51.
私の予想を裏切らない部屋の荒れっぷりにため息が漏れる。まさか使った食器を一度も洗わず溜め込んでいるなんて……。
ぶつぶつと言い訳を続ける透子をよそに、必死に掃除する。このままだと今日の夜ご飯を作ることすら危うい。出来ればインスタントじゃない、ちゃんとしたご飯が食べたいから。
マンションに帰ってから二時間弱。なんとかキッチン、リビングを元の状態に戻すことに成功した。
透子をリビングに残し、
最後にこの部屋に入ったのは五日前。その時と何も変わらないはずのに、どこか空っぽのような、部屋が死んでいるように感じた。
窓を開け、空気を入れ替える。少しだけ部屋が生き返ったみたいだ。
私のベッドで横になっている結陽へと目を向ける。
「…………すぅ……」
結陽は眠ったままだ。次に目が覚める時は
「春、そろそろやろうか」
「うん。今、行く」
扉越しに透子が声をかけてきた。そろそろ掃除再開の時間だ。
自室に結陽たちを残し、例の開かずの部屋へと赴く。扉を閉じていても分かる、部屋の中で物が溢れる気配。
ビニール袋、手袋、それから念のためにと用意した火ばさみ。その三種の神器を持ち、いざ開かずの部屋へ。
「……うわぁ」
扉を開けるとがさりと何かが倒れ掛かってきた。
「あー……」
「……透子、これ捨てたって言ってなかったっけ?」
「いやぁ……捨てたと思ってたんだけど」
元恋人から貰ったアクセサリー、服、バッグ。何に使うつもりで買ったのか分からないパーティーグッズ、きっと買ってから一度も開けていないボードゲーム。今倒れてきたものだけでも十分フリマが開けそうだ。
「これはいらない、これも……捨てて良いよね?」
「えっ、ボードゲームはまだ使えるよ……?」
「やる予定あるの?」
「うーん……部屋に人が集まった時とか?」
容赦なくビニール袋へと突っ込む。抗議する透子の声が聞こえたが無視した。
このビニール袋には不要ではあるけどお店で売ったり、人にあげられるものを。そしてもう一つのビニール袋にはごみ捨てに出すものを。まずはその分別からだ。
「アクセサリー系はもったいないな……」
「元カレに貰ったものを身に着けるの……?」
「物に罪はないしなぁ……」
ネックレスやピアス、時計。かなり高価そうなものが一つの箱に仕舞いこまれていた。
……今まで何人と付き合っていたんだろう。
前に一緒に買い物に行った時に会った人が一番最後に付き合った人だと言っていた。背が高くて眼鏡をかけていた爽やかな人。
じゃあ、その前は?
「————春はどう思う?」
「……えっ? ごめん、聞いてなかった。なに?」
「私が元カレから貰ったものを使ってたら嫌?」
「嫌っていうか……」
……なんで、そんなことを私に聞くんだろう。そんなの透子の勝手だ。私には関係ない。ちゃんと透子の部屋に片付けてくれるならそれで良いはずだ。
「確かに物に罪は無いし。そんなの、透子の勝手……」
「本当に? 嫌じゃない?」
「……」
私の目を覗き込み、再度問いかけた。
そんなの、私は…………。
「い、嫌だ……見たくない…………見たらきっと、心が……ざわざわする」
「分かった。捨てるね」
私の返事を聞くや否や、透子は元カレとの思い出たちを全てビニール袋に突っ込んだ。……躊躇なく、全てだ。
「良いの? 捨てるかどうかなんて透子の自由なのに……」
「良いの。春が嫌がるものを身に着けたくないし。それに一年以上この部屋に押し込まれていたんだから、きっとこの先も使わなかったんだよ。だから良い機会だし、処分しよう」
もうこの話題は終わったと言わんばかりに、透子は次の箱へと手を伸ばす。
それを眺めながら私はぼんやりと考えていた。
……なんで私は元カレからのプレゼントを見たくなかったんだろう。
とっさに見たくないと言ったものの、私はその気持ちの正体が分からなくてモヤモヤしていた。
「ほら、春。手伝ってよ。次はこのでっかい箱を処分するんだから」
「……はいはい。って、なにその箱。そんなのいつの間に買ったの?」
透子に呼ばれ、ハッとする。
今は目の前の掃除に集中しよう。早くこの部屋を掃除して、結陽と結月が使えるようにしないと——。
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