑丈になったりするのかな?」
砕け散ったアースウォールを片付けて、もう一度魔法陣を描く。
魔法陣は複数の記号と古代文字で描かれている。
魔法書には現代には古代文字を読める人物は既に居ないと書かれているのだが、不思議なことに俺は何故か古代文字が読めたりする。
古代文字は自然と知っていたので現代語より早く理解してしまっていたくらいだ。
その特異性のおかげか、現代語も2才の頃には完全に覚えて大人の会話にもついていけたし、難しい本を読むこともできた。
俺とジェドの行く末を知ったきっかけでもある。
あの頃の自分は知りたくもないことを知ってしまうこの才能のことが疎ましかったけれど……。
「自由に暮らせる今となってはありがたいと思えるようになったかな」
星空を見上げながら遠い故郷を思い出すと、つい独り言が口をついてしまう。
さあ、そんなことよりも魔法陣を組み替えて拠点の外壁にぴったりな魔法に改良することにしよう!
魔法の改良は
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