第10話 奴隷たち
「ふむ。君のシールドは範囲を広げられるので奴隷を連れていても問題がないということか……しかしどうしたものか」
俺の
広げすぎるとシールドの強度が下がる恐れがあるが、街を丸ごと覆うとかでなければ多分大丈夫だと思う。
しかし、それより歯切れの悪い支部長が気になる。
「まだ何か問題が?」
「まあ、見て貰えばわかるか。レイナ! どうせそこにいるんだろう! あいつらを連れてこい!」
「ひゃ、ひゃいパパ! すぐに連れてきますー!」
執務室のドアの外に向かって支部長が叫ぶと、間の抜けたレイナの声とばたばたと慌ただしい足音が響く。
「レイナのお父さんだったんですか?」
「……どうでもいいだろう。とにかくあいつが戻ってくるまで座って待っていろ」
ばつが悪いのか、顔を顰める支部長の様子にあまり立ち入るのも良くないか、と促されるままに空いている椅子に腰かける。
ドアの外にレイナがいるのに気づいていたから俺の後ろに回り込んで攻撃してきたのを見るに、別に仲が悪いとかじゃないんだろう。
◇
「三人を連れてきました」
執務室のドアが開き、レイナに続いて奴隷らしき三人が部屋の中に入って来る。
「これは……」
思わず声が漏れる。
そりゃ、レイナも支部長も歯切れが悪いわけだ。
「ほら、みなさん。セレストさんに自己紹介して」
「ルビィです! ななさいですっ!」
「ノル。9才だ」
「アイシャです。年齢は……27です」
レイナに促されて名乗ったのは薄紫色の髪をしたルビィという妹のミリアよりも体の小さな少女――というか幼女。
続いて無口そうな黒髪のノルという少年。
そして年齢を言うのに若干間を置いたのは、何故かひとりだけ大人っぽいというか大人なんだけど……とにかく、なんだかふわふわした雰囲気の女性。
「今うちで手が空いているのはその三人しかいない。見ての通り子供と女だ。君の求める運搬作業をさせるのには……まあ、向いてないだろうな」
執務用の椅子に腰かけた支部長が顎鬚を撫でながらそう言って俺から視線を逸らす。
「そんなぁ!? それじゃあこのこたちのこと雇ってくれないんですかっ!? セレストさん! そんな意地悪しませんよねっ!?」
支部長の様子に慌てたレイナが駆け寄ってきて服の襟首を掴んでぐわんぐわん揺らしてくる。
「ちょ、ちょっと待ってよレイナ。どうしてそんなに必死なのさ」
別に俺も雇いたくない訳じゃないけど、彼女らを雇っても獲物の運搬なんて重労働はさせるのは気が引ける。
というか、同じ理由で彼女たちにはアクシスでの仕事がないのだろうというのは容易に想像がつく。
「というか支部長。アイシャさんはともかく、そもそもどうしてこんなこどもたちを買い付けてきたんですか」
レイナのぐわんぐわんを回避するため支部長に訴える。
「そのこどもたちは買い付けたんじゃない。犯罪奴隷がギルドに黙って生んだ子供だ。親が誰かもわからない。産まれてすぐにギルドの前に捨てられてたのを保護したんだよ」
「アイシャさんは?」
「アイシャは犯罪奴隷ということになっているが、グランバリエの貴族に襲われそうになって逃亡したせいで犯罪者として手配されてしまったのを拾っただけだ。厄介ごとを避けるために犯罪奴隷ということにしているが、何の罪もない普通の女だよ。子供の世話が得意だと聞いたので二人の面倒を見させている」
レイナと俺に睨まれながら気まずそうに支部長が答える。
捨てられた犯罪奴隷のこどもが二人に犯罪者でもないのに犯罪奴隷にされてしまったアイシャさんか……。
「セレストさん。アイシャはとっても優しくて面倒見もいいし、ルビィとノルもとっても可愛いいんですよ! 救ってあげたくないですか!?」
「救うって言ったって……俺が雇ったとしてそれが三人を救うことになるの?」
というか、レイナも島に来たのは俺と一緒なのにどうしてそんなに三人に思い入れがあるんだよ。
「ありますよ! だってこの島の奴隷は待遇はマシとは言え、それなりの重労働をしているんです。それなのに三人は仕事をしないで同じ食べ物や衣服を支給されているんです。それを良く思わない他の奴隷だっているんです!」
「……レイナの言っていることは本当?」
支部長ではなくアイシャさんの方を向いて尋ねてみる。
「ええ……そうですね。働いていないのだから食べ物をよこせ、とはよく言われています。もちろん、そういうときは私の食べ物を渡しているのでルビィとノルの食べ物は守っています」
「こちらも気を付けてはいるが……元は犯罪奴隷だ。見えないところで悪さを企てる者もいる。不満をなくすために仕事を見つけてやりたいとは思っていたんだ」
アイシャさんの言葉にしかめっ面をした支部長がそう付け加える。
正直に言えばギルドでどうにかしろよと思わないこともないけれど、犯罪奴隷が勝手に産んで捨てたルビィとノルを育てていることを思えばそれだけでも十分に厚遇しているとも言えるのか。
「納得はいかないし、俺はギルドの実情に詳しい訳じゃあないので俺が三人を雇うことで何がどう良くなるのかはわかりませんが……わかりました。三人を雇います。その代わり、ちょっとくらいは協力してくださいよね」
何より、あれこれ考えたところで……レイナの頼みを断るのは気が引けるし、アイシャさん、ルビィ、ノルのことを放っておく気になんてならない。
「うむ。できる限りの協力は約束する」
「さっすがセレストさん! だーい好き!」
襟首を引っ掴んでいたレイナが今度はがばっと抱き着いてきた。
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