第26話ㅤ覚醒
ぼんやりとした意識が、少しずつハッキリしていく。体の感覚はまだ無い。
目は......まだ開かない......だが、周りで何が起こっているのかは大体判る。まるで全身が高感度なセンサーのようだ。やばい......脳が焼き切れそう......だけど、焼き切れた側からどんどん再生されていく......
目で見なくてもここまで周囲を知覚する事が出来るモノなのか――
ナイトトロルに何をされたのかわからないまま戦闘不能にされた影響からか、このよく分からない感覚がこれから先大事になってくると、本能的に理解し、この感覚を一秒でも早く覚えようと深く集中していく。
重要な器官が皮膚や肉に邪魔をされず、剥き出しで鋭敏になっている神経が周囲の状況を察知していく。
剥き出しになっている神経から感じる微細な空気の振動により、目で見るだけでは知覚できない立体的な空間把握を可能にした。
人間の脳はリミッターが付いており、普段はその全てを使用することはなく、普段から使用していれば身体がそれに耐えきれずにすぐに廃人になってしまう。
所謂火事場の馬鹿力と呼ばれる現象は、死に瀕した時にそれを避けようとして使用されていない脳をフル活用して発揮される為に起こる現象だ。
実際に死んだと同義な状況に陥った事で火事場の馬鹿力が発動し、身体を全力で再生している最中なので、脳がオーバーヒートした瞬間に即座に再生、そしてまたオーバーヒートし、また再生......その繰り返し。
考える事しか出来ない事が功を奏し、その過程で脳がそれに耐えきれるように作り替えられていく。まるで千切れた筋繊維が再生する中で、どんどん強くなっていくかのように――
◆◆◆
「なるほど......自分が殺られたのは、あのトロルが使う魔法の所為だったのか......あの馬鹿げた火力と、不意打ちに特化したような魔法......属性が違うから参考には出来ないけど、あのやり方は為になるなぁ......」
身体の再生が全て完了した。
全身を損壊したのは初めてで、アホみたいに血液が使用されたが無事に戻ってこれた。もし貯蔵していた血液で足りていなかったら不味かったがどうやら足りたようだ。
しかし、これまでずっと必要な量以上にあった血液がほぼ空になった影響からか、体調は最悪、そして丸腰。依然危険な状況には変わりない。
だが不思議とこのままトロルに挑んでも、全く負ける気はしない。それほどまでに一度死んで新しく作り替えられたこの身体から送られてくる万能感が凄まじかった。
全身の再生に使用した血液は多分40.0L。
再生の最中に何度か脳が損傷した感じがあるから、残りは脳を治す為に使っていたんだと思う。
規定値以上に血液を持っていたら、そのほぼ全てを使って身体をアップデートさせながら再生させるのか、今ある血液の中で上手く遣り繰りして足りなくても身体っぽく仕上げるのかはわからない。
久しく感じていなかった空腹や乾きも感じているのは、きっと色々足りていないからだろう。
ただ一つ言える事は、動けさせすれば後はどうにかなる。足りない分は倒した相手にどうにかしてもらえば問題はないという事。
それでも攻撃を一度受けてしまえばもうどうしようもない状況という現実と、武器が無い事を鑑みて残してあるステータスを振る事にした。
今更防御を上げた所で、絹ごし豆腐が木綿豆腐に変わるくらいの変化しかない。攻撃によって負う怪我は無視することに決め、防御面はこれ以降もガン無視に決定。
攻撃も現時点では問題無く通っているのでこれも今回は無し、魔攻は焼け石に水程度の変化しかないだろう。なのでこれも無し。
残りは幸運と敏捷だが、転んだ拍子にクリティカルが発生するかもという希望的観測は排除し、一撃でも受けたらアウトな現状は回避や反射神経の底上げになる敏捷一択となる。
なので迷わず敏捷に全て振り、自分のお気に入りの武器を愛でて悦に浸っているトロルの殺害へと動き出した。
――身体の復元中に観察して判ったことがある。それはナイトトロルのナイトは騎士ではなく、夜という意味だった。
音も気配も無く自分を潰した能力は完璧なまでの気配遮断能力。全身を一度黒い霧で覆うと数秒だけナイトトロルの存在を全く知覚出来なくなった。
気配を遮断したまま敵を殺せば......と思ったけど、どうやらデメリットとして移動以外の行動が出来ないらしい。
攻撃に移る場合は必ず姿を見せる。これだけわかっていれば、もう二度と不意打ちで殺される心配はない。
再生中に生えたのか、空間把握というスキルがあれば背後に現れてもすぐに察知、反応できるようになった。その代わり部屋の外はわからないから一つの空間でしか使えない能力だろう。それでも十分強力なスキルだ。
武器にご執心なトロルに向けて走り出す。
だがこの動きはフェイク。本当の目標はトロルの脇に置かれた木の棍棒の奪取。
無手でも倒せなくは無いが、事故が起きる可能性、ミスをする可能性は無視できない。
自分の接近に気付いたトロルが一度驚いたようなリアクションを見せた後、金砕棒を慌てて横薙ぎに振るう。
空間把握で軌道を確認した後、それを落ち着いてしゃがんで躱し、振るった事で出来た隙を突いて目標としていた棍棒を奪取。これで準備が整った。
「アハハハ......さぁ、リベンジマッチの時間だよ」
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吉持ㅤ匠
Lv:53
HP:100%
MP:100%
物攻:40
物防:1
魔攻:10
魔防:1
敏捷:40→50
幸運:10
残SP:0
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残0.9L
不死血鳥
状態異常耐性Lv2
拳闘Lv4
鈍器Lv4
簡易鑑定
空間把握Lv3
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
肉食ナイフ
布のシャツ
丈夫なズボン
再生獣革のブーツ
魔鉱のブレスレット
丈夫なリュック
鱗皮のナイフホルダー
ババァの店の会員証ㅤ残高135
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