第2話 新大陸への切符

 ゼノファリアを発って2ヶ月が経つ。


 僕——いや、もうファビュラス家のひとり息子としてジェドと同一人物として振る舞う必要はない。


 むしろ、ジェドやファビュラス家とは無縁の人間である方が好ましい。


 だから、だ。


 俺は一般的な庶民の服装の上に茶色の外套を重ね、フードを目深に被ることで特徴的な赤髪を隠して旅をしている。


 2ヶ月という長い時間を掛けて人気のない森や山路を選んで徒歩で南下し、いくつかの国に密入国や出国を繰り返して大陸南端の港町に辿り着いていた。


 さて……生まれて初めての船旅だ。

 船の上での生活を考えれば、身を隠して船に乗り込むよりも正規の手段で乗り込みたいものなのだが……。


「どの船もとんでもない値段だ」


 船着場に転がっている木箱に腰掛けて思わず項垂れてしまう。


 実家を発つ際には両親から半年は暮らせる程度のゼノファリア金貨を受け取っていた。

 けれど、廃嫡され存在しない人間となった俺がゼノファリア金貨をたくさん所持しているのはあまり好ましくない。


 ゼノファリアとの接点を少しでも減らすため、通過した国々で少しずつ通貨を両替していったのだが……結果として度重なる両替による手数料と税により所持金の4割程を失ってしまっていた。


 馬車も使わず野宿をして節約してきたが、まさかそれでも船に乗るのに必要なお金が足りないとは思わなかった。


「はぁ……魔物でも狩って金を稼ぐか? しかし大陸を出る前にあまり目立ちたくはないんだけどなぁ」


 天を仰げば自然とため息が漏れる。

 どこまでも続く空の青と大海原の境界を白いカモメが飛んでいく。


「あら、お兄さん! 魔物を狩りたいんですか!? しかも新大陸に行きたそうですね!」


「んん?」


 突然、知らない女性に声を掛けられて、視線を戻すと目の前に——やはり知らない女性が立っている。


 明るいブラウンの髪ににこにこと朗らかな笑み浮かべる俺より5つか6つは年上だろう女性。


「驚かせてごめんなさい! 私は冒険者ギルド新大陸支部のレイナよ。あなた、魔物を倒す自信があるならよかったら冒険者ギルドの新大陸支部に登録してみない? いまなら登録すればとーっても安く船に乗れるわよ!」


 愛嬌たっぷりの笑顔にパチーンとウィンクしてみせるレイナ。


 なんだか話がうま過ぎる気がするんだけど……。


「行くよ」


 どうせ他に当てがあるわけでもないし、何か企んでいるとしても俺の魔法ならどうとでもできる。


 即答し、俺はレイナに案内されるままに冒険者ギルド新大陸支部とやらに冒険者登録をすることに決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る