59.
「美味しい!」
嬉しそうにカレーを頬張る
やっぱり美味しそうに食べてくれるのが一番嬉しい。
家でも
「な? チョコレート入れたら高級感出るだろ?」
「はい。高級で……ちょっとクリーミーな感じ?」
「そうそう!
敬語を止めた
それを聞いて少しだけ、私と似てると思った。
「……
「ん? まだ良いよ。最後まで見届けてから行くから」
奥で掃除をしていた女の人、玲子さんが黄川さんにそっと声をかけた。この後なにか用事があるのかな。
というか、黄川さんの下の名前、旭って言うんだ。名前も性格も明るくて、かっこいいなと思う。
「ね。私たちは時間、大丈夫?」
「うーん……透子が集合は午後二時って言ってたし、まだ大丈夫。これ食べ終わってからゆっくり行けば間に合うよ」
顔合わせは支部で行われる。ここから電車でもバスでも、十分とかからない近い場所だ。
私も初めて行く場所だからあまり詳しくはない。透子から見た目はただの、どこにでもあるビルと聞いたくらいだ。
住所は聞いているし、地図を見て行けば迷うことはない。……はず。
「じゃあ、おかわり!」
もう一杯、ご飯とカレーをよそう。じゃがいもは多めでという注文付きだ。やっぱり自分で切ったものを食べたいらしい。
「よくそんなに食べられるね……。私はもう食べられないや。ごちそうさまでした」
いくら食べ盛りでも喫茶店を出てから数時間しか経っていない。昼ご飯には一杯で十分すぎる。というか食べすぎな気が……。
使い終わった食器を持って、シンクへと向かう。洗剤が普段使っているものとは違う。泡タイプのものだ。
実は前から使ってみたかったんだよね、これ。そんなに力入れなくても汚れが落ちるらしいし。
ワンプッシュ。
白い泡がお皿を包む。じっと様子を見ていると徐々に色が変わった。想像していたよりずっと汚れを吸い取ってくれてるみたいだ。やっぱりこれ、家でも導入しよう。使いやすい。
「ごちそうさま!」
元気の良い声が聞こえ、顔を上げる。
結陽はもう食べ終わったみたいで、お皿を持ってキョロキョロと周りを見渡している。
「結陽、こっち。お皿持ってきて」
「はぁい」
お皿にスプーンにコップに。結陽は一度に運ぶつもりなようで、両手に抱えている。ああ、お皿がグラグラと……。見ている私の方がヒヤヒヤする。
「っと……はい。これ、どうすれば良い?」
「洗剤で洗ってから食器棚に戻すんだけど……教えるから、やってみる?」
「やる!」
興味関心を持ってくれて嬉しい。もしかしたらこれからは家で一緒に料理が出来るかもしれない。結陽と一緒なら難しいメニューにだって挑戦できる。
それを見て透子も触発されて家事を覚えるかもしれないし。せめて私が不在の間に生活できる程度には身につけて欲しいと思う。
「二人は仲が良いんだね。学校の友達? 平日に遊んでるくらいだし……大学生?」
思ってもみなかったことを聞かれて、洗い物をする手が止まった。
しまった、今日は平日だ。ここで高校生なんて答えたら怒られる。最悪、学校に連絡されるかも……!
「家族だよ」
私が頭を抱えている間に、さらりと結陽は答えた。
「そうなんだ。姉妹かな?」
「そんな感じ」
それ以上、黄川さんは何も聞かなかった。
「ね、ねえ……」
黄川さんが離れるのを待ってから、結陽の袖を掴んだ。この話はあまり聞かれたくない。
「なに?」
「さっきの家族って…………」
「一緒に暮らすんだから家族で良いでしょ。君の顔に書いてあったよ。その話題はマズいって。ちょうど話が逸れたし、結果オーライじゃない?」
「それはそうなんだけど……」
高校生というワードから離れるために言ったのか。それとも結陽の本心なのか。私には分からなかった。
それでも私は……。
「……家族、か。私と結陽、どっちがお姉ちゃんなんだろうね?」
「私でしょ」
「いや絶対違う。私だって」
家族。とっくの昔に失って、もう二度と手に入らないものだと思っていた。
「誕生日は…………私の方が早いじゃん!」
「違う。結月と私は別だから。私の誕生日は……いつなのか知らないけど。君よりきっと早い。だから私がお姉ちゃん」
一緒にいればそれで家族。その曖昧さが今はありがたい。
「それで言ったら結陽が生まれたのここ半年じゃん。はい、論破」
「ぐぬぬ……。いや、でもきっと精神年齢が私のほうが上だし」
こんなくだらないことで言い合って。でも結局、最後はどちらかが折れる。
「じゃあ間を取って……双子ってことで良いんじゃない?」
「それなら……まあ……」
楽しいな。ずっとこんな時間が続けば良いのに。
透子と結月と結陽。ずっと四人でいられたら良いのに——
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