作家編集コンビside2 エガキナマキナ第一企画『回想死因』参加作品
創務省の要請に応じて続々と集まってくるツクリテとニジゲン――を、ビジネスホテルの窓から見ながら重野はふと考えた。こんなに人手があるのなら、天色の出番はないのではなかろうか。
重野篤彦の伯父である、重野礫比斗が死んでもう二十年ほど経つ。子供が生まれていい大人になるまでの期間が経ったとしても、伯父が死んだ時のショックは薄れない――人はいつか死ぬ。日常的に戦地へ向かうツクリテならば尚更のこと。そして、死んだらそれまでの繋がりは霧散する。
伯父が生きていた頃は気軽に入れた書庫も、会えたニジゲンも、伯父が死ねばもう入れなくなった、会えなくなった。
「……」
図書館の閉架書庫に残されていた古い漫画の単行本、二十歳の誕生日に鍵を受け取った伯父の屋敷、そして再会していた「書庫にいるアレ」──もとい伯父の近所に住んでいた人間の少女であり、現在の担当作家である天色
(先生だけでなくオレにも効くとは――危険が過ぎる没ッスね!!!)
重野がそんな風に震えていると、窓を覗いていた天色がぽつりと呟いた。
「そろそろ街に出て創務省に協力したほうがいいんじゃないですか? もう知り合いのツクリテさんを何人か見かけてるんですよ、挨拶したいし協力したい」
「……そうスね」
気のない返答に、天色シュウは怪訝な表情を浮かべる。
「編集者サン、今回はあたしに情報をひとつもくれませんけど、どうしたんです?」
「……今回は先生ではとどめを刺せられない、超大型没なんスよ」
列車内で言ったことを繰り返せば、天色はそのまま頷いた。
「ふぅん――」
「没は毒胞子を出すので、マスク着用必須ッス。あと、海岸には絶対に行っちゃあかんッス。海岸入り口で待機して、海に行こうとする人を捕まえて拘束型ニジゲンさんとか、創務省の職員さんに引き渡してください」
「……まぁ、言うとおりにしておきますよ」
知りたい情報はまだ、じゅうぶん渡されていなくて彼女は不満である――それは重野にも理解できた。しかしそれでも引いた天色を見て――いや、その表情を見てから重野は慌てて声をかける。
「いくら資料写真が欲しいからって超大型巨大没がいる海岸や海中にはどんな理由があろうと行っちゃダメ、スからね」
「繰り返さなくても分かっていますよ」
ぶぅと口を尖らせる天色シュウに、重野は不承不承に呟いた。
「……さっきの先生、欲しい史料を渡されなかった時の伯父の顔と似てたんスよ。伯父さん、欲しいものを手に入れるためなら発言の穴をめっちゃ突いていく人だったんで――」
話していると、重野はかつて伯父と交わした会話を思い出した。
――オレ、海に行きたい
――おん。行きたいなら行けばええやん。驟……書庫にいるあいつも連れてったれ
――……伯父さんは一緒に行かないの?
――クソ暑い外に出るほど俺は阿呆やないわ。家でできる遊びがあんねん
――じゃあ、オレもそれで遊ぶ
――阿呆、一度言うた言葉をそない簡単に翻すもんやない。お前はあのガキ連れて遊びに行け
その日伯父は、子供達が留守の間に歴史研究者を自宅に招き――史料を賭け事で巻き上げたという事を知ったのは、伯父の書庫に遺されていた日記を読んだ二十歳の頃だった。
「……」
伯父は善人か悪人かで言えば間違いなく悪人であっただろう。晩年にあったとある出会いから、得られたちょっとした心変わりでくつがえされるような評価ではない。
ただ、少年だった自分には重野礫比斗――伯父は気の合う、馬の合う唯一の親族だったことは揺るぎないことで。
(あと、天色先生にもかなり影響を与えているッスよね……)
伯父亡き現在、きっかけは誰にも分からない――しかし、天色シュウは伯父に受け入れられたことを恩に着ているし現在までも慕っている。
「えぇ〜? 重野先生にあたし、そんな似てたんですかぁ嬉しいなぁ〜!」
相好を崩す天色を見て、重野篤彦は鼻を鳴らした。
「……あー、でもやっぱ伯父は誰かに似てると言われてそんなデレデレしないスよ。前言撤回、させてもらうス」
「一度言ったことをそんなに早く翻さないでくださいよ! あたし喜び損じゃないですかぁ……!!!」
大人になってから再会した担当作家は、むかし伯父が言ったような恨み言を言いながら地団駄を踏んだ。
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