作家編集side4

「……逃げられました」

 果たせなかった任務を直視したくないように若干視線をそっぽに向けて、海岸入り口で地面に正座する天色に、少し休憩してついてきた創務省職員(天色に声をかけた奴)は悔しそうに指を突きつける。

「何を取り逃がしてんのよ、あともう少しだったじゃないのよ!」

「すいません……」

「着地したあとにあの男がくっちゃべっている間に立ち上がれてたら捕まえられてたわよ!」

「申し訳ない……」

「反省しているの???」

「面目ない……」

 悪いことをしたと理解して、耳と尻尾を垂らした柴犬のような雰囲気を纏って沈み込む天色に、職員の喉が鳴る。――こいつをもっと責めてみたら、どんな顔をするのだろう?

 そんな職員の背後から、軽薄な男の声がかかってきた。

「しょうがないじゃあないッスか、先生は力尽きるまで創務省に協力したんス――そこまで責められる謂れはないんスよ」

「!!?」

 職員が振り向けばそこには前髪の長い男が若者を二人連れていた。

 うざいほど長い前髪の男――重野トクヒコが次の言葉を放つ前に、連れてきた二人が天色に声をかけてくる。

「天色さん、編集者さんから聞きました――不審者との追いかけっこ、お疲れ様です!」

 サメモチーフのパーカーを着た女性がズビシ、とコミカルな敬礼を見せる。

「海岸で黒スーツと革靴そない格好で追いかけっこしはるなんて暑ぅないんですか、編集さんがラムネ買うてくれたんで飲みましょ。天色さんの分もありますよ」

 レモン柄のアロハシャツを着た青年が持つ三本の青いガラス瓶の中で――ビー玉がカラン、と音を鳴らす。

「――甘田川さん、柳田さん」

 二人のツクリテの顔をその職員は知っていたらしい。ツクリテ二人の隔てない態度に、ようやく職員も天色シュウの所属を悟る。

「な……そいつ、うちの創務省新人じゃないの!?」

「よく間違えられるんスよねぇ、でもいちいち命令される言われも所以もないんスよね――気持ちは分かりますけれど」

「……」

 重野が分かるとは――? 創務省職員は一瞬疑問に思ったが、状況を理解して頭を下げる。

「……わ、悪いことをしたわね」

 案外素直に非を認めた職員に、天色は逆に驚いたように手を降った。

「いや別に……ウワァ冷たッ」

 天色の頬に、冷えたガラス瓶が押し当てられる。

「ほらほら、せっかくのラムネがぬるくなっちゃいますよ天色さん!」

「ほっぺに押し付けたらもっと温くなるんじゃ……ウワァッ冷たッ!」

「ウワァはこっちの台詞ですわ。なんやねんこのアッツアツの背広。ホラ、早いとこ日陰に行かな……」

 二人に日陰へ連れて行かれる担当作家を見て、重野トクヒコは手を振った。

「んじゃ、オレ創務省から追加で連絡がないか確認して来るんで。いいですか先生――」

「分かっていますよ、海には絶対に入らないんで」

 宣言されたことで安心したか、重野が大きく頷いた。

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