76.

 正直、予感はしていた。

 アジトで怪人化していると聞いた時から薄々そうじゃないかって思っていたんだ。

 それをこうも面と向かって言われると…………やるせない。


「……だから、なに」

「レッドが完全に怪人になったら……透子さんは、コウセイジャーはどうするんですかねぇ」

「そんなの……!」


 殺される。聞かなくたって分かる。透子とは半年以上一緒に暮らした。だからこそ私には分かる。

 もしも私が人類の敵になってしまったら……躊躇なく、一切の加減なく私を殺すだろう。


「世知辛い世の中ですよ、全く」

「…………うるさい。グリーンには関係、ない」

「そうですか? 今ここで結社側に付けば殺されることは無いと思いますよ」

「……ッ!」


 今のは駄目だ。完全に…………頭きた。


「ぐううううううう! あああああああああああああああああ!」


 出力は最大に。加減は無しだ。

 

「…………付け焼き刃な言葉には踊らされませんか」

「これで今から殴る。私と……私たちに謝るまで殴る」


 間合いなんて考えない。相手の懐に踏み入り、殴る。ただ、それだけだった。


「ああああああああああああああああああああ!」


 相手の返事など待たず、飛び込む。

 殴る、蹴る。戦術とか、戦法とか。そんなものは一切考えない。思うがままに拳を振るう。


「ぐ……は…………」


 その猛攻を凌げるわけもなく、グリーンの体に火傷が増える。出血に火傷。いつ膝を突いてもおかしくない。



「これで……おしまいッ!」

「ぐあッ……!」


 避ける暇も、ガードする隙すらも与えない一撃。

 その攻撃をもって、ようやくグリーンは膝を突き、両手を上げた。



「ハァ……ハァ……。降参、です」

「さっきの発言取り消して」

「さっき……?」

「私は何があっても結社になんか肩入れしない。透子を……コウセイジャーを裏切ったりしない」


 強く、ここにいる全員に聞こえるように宣言した。

 この先なにが起きても変わらない私の意思。もしも私が怪人になって人類の敵になってしまったら……潔く自決するだけだ。


「ハァ……ハァ……分かっ、た。取り消す」

「ブルーは……無事?」

「息はある。……イエローと同じく虫の息、ですけどね」


 グリーンに反撃の意思はない。未だ薄ら笑いを浮かべるその顔を一瞥し、ブルーの元へと駆ける。

 さっきからぐったりとしていて、起き上がる気配はない。早く、救護チームに診てもらわないと————



「ぐぁ!」


 突然聞こえたグリーンの悲鳴に驚き、振り向いた。


「ハ……ここまで、ですか……」

『結社、鉄の掟。敗者は……分かっているな?』

「……分かって、います」


 ここにいない誰か。姿は見えないが声だけが聞こえる。加工された音声だ。誰が喋っているのか全く分からない。


「誰。そこで喋っているのは誰?」

「潔く、ここで——」

『遅い。お前のお喋りは聞き飽きた』

「な……⁉」


 爆ぜる音。悪臭。全ては一瞬だった。

 グリーンの体は四散し、大きな血だまりだけがその場に残った。



「なんて、ことを……。そこまで、そこまでするのか。結社は!」

『何故貴様が怒る? さっきまで殺意を剥き出しにしていたというのに』

「うるさい! うるさい!」


 目の前の光景が異常過ぎて、自分の目がおかしくなったのでないかと錯覚してしまいそうだ。

 生きているうちにこんなものを見てしまったら、もし地獄に落ちてもぬるく感じてしまうだろう。


「お前は……なんだ」

『…………』

「お前はッ誰なんだッ!」

『知っているはずだ。そこの裏切者に聞いているだろう』

「……ッ!」

「だから、お前は——」

女王クイーンだ」


 激昂する私の声を遮り、ブラックは静かに言った。

 女王? 女王だって?

 それは確か、結社の頂点————




『如何にも。私が……お前たちの敵だ』

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