第42話ㅤ千日手
一定の距離さえ離していればヤツらは動かない。その場から動こうとはしないモノの、視線......のようなモノはこちらへとずっと向けられている。
目は無い。よく言う残留思念のようなガスのようなモノで、顔などのパーツは無く、ただ浮いているだけなのだが、視線を感じてしまいソレが不気味で集中できない。
自分は本当にこのレイスに勝てるのか不安になってくる。
格上だろうが怪物だろうが、攻撃さえ通ればなんとかなる。こちらが再生不可になる前に殺し切れれば勝ちなのだから。
我ながら脳筋だとは思うが......
「どうすれば勝てる......」
たっぷり時間を取って考えたが、何も思いつかない。RPGならば物理が効くのだけれど、このタイプは効きそうにない。
魔法もゴーストタイプに効きそうな使い方はこれまでしてきていない。
要するにお手上げだ。
「アハハハハ......もうコレはどうしようもないや、直接攻撃は相手の攻撃も効かないだろうし、なるべくデバフを喰らわないように気を付けながら、霊体に有効打を与える方法を考えるしかないかなぁ......考えても無理なら動かなきゃね......」
自分に出来る事はずっと変わらない。
人間の......いや、知性を持つ生き物にだけ許された思考するという特権を放棄し、特攻する事を選択。相手もその気配を察したのか、明らかに気配が変わった。
荷物を扉の前に起き今の自分の最強装備である金砕棒を右手に、左手に肉食ナイフ。予備の棍棒は邪魔だけど必要になるかもしれないので一応腰に差し込んでおく。
自分の手持ちのカードの中で唯一有効打になるかもしれない炎をそれぞれに纏わせてからレイスに向かい駆け出した。
「これで死んでくれたら嬉しいなぁ!! アハハハハハハッ!!」
呪いのレイスに向かって炎を纏った食肉ナイフを突き付ける。
しかし霞や靄に手を翳した時のように突いたナイフからは何の手応えも伝わって来ず、本体の半透明な体には穴が空いただけ。それも直ぐに元通り。
物理は効かなくても、魔法ならば効くだろうなぁっ......と、いった安直な思考は全く意味を為さなかった。
「ハハッ、これはまぁ......なんと言うか、無理ゲーじゃない?」
重くなった左手、触っただけで呪いを掛けられたのかと思って左手を見てみると、レイスと同じ靄が自分の左手に絡み付いている。
「......呪いのレイスは四肢を触れば良し、病気のレイスは吸い込ませれば良し、もう一体の謎レイスは......なんかすれば良し。こっちの攻撃はノーダメージ。無理だな......アハハハ......ハハハハハハハ......」
どうすればいい......どうすればヤツらに有効打が与えられる?
避け続けるのは無理に等しい。病気は状態異常耐性でどうにかなるかもだけど、呪いは不味い......
「クソがっ!!」
音もなく近寄ってくるレイスをナイフで斬り裂く。やっても効果やダメージは無い......無いが動きが一瞬止まる。
それとこの行為で判ったが、ナイフの刃先で振れたら呪いは受けなかった。どうやら自分の肉体に直接触れないとヤツらのデバフは効かない。これならば......まだ何とかなる。
このままであるのなら倒せはしないが、負けはない。
ただこちらは人で相手はモンスター、それに加えて一対三。今のこの膠着状態のまま戦況が動かないなんて事は有り得ない――
◆◆◆
お互い決め手に欠けたまま、時間だけがどんどん過ぎていく。振り払い、避け、振り払い、避けの繰り返し。そのルーティンの隙間、集中力が切れた瞬間に避けきれずに被弾して削られる。
......身体が重い。
......身体がダルい。
......身体が痛い。
ジワジワと呪われた部位が増えていく。
病原体が空気に混ざって体を侵していく。
いつの間にか体が切れて血が流れ出る。
「ハァッハァッ......キッツいなぁ......」
呪いと病に蝕まれながらも動き続けた身体には疲労が溜まるも、止まれば一気にヤられるので止まれない。
「ガァァッ!!」
纏わりつこうとする影を金砕棒で振り払い距離を取る。鬱陶しい......
何故、自分はこんな思いをしているのだろうか。
こういう時、物語の主人公とか人生を楽しんでいるようなヤツならば、負けそうになったら急に力が覚醒するとか、間一髪で仲間が助けに来るとかの胸アツ展開があるんだろうなぁ......ムカつくなぁ......
「アハハハ......そんな都合よく誰かが助けてくれるようなヤツは皆、自分の敵だなぁ......アハハハハハァッ!! 今もアイツらは自分の事なんて忘れて楽しく生きてるんだろうなぁっ!! ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな......皆死ねよ!!」
呪いや病気、謎の出血、当たらない攻撃、嘲笑うレイス、疲れで上手く回らなくなってきた頭。
ストレスと疲労の中で頭に浮かびあがるのは、理不尽に自分を甚振ってくる醜く歪んだ顔と笑い声。
「アハハハハッ!! 黙れ黙れ黙れ!! 五月蝿いんだよっ!!」
レイスが憎いアイツらに見えてくる。笑い声など上げていない筈なのに、耳元でアイツらの笑い声が聞こえる。
「死霊風情が生者を妬むなよ......お前らは運がいいな。普通は一度しか死ねないのに二度も死ねるんだから......アハハハハッ......死ね」
破れかぶれになりながら、ナイフと持ち替えた棍棒を一頻り振り回し、棍棒が当たって一瞬動きが止まったレイスを霧散させるイメージで、ありったけの力とストレスを込めてぶん殴った。
その後の事は知らない。致命的な隙が生まれるだろう。来るなら来い......憑り殺すせるなら殺ってみろ。
木の棍棒は地面にぶち当たり、地面を揺らし、当たった部分にクレーターを作った後に砕け散った。
「......アハハハハッ!! スッキリした。さぁ、来るなら来い」
致命的な隙を晒しているが、いつまで経ってもレイスが追い討ちをかけてこない。
「アハハハ......助かった。何があった?」
何故か動きが止まったレイスについて、体勢を立て直し、ストレス発散してスッキリした頭で考え始めた。
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吉持ㅤ匠
闘人
Lv:42
HP:100%
MP:100%
物攻:110
物防:1
魔攻:60
魔防:1
敏捷:110
幸運:10
残SP:6
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残110.2L
不死血鳥
状態異常耐性Lv7
拳闘Lv5
鈍器Lv8
小剣術Lv4
簡易鑑定
空間把握Lv7
投擲Lv7
歩法Lv4
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
肉食ナイフ
魔虎皮のシャツ
悪魔大土蜘蛛のバンテージ
合成皮革のズボン
再生獣革のブーツ
魔鉱のブレスレット
悪夢の棍棒
剛腕鬼の金棒
丈夫なリュック
厚手の肩掛け鞄
黒革のナイフホルダー
予備の服一式×3セット
ババァの店の会員証ㅤ残高740
魔石多数
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