65.
桜島に着き、最初に出迎えてくれたのは
「みんな、お疲れ様!」
「凛華も昨日からありがとう。島の状況は?」
「住人は既に避難済。今この島にいるのは結社と私たちだけです。今日は私と支部の通信チームがここで指揮を執りますね」
よく見ると離れた場所にスーツ姿の男の人が何人か控えていた。誰も知らない、見たことがない。どうしていいか分からなかったから、ひとまず会釈しておいた。
「アレ、ある?」
「あるよ。準備出来てる。しかも、ちゃんとカラーが分かれてる。どう、完璧でしょ」
「サンキュー、凛華さん」
さっきから具体的な主語がなに一つ聞こえない。だから、アレってなんなのさ——
「……え?」
近くの倉庫のシャッターが開き、ゆっくりとソレが姿を現す。
「バ、バイク?」
「これで移動するんよ、俺ら。
「青木さんも
「一応、免許は持ってます。ペーパーなので不安ですが……」
「僕は普段から乗ってるから」
三人とも自分のカラーのバイクへと跨る。中々、様になっていてかっこいい。私も乗れたら良かったのに……。
「それ、余りは無いんですか?」
唐突に
「一応、あるよ。一台だけ」
「それ、貸してもらえませんか? 運転は私が出来ます」
「えっ」
結月はバイクの免許なんて持っていない。それは絶対。ずっと一緒にいたから分かる。間違えようがない事実だ。それなのに、結陽は——
「結社にいた時に乗ったことがあります。大丈夫です。貸してください」
結陽の要望に応えるため、凛華さんは背後にいた支部の職員に何かを耳打ちした。
「良いけど、ちょっと待ってて。静音仕様に改造してもらう。作戦的に気づかれたらアウトだからね」
「分かりました。透子さん、まだ時間に余裕があるから良いよね?」
「良いよ。後ろに春を乗せてくれる?」
「もちろん」
黄川さん、青木さん、緑山さんは配置につくために一足先に出発した。運転は問題なく、重厚な排気音を鳴らしながら去って行った。
私たちの出発はもう少し後だ。場所的に黄川さんたちより近いから、時間はかからないはず。作戦には何の支障もない。
「改造終わりました。簡単な説明をしたいので、良いですか?」
支部のメカニックの男の人が結陽に何やら説明している。近くに立っていても何を話しているのか私にはさっぱりだ。
私もバイクの免許取ろうかな……。
「オーケー。行けるよ」
バイクに跨った結陽は後ろをポンっと叩いた。メカニックの人が気をつかって二人乗り出来るようにシートを付けてくれたらしい。
おそるおそる跨ってみると、思ったより狭い。長時間乗っていたらお尻が痛くなりそうだ。
「じゃあ、行こうか」
「うん。透子、凛華さん。行ってきます」
「気をつけてね。私がモニタリングしてるから、異常があったらすぐに知らせて。念の為、通信機は入れっぱなしでお願い」
「了解です」
ヘルメットをかぶり、ようやく出発だ。
結陽は鳴れた手つきでキーを差し込み、エンジンをかけた。黄川さんたちのバイクとは違い、排気音は鳴らない。
こんなに静かなバイクは初めて見た……。いつも外を走り回るバイクはうるさいくらい排気音が鳴っていたから。これなら夜に走っても迷惑にならなさそうだ。
「ちゃんと掴まってる?」
「うん。ちゃんと掴むところ持ってるよ」
ヘルメットに内蔵されたインカムのおかげでバイクに乗っていても会話できる。それにこういうのって、なんだかかっこよくて良い……。
「そこでも良いっちゃ良いけど……。私のお腹に手回して。そのほうがきっと安定するから」
「……こう?」
「そう。もっとぎゅっとして……そんな感じ」
結陽の腰に手を回す。これだと身体が密着して少し恥ずかしい。でも、このほうが安定するなら……。
『……二人の会話、全部聞こえてるからね?』
「え! あ、そっか……」
急に凛華さんの声が聞こえて、思わず手を離しかけた。通信は入れっぱなしって言ってたっけ……気をつけよう。
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